アイノマタ探偵事務所の事件簿 〜笑来座密室事件〜③
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
お笑い劇場に仕掛けられた"声"のトリック。密室から消えたUSBの謎を、探偵とダジャレAIが追う ひとりが苦手な探偵・猪俣アイは、ダジャレ好きなAI「アイノマタ2号」を相棒に探偵業を営んでいる。ある日、小劇場「笑来座」から依頼が舞い込む。人気漫才コンビの決勝ネタが入ったUSBが、声紋認証のスマートロックで守られた楽屋から消えた。防犯カメラには誰も映っていない完全な密室。アイとアイノマタが音声ログを解析すると、廊下のスピーカーから合言葉が流れた痕跡を発見する。スマート機器の盲点を突いたトリックの先に待っていたのは、意外な真相だった──。
本文
第3話:AIが見抜いた音の嘘
事務所に戻り、送られてきた映像データと音声ログを、アイノマタに読み込ませた。
私はコーヒーを淹れ直して、分析結果を待つ。
十分後、アイノマタが報告を始めた。
『廊下の防犯カメラ、昨日13時04分に照度の微妙な変化を検出。天井スピーカーのメッシュ部分、微細な振動パターンを確認。音響システムのログを照合した結果、13時04分02秒に、廊下の天井スピーカーから短いジングルが再生されています。ジングルの音声波形を解析すると、背景に人の声が重畳しています。波形の包絡線から推定すると、女性の声。残響特性は廊下サイズの空間に一致。抽出された単語は、「笑って」「ゴー」』
私は手を止めた。
「つまり、昨日の昼過ぎ、廊下のスピーカーから合言葉が流れたってこと?」
『はい。しかし、問題があります。スマートロックの音声認証は、楽屋のドアに直接話しかける仕様。廊下のスピーカーから流れた音声は、通常は認証の対象になりません』
「じゃあ、どうやって開いたの?」
『楽屋内のスマートスピーカーのログを確認しました。13時03分58秒、ミュート状態が解除されています。続いて13時04分04秒、扉の開錠コマンドが送信されています。推測ですが、楽屋のスマートスピーカーが廊下の音声を拾い、それを「自分への命令」と誤認し、扉の開錠をリレーした可能性があります』
「それって、笑い話じゃない」
私は頭を抱えた。
楽屋のスマートスピーカーは、音声家電のハブとして、扉のスマートロックとも連携している。
誰かが廊下の天井スピーカーから合言葉を流し、楽屋のスマートスピーカーがそれを「自分への命令」と誤認して、扉を開けた。
そんなバカな――いや、バカげた仕様は、現実にはあり得るのだ。
便利さを追求するあまり、セキュリティの穴が生まれる。
人間の方が、便利さに弱いのだから。
「問題は、誰が流したかだね」
私は立ち上がった。廊下の天井スピーカーに音を流せるのは、音響システムにアクセスできる人間だけ。
つまり、PA卓を操作できる人物。
リストは三人。
PA担当の島岡、舞台監督の朝海、そしてマネージャーの木田。
三人とも、合言葉を知っている。
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