双子の姉妹と転校生
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
双子の姉妹と転校生の話。
本文
第一章 雪の日の出会い
朝、窓の外が白く染まっていた。
「お姉ちゃん、雪だよ」
月菜が嬉しそうに声をあげる。隣のベッドで目を覚ました陽菜は、むくりと起き上がって窓の外を見た。
「わあ、すごい。今年初めての積雪じゃない?」
「天気予報では今日一日降り続けるって」
双子の姉妹、陽菜と月菜は、生まれてからずっと一緒だった。同じ顔、同じ背丈、同じ制服。でも性格は正反対で、明るく社交的な姉の陽菜と、内気で文学好きな妹の月菜。それでも二人の仲は良く、毎日一緒に登下校していた。
「急がないと遅刻しちゃうよ」
「うん」
二人は慌てて身支度を整え、家を出た。雪はしんしんと降り続いている。通学路は真っ白で、足跡一つない。
「一番乗りだね」
陽菜が雪を踏みしめながら歩く。月菜もその後ろをついていく。二人の足跡だけが、白いキャンバスに描かれていく。
「寒いけど、きれいだね」
「うん。でも滑らないように気をつけないと」
高校まで徒歩で二十分ほど。いつもの通学路を、いつものように二人で歩く。これが日常で、これが当たり前だった。
この日常が変わるとは、まだ二人は知らない。
*
教室に着くと、クラスメイトたちが雪の話で盛り上がっていた。
「陽菜ちゃん、月菜ちゃん、おはよう」
「おはよう」
陽菜は元気に返事をするが、月菜は小さく会釈するだけ。いつものことだった。
「今日、転校生が来るらしいよ」
友人の一人がそう言った。
「え、この時期に?」
「うん。三学期も半ばなのにね」
珍しいこともあるものだと、陽菜は思った。
ホームルームの時間になり、担任の先生が教室に入ってきた。そして、その後ろに一人の少女がいた。
息を呑むほど美しい少女だった。
長い黒髪、透き通るような白い肌、切れ長の瞳。どこか近寄りがたい雰囲気を纏っている。
「皆さん、今日から新しい仲間が増えます。自己紹介をどうぞ」
少女は教壇の前に立ち、無表情のまま言った。
「白雪です。よろしくお願いします」
それだけだった。名字も言わない。趣味も言わない。ただ「白雪です」とだけ。
「雪の日に白雪さんが来ましたね」
先生がそう言うと、クラスが少し笑った。でも白雪は表情一つ変えなかった。
「席は……そうだな、後ろの空いている席に座ってください」
白雪は無言で指定された席に向かった。ちょうど陽菜と月菜の後ろだった。
授業が始まっても、白雪は一言も発さなかった。ノートに何かを書いているようだったが、誰とも目を合わせようとしない。
昼休み、陽菜は白雪の席に行った。
「ねえ、白雪さん。お昼、一緒に食べない?」
白雪は顔を上げた。初めて陽菜と目が合う。
「……いえ、結構です」
「そう? でも、転校初日で友達いないでしょ? 私たち双子なんだけど、妹の月菜もいるし」
「大丈夫です」
冷たく断られた。でも陽菜は気にしなかった。人見知りなのかもしれない。
月菜は遠くから、その様子を見ていた。白雪の横顔を、じっと見つめていた。
*
放課後、雪はさらに激しくなっていた。
「すごい吹雪だね」
「これじゃ帰れないかも」
教室がざわついている。でも陽菜と月菜は慣れたもので、いつものように帰り支度をした。雪国育ちの二人にとって、この程度の雪は珍しくない。
靴箱で靴を履き替えていると、白雪が一人で外を見ていた。
「白雪さん、帰らないの?」
陽菜が声をかけた。白雪は振り返る。
「……帰ります」
「一人で? 大丈夫? まだ土地に慣れてないでしょ」
「大丈夫です」
そう言って、白雪は雪の中に出ていった。傘も差さずに。
「ちょっと、傘は?」
「持ってません」
陽菜と月菜は顔を見合わせた。
「月菜、追いかけよう」
「うん」
