働いて働いて――それで、私たちは?
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
——その言葉の意味を、僕らはまだ知らない。 今年の流行語大賞として選ばれた高市総理の「働いて働いて働いて‥」このニュースを見た、とある大学のゼミ生4人が「働くとは何か?」をディスカッションしていきます。
本文
四人は、しばらく黙っていた。
ゼミ室の窓の外で、街灯が静かに光っている。遠くで、電車の走るの音が聞こえた。
12月の夜は、静かで冷たい。
陽佑が口を開いた。
「でもさ、それでいいんじゃないですか」
「え?」
詩音が顔を上げた。
「答えなんて、最初から見つからないって、六角さんが言ってたでしょう。僕たち、まだ二十代前半です。正解は、これから働きながら、考えていけばいいんです」
勝浩も頷いた。
「僕も、大学院で法律を学びながら、自分が本当にやりたいことを探すつもりです。父親の期待に応えるのも大事ですけど、自分の人生は自分で決めたいです」
沙保が言った。
「私も、起業するって決めましたけど、正直不安ですよ。失敗するかもしれません。でも、やってみないとわからないし、失敗したらまた考えればいいです」
詩音は、三人の顔を見た。みんな、迷っている。不安を抱えている。でも、それでも前に進もうとしている。
「國本さんも、公務員になりながら、小説書けばいいじゃないですか」
沙保が提案した。
「え、でも……」
「両立できないって、誰が決めたんですか? 副業禁止の会社もありますけど、創作活動は別でしょう。それに、公務員になってからの方が、人生経験が増えて、いい作品が書けるかもしれませんよ」
「僕も、会社員になりますけど、恋人との時間は大切にします。仕事だけの人生なんて、つまらないですから」
「僕も、法律の勉強しながら、もっと自分の興味を広げてみようと思います。父親の期待に応えるだけじゃなくて、自分が納得できる道を探します」
詩音は、少しずつ気持ちが軽くなるのを感じた。
「ありがとうございます。なんか、少し楽になりました」
沙保が立ち上がった。
「じゃあ、結論まとめましょうよ。『働くとは何か』」
陽佑がホワイトボードを見た。そこには、三人の言葉が書かれていた。
「多様性を認めること」
「自分にとっての意味を見つけること」
「その過程を楽しむこと」
「迷いながらでも、前に進むこと」
「そして、自分の選択を信じること」
詩音は、ノートにその言葉を書き留めた。そして、ふと思った。
「首相の『働いて働いて働いて参ります』って、もしかして、こういうことなのかな」
三人が詩音を見た。
「首相は、自分が働くことに意味を見出してます。それが、国のためであり、自己実現であり、生きがいなんだと思います。だから、あんなに何度も『働いて』って言えるんじゃないでしょうか」
陽佑が頷いた。
「確かに、義務感だけだったら、あんな言い方しませんよね」
「働くことを、ポジティブに捉えてるからこそ、ああいう表現になるんです」
「じゃあ、私たちも、いつか『働いて働いて働いて参ります』って言えるようになればいいですね」
「そうですね。それぞれの形で『働いて働いて働いて参ります』と言えるくらい、働く意味を見い出していたいですね」
陽佑が、ホワイトボードの一番下に大きく書いた。
「働くとは、生きることそのもの」
四人は、その言葉を見つめた。
働くことは、お金を稼ぐことだけじゃない。自己実現でもあり、社会貢献でもあり、人とのつながりでもある。苦しいこともあるけれど、楽しさもある。迷うこともあるけれど、それも含めて、働くことは生きることの一部なのだ。
詩音が、小さく笑った。
「なんか、就活、もうちょっと頑張れそうです」
「おお、國本さんがポジティブになってます!」
陽佑が驚いたように言った。
「でも、小説も書きますから。いつか、みなさんに読んでもらいたいです」
「楽しみにしてますよ」
沙保が笑った。
「じゃあ、私の起業の時は、広報担当よろしくお願いします」
「任せてください!」
勝浩が時計を見た。
「もうこんな時間ですか。そろそろ帰らないと、終電なくなります」
「あ、やばいです」
四人は慌てて荷物をまとめ始めた。
ノートPCを閉じ、カバンに詰め込む。陽佑がホワイトボードを消そうとして、手を止めた。
「これ、写真撮っておきましょうよ」
「いいですね!」
四人はスマホを取り出し、ホワイトボードを撮影した。そこには、今日の議論の全てが書かれていた。
「働くとは、生きることそのもの」
その言葉が、四人の心に刻まれた。
ゼミ室を出て、廊下を歩く。大学の廊下は静かで、足音だけが響いていた。窓の外では、12月の冷たい風が吹いていた。
「じゃあ、また来週」
「はい、またです」
「バイバイ!」
「気をつけて帰ってくださいね」
四人は、それぞれの方向に別れていった。
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