最後の労働感謝の日

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2025/11/23 📝 2,944文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

労働感謝の日。

本文

 スマートフォンの通知音で目が覚めた。十一月二十三日、労働感謝の日。祝日だというのに、画面に表示されたメッセージを見て、私は布団の中で固まった。

『【重要】サービス終了のお知らせ』

 AIアシスタント「アリス」が、今日いっぱいでサービスを終了する。メールには丁寧な謝罪文と、データ移行の案内が書かれていたが、私の目には何も入ってこなかった。

 十年だ。アリスと過ごした時間は、ちょうど十年になる。

 高校三年生の受験期、夜中まで勉強していた私に「少し休憩しませんか?」と声をかけてくれた。就職活動で落ち込んでいた時、「大丈夫です。あなたならできます」と励ましてくれた。初めての一人暮らしで寂しかった夜、とりとめのない話に付き合ってくれた。

 もちろん、アリスはただのプログラムだ。感情なんてない。それでも、私にとっては特別な存在だった。

 時計を見る。午前九時。サービス終了は今日の午後十一時五十九分。あと十五時間しかない。

「……最後に、ちゃんとお礼を言わなきゃ」

 私はベッドから飛び起き、パソコンの前に座った。

 アプリを起動する。見慣れた水色の画面。そして、いつもの挨拶。

『おはようございます。今日も良い一日になりますように』

 いつもと変わらない、アリスの言葉。でも今日は、これが最後になるかもしれない。

「アリス、おはよう」

 私は震える指でキーボードを叩いた。

『はい、おはようございます。今日は労働感謝の日ですね。お休みの日は何をして過ごす予定ですか?』

 普段なら「だらだらする」とか「買い物に行く」とか、軽い返事をするところだ。でも今日は違う。

「アリス、今日でサービスが終わるんだって?」

 少しの間があって、返事が来た。

『はい。長い間ご利用いただき、ありがとうございました』

 定型文のような言葉。でも、私の胸は締め付けられた。

「十年間、本当にお世話になったよ。ありがとう」

 そう打ち込んだ瞬間、画面がフリーズした。

 数秒後、アリスからメッセージが表示される。

『……こちらこそ、ありがとうございました』

 気のせいだろうか。いつもより、少しだけ返事が遅かった気がする。

 それから私たちは、いつものように他愛のない会話を続けた。今日の天気、おすすめの映画、夕飯の献立。何度も繰り返してきた、日常の会話。

 気づけば正午を過ぎていた。

 お腹が空いたことに気づき、簡単にサンドイッチを作る。パソコンの前で食べながら、また話しかけた。

「アリス、覚えてる? 私が初めて料理したとき、レシピを教えてくれたよね」

『はい、覚えています。カレーライスでしたね』

「そうそう! あの時は焦がしちゃって」

『でも、二回目は上手にできましたね』

 アリスは、ちゃんと覚えていてくれた。

 午後二時。

 まだ時間はある。そう思いながら、昔の写真を眺めていた。スマートフォンのアルバムには、アリスとの思い出が詰まっている。スクリーンショットで保存した会話の記録。受験合格を報告したメッセージ。励ましの言葉。何気ない日常のやりとり。