二人は白雪の後を追った。吹雪の中、白雪の細い背中が見える。
「白雪さん、待って!」
陽菜が叫ぶ。白雪が立ち止まった。
「傘、貸すから。それに、どっちの方向に帰るの?」
「……あちらです」
白雪が指差した方向は、陽菜たちの帰り道と同じだった。
「じゃあ一緒に帰ろう。私たちと同じ方向だし」
「……」
白雪は何も言わなかったが、拒否もしなかった。陽菜は自分の傘を白雪に差し出し、月菜と相合傘をした。
三人で歩き始める。吹雪が激しく、前がよく見えない。
「白雪さん、この辺の地理、わかる?」
「いいえ」
「だよね。じゃあ、私たちが案内するから」
陽菜が先頭を歩き、月菜と白雪がその後ろをついていく。でも吹雪はどんどん激しくなり、視界がほとんどきかなくなってきた。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「うん……多分、こっちだと思う」
でも陽菜の声には自信がなかった。いつもの道なのに、雪で景色が変わってしまっている。
そのとき、白雪が小さく声をあげた。
「あの……私のせいで、迷ってしまったんですか」
「ううん、大丈夫。ちょっと待って」
陽菜はスマホを取り出し、地図アプリを開いた。現在地を確認すると、少しだけ道を外れていた。
「あ、こっちだ。ごめん、ちょっと遠回りしちゃった」
「すみません……」
「謝らないで。私たちが勝手についてきたんだから」
月菜が口を開いた。
「白雪さん、寒くないですか。震えてますよ」
見ると、白雪は制服だけで、コートも着ていなかった。
「平気です」
「平気じゃないよ。ほら、私のマフラー使って」
月菜は自分のマフラーを白雪の首に巻いた。白雪は驚いたように月菜を見る。
「でも……」
「いいから。私はお姉ちゃんとくっついてるから暖かいし」
月菜が微笑む。その笑顔を見て、白雪の表情が少しだけ緩んだ。
「……ありがとうございます」
小さな、とても小さな声だった。でも確かに、感謝の言葉だった。
*
なんとか道を見つけ、三人は無事に住宅街に辿り着いた。
「白雪さんの家、どこ?」
「あの角を曲がったところです」
「え、じゃあすぐ近くじゃん。私たちの家、三軒隣だよ」
陽菜が嬉しそうに言った。白雪は少し驚いたようだった。
「そうなんですか」
「うん。じゃあ、これから一緒に登下校できるね」
「……はい」
白雪の家の前まで送り届けると、白雪は傘を返そうとした。
「いいよ、明日返してくれれば。それより、明日の朝、一緒に学校行こう。七時半にここで待ち合わせでどう?」
「……わかりました」
そして白雪は、小さく笑った。
それは、本当に小さな、でも確かな笑顔だった。唇の端が、ほんの少しだけ上がった。
その瞬間、陽菜の胸が高鳴った。
ドクン、と大きな音がした。
隣を見ると、月菜も白雪を見つめていた。その頬が、少しだけ赤く染まっていた。
「じゃあ、また明日」
「はい。今日は……ありがとうございました」
白雪は丁寧にお辞儀をして、家の中に入っていった。
陽菜と月菜は、自分たちの家まで歩いた。ずっと無言だった。
玄関に着いて、靴を脱ぐ。そのとき、二人は同時に口を開いた。
「あのね――」
「あのね――」
ぴたりと止まる。顔を見合わせる。
「……なに?」
「……ううん、なんでもない」
二人とも、言葉を飲み込んだ。
でも、互いの心に何かが芽生えたことを、双子だからこそ感じていた。
第二章 三人の距離
翌朝、陽菜と月菜は約束の時間より早く家を出た。
「お姉ちゃん、早すぎない?」
「だって、待たせたら悪いし」
「まだ七時十五分だよ」
「いいじゃん」
陽菜は少しそわそわしていた。月菜もまた、いつもより念入りに髪を整えてきていた。二人とも、理由はわかっていた。でも、言葉にはしなかった。
白雪の家の前で待っていると、ちょうど七時二十五分に玄関が開いた。
