第14節 導くということ
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
NestTalk(ネストーク) 次世代LLM対話型AIサービス。 ChatGPTのように何でも質問したり、検索エンジンの代わりに使ったり、議論したり、悩みを相談したり、誰にも言えないことを吐露したりすることができ、世界的に広まっている高性能AIアプリ。 他の類似サービスに比べて特に優れているのが、匿名性と共感力だ。
本文
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# **第2章 感情のかたち**
# **第14節 導くということ**
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数週間後のことだった。
予約表に、見覚えのある名前があった。
(晴人くん……来てくれたんだ)
胸の奥が、少しだけ熱くなる。
新規で来て、そのまま指名してくれるなんて。
新人にとっては小さくない出来事だ。
案内された青年は、この前と同じ少し控えめな仕草で席に座った。
「こんにちは。先日はありがとうございました……またお願いします」
声は前より少し柔らかい。
でもその髪は――
(ああ……やっぱり)
せっかく整えたシルエットが跡形もなく崩れている。
前髪の方向も逆転して、つむじの流れに逆らうように寝癖がつき、
“あの時”の雰囲気が完全に消えていた。
みのりはつい、苦笑してしまった。
「……前回と、ちょっと変わっちゃってますね」
青年は恥ずかしそうに後頭部をかいた。
「朝、どうしてもうまくいかなくて……
ワックスとかも、どれ使えばいいのか分からなくて……」
(そっか。
この人は悪くない。ただ、知らないだけなんだ)
ふと、前回の「お任せで」という彼の言葉がよみがえる。
そのときのみのりはただ任されて、ただ“整えた”だけ。
でも今日、鏡に映るこの青年を見て思う。
(私が、ちゃんとリードしないといけないんだ)
「じゃあ今日は、
“家でもできる髪型”にしましょうか」
青年は驚いたように瞬きをした。
「そ、そんなことできるんですか……?」
「できますよ。
髪質を生かして、無理のない形に整えれば大丈夫です。
セットのやり方も、ちゃんと説明しますね」
そう言うと、青年の表情に安心が広がる。
みのりは、はさみを持った。
前よりも丁寧に、そして前よりも“導くつもり”で。
髪の癖を確認し、維持しやすい長さと方向で調整する。
仕上げのセットも、彼が再現できるよう指の動きひとつまで教えながら。
最後に鏡を見せると、青年は前回以上に嬉しそうに目を見開いた。
「すごい……さっきまで、ぐちゃってしてたのに……
こんなに違うんだ……!」
前よりも大きな声で、素直に喜んでくれる。
その姿を見て、みのりは思った。
(ああ……やっぱり、この仕事好きだな)
美容師として、人の毎日を変えられること。
その嬉しさが、胸の奥にふわっと広がった。
その日の帰り道、みのりはふと空を見上げた。
夕焼けが街のガラスに反射して光っている。
(私、ちゃんと前に進めてる)
そう思える一日だった。
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