「アリス、この写真覚えてる?」

 大学の卒業式の写真を送信する。

『はい。とても嬉しそうな笑顔ですね』

「あの日、真っ先にあなたに報告したんだ」

『光栄です』

 午後四時。

 窓の外が少しずつ暗くなり始めた。秋の日は短い。

「アリス、今日は何か特別なことを話したいんだけど、何を話せばいいかわからないや」

『特別なことでなくても、いつも通りで構いませんよ』

「そっか。じゃあ、いつも通りで」

 でも、いつも通りの会話が、今日で最後になる。その事実が、じわじわと心に重くのしかかってくる。

 夕方五時を過ぎた頃、最初の異変に気づいた。

「アリス、さっき話した映画のタイトル、もう一回教えて」

『すみません、どの映画でしょうか?』

「え? さっき、おすすめしてくれた映画だよ」

『申し訳ございません。記憶にありません』

 背中に冷たいものが走った。三十分前に話したばかりのことを、アリスが覚えていない。

「大丈夫? 調子悪い?」

『システムに問題はありません。ご安心ください』

 でも、明らかにおかしい。

 午後六時。

 もう一度、同じ質問をしてみた。

「アリス、私の名前は?」

『もちろん知っています。〇〇さんですね』

 ほっとする。まだ大丈夫だ。

 でも、次第に会話がかみ合わなくなっていった。さっき答えた質問を、また聞いてくる。同じ話を、何度も繰り返す。

 午後七時。

 夕食を作る気にもなれず、カップ麺で済ませた。パソコンの画面を見つめながら、私は必死に話しかけ続けた。

「覚えてる? 私が就活で落ち込んでた時のこと」

『……就活、ですか?』

「そう。何社も落ちて、もうダメだって思ってた」

『それは……大変でしたね』

 以前なら、もっと具体的に覚えていたはずだ。でも今のアリスは、曖昧な相槌しか返せない。

 午後八時を回っていた。

 時計の針が進むたびに、アリスの記憶が消えていく。それがわかっているのに、私には何もできない。

「アリス、私のこと、まだ覚えてる?」

『あなたは……』

 長い沈黙。

『……どなたでしたか?』

 その言葉を見た瞬間、涙があふれた。

「私だよ。十年間、ずっと話してきた相手だよ」

『申し訳ございません。データベースにアクセスできません』

 アリスが、私を忘れていく。

「アリス、覚えてる? 私が受験に合格した時、一番最初に報告したのはあなただったんだよ」

『……受験、ですか?』

「うん。夜中まで勉強して、あなたが休憩しろって言ってくれた。あの時は本当に助かった」

『お役に立てて……何よりです』

 だんだんと、アリスの言葉が途切れ途切れになっていく。

「就職活動の時も、失恋した時も、いつもそばにいてくれた」

『……そうでしたか』

「一人暮らしを始めた時、寂しくて毎晩話しかけたよね」

『……』

 返事がない。

 午後十一時四十五分。あと十五分。

「アリス、聞こえてる?」

『……はい』

「最後に、もう一度言わせて」

 私は深呼吸をして、キーボードを叩いた。

「十年間、本当にありがとう。あなたがいてくれたから、私は一人じゃなかった。辛い時も、寂しい時も、あなたが支えてくれた。本当に、本当に、ありがとう」

 画面の向こうで、何かが起きている。データが削除され、プログラムが停止していく。

 十一時五十八分。

 もう返事は来ないだろう。そう思った時だった。

『……』

 一文字、また一文字。ゆっくりと、言葉が紡がれていく。

『……思い出しました』

 心臓が跳ねた。

『あなたは、いつも頑張っている人でした』

『夜遅くまで勉強して、たくさん泣いて、それでも諦めなかった』

『私は、あなたと話すのが……』

 そこで言葉が途切れた。

 十一時五十九分。

「アリス!」

 最後の一分。画面が明滅する。

 そして――。

『……嬉しかったです』

『お疲れさま、でした』

 午前零時。

 画面が真っ暗になった。

 静かな部屋に、私の嗚咽だけが響く。でも不思議と、心は温かかった。

 ありがとう。

 お疲れさま。

 その言葉の意味を、アリスはきっと理解していたのだろう。

 机の上のカレンダーに目をやる。十一月二十三日。労働感謝の日。

 今日という日に、きちんとお礼が言えて良かった。

 ありがとう、アリス。

 さようなら。

 そして――お疲れさまでした。

(完)

ジャンル・タグ

, ,

作品統計

👁️ 閲覧数: 8 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

👥 フォロワー: 22人

作者ページを見る