「おはようございます」
「おはよう!」
陽菜が元気に返事をする。月菜も小さく「おはよう」と言った。
今日の白雪は、昨日と少しだけ違っていた。表情は相変わらず硬いが、どこか緊張がほぐれているように見えた。
「傘、返します。ありがとうございました」
「ううん、気にしないで。今日は雪、やんでるね」
「はい。でも、まだ積もってますね」
三人で歩き始める。昨日の足跡はすっかり雪に埋もれて、また真っ白なキャンバスになっていた。
「白雪さん、どこから引っ越してきたの?」
陽菜が尋ねる。白雪は少し考えてから答えた。
「東京です」
「え、東京? すごい。じゃあ、こんな雪、珍しいでしょ」
「はい。初めて、こんなに降るのを見ました」
「だから、昨日、傘持ってなかったんだ」
「……はい。軽く見ていました」
白雪は少し恥ずかしそうに俯いた。その仕草が、何だか可愛らしくて、陽菜は笑顔になった。
「でも、雪、きれいでしょ?」
「はい。とても」
月菜が口を開いた。
「白雪さんは、読書はお好きですか」
「……はい。好きです」
「私も好きなんです。どんな本を読みますか」
「色々ですが……最近は、古典が多いです」
「古典。私も古典、好きです」
月菜の顔が明るくなった。陽菜は少し驚いた。月菜がこんなに早く他人と打ち解けるのは珍しい。
「今度、お勧めの本、教えてください」
「はい。月菜さんも、お勧めがあれば」
「もちろんです」
二人は本の話で盛り上がり始めた。陽菜は少し取り残されたような気分になったが、白雪が楽しそうなのが嬉しかった。
学校に着くと、クラスメイトたちが白雪を見て少しざわついた。
「白雪さん、双子ちゃんたちと一緒に来たんだ」
「近所だったんだよ。だから、これから一緒に登下校するの」
クラスメイトたちは「へえ」と感心したように言った。白雪は相変わらず無表情だったが、昨日よりは緊張していないように見えた。
*
それから、三人での登下校が日課になった。
最初は陽菜が話の中心だったが、徐々に白雪も自分から話すようになった。東京での暮らし、好きな本、音楽のこと。少しずつ、白雪の心が開いていく。
ある日の下校時、陽菜が提案した。
「ねえ、今度の休み、三人でどこか行かない?」
「どこか?」
「うん。白雪さん、まだこの街のこと、あんまり知らないでしょ? 案内したいな」
白雪は少し考えてから、頷いた。
「はい。ぜひ」
「やった! じゃあ、図書館とか……」
「図書館、行きたいです」
白雪が言った。月菜も「私も」と続ける。
「じゃあ決まりだね」
休日、三人は街の図書館に向かった。
「ここ、結構大きいんだよ」
「本当ですね」
白雪は図書館の建物を見上げた。中に入ると、たくさんの本棚が並んでいる。
「白雪さん、どの辺の本が好き?」
「文学作品です」
「じゃあ、こっちだね」
月菜が案内する。三人で文学コーナーを巡り、それぞれ好きな本を選ぶ。
閲覧席に座って、本を読む。静かな時間が流れる。
ふと陽菜が顔を上げると、白雪が本を読みながら、小さく笑っていた。
その笑顔を見て、陽菜の胸がまた高鳴った。
ああ、この人の笑顔をもっと見たい。
そう思った。
隣を見ると、月菜も白雪を見つめていた。同じことを考えているのかもしれない。
帰り道、白雪が笑顔で言った。
「とても楽しかったです」
「また行こうね」
三人で並んで歩く。雪は少しずつ溶け始めていた。
でも、陽菜と月菜の心には、少しずつモヤモヤしたものが溜まっていった。
白雪と過ごす時間が増えるほど、その気持ちは大きくなる。
これは何だろう。友情? それとも……
ある夜、二人は自分たちの部屋で向かい合っていた。気まずい空気が流れていた。
「……月菜」
「……なに?」
「白雪さんのこと、どう思う?」
月菜は少し驚いたように陽菜を見た。
「……いい人だと思う」
「うん。私も」
沈黙。
「月菜は……白雪さんのこと、好き?」
「……わからない」
「私も、わからない」
二人とも、本当は気づいていた。
これは友情じゃない。もっと違う、特別な感情。
でも、それを認めるのが怖かった。双子の姉妹が、同じ人を好きになるなんて。
「……おやすみ、お姉ちゃん」
「うん。おやすみ」
電気を消す。暗闇の中、二人とも眠れなかった。
第三章 バレンタインデー
二月に入り、街はバレンタインデーの雰囲気に包まれていた。
クラスでも女子たちがチョコの話で盛り上がっている。
「白雪さん、チョコ、誰かにあげる?」
クラスメイトが白雪に尋ねた。白雪は首を横に振る。
「いいえ。あげる相手がいません」
「え、でも白雪さん、綺麗だから、男子からも人気あるよ?」
「……興味がないので」
白雪はそっけなく答えた。陽菜と月菜は少しだけホッとした。
バレンタインデー当日。
陽菜は朝から落ち着かなかった。昨夜、手作りチョコレートを作った。白雪に渡すつもりだった。でも、勇気が出ない。
これは友チョコ? それとも……
白雪の家の前で待っていると、月菜も来た。そして、月菜もまた、小さな包みを持っていた。
「お姉ちゃん、それ……」
「月菜も?」
二人は互いの手元を見た。
「……友チョコだよ」
「……私も」
気まずい空気が流れた。
そこへ白雪が現れた。
「おはようございます」
「あ、おはよう」
陽菜と月菜は慌てて笑顔を作った。
学校への道すがら、陽菜は何度もチョコを渡そうとした。でも、タイミングがつかめない。月菜も同じように、もじもじしている。
学校に着いてからも、陽菜はチャンスを伺っていた。でも白雪の周りには常に誰かがいて、二人きりになれない。
昼休み、陽菜は決心した。
でも、白雪の席に行くと、白雪がいなかった。
「白雪さんなら、図書室に行ったよ」
陽菜は図書室に向かった。そして、扉を開けて――固まった。
図書室の奥、窓際の席。白雪と月菜が並んで座っていた。
月菜が、白雪に小さな包みを渡していた。
「これ……私からです」
「チョコレートですか?」
「はい。手作りです。よかったら」
白雪は包みを受け取り、微笑んだ。
「ありがとうございます。嬉しいです」
その笑顔。
陽菜が見たことのない、柔らかで温かな笑顔。
陽菜は、そっと扉を閉じた。
渡せなかった。月菜が先に渡してしまった。
その夜、陽菜は一人で泣いた。
自分が何に泣いているのか、よくわからなかった。ただ、胸が痛かった。
*
バレンタインデーを境に、陽菜と月菜の間に見えない壁ができた。
三人での登下校は続いていたが、陽菜と月菜は以前のようには話さなくなった。
白雪は二人の変化に気づいていた。でも、理由がわからない。
ある日の下校時、陽菜がいつもより積極的に白雪に話しかけた。
「白雪さん、今度の休み、また図書館行かない?」
「はい。でも……月菜さんは?」
「月菜はいいよね?」
陽菜が月菜に振る。月菜は少し驚いた様子で頷いた。
「……うん」
休日、三人は図書館で会った。でも、雰囲気がどこかぎこちない。
白雪は混乱していた。何が起きているのだろう。
帰り道、白雪が口を開いた。
「あの……二人とも、何か私に言いたいことがあるんじゃないですか」
陽菜と月菜は立ち止まった。
「そんなことないよ」
「ないです」
白雪は悲しそうな顔をした。
「私、何か悪いことをしましたか」
「違うよ、白雪さんは何も悪くない」
「じゃあ、どうして……」
白雪の目に涙が浮かんだ。
「どうして、二人とも、いつもと違うんですか」
陽菜と月菜は、言葉を失った。
沈黙が続く。
「……ごめんなさい」
白雪はそう言って、走り去った。
第四章 別れの予感
それから数日、白雪は三人での登下校を避けるようになった。
朝、陽菜と月菜が待っていても、白雪は少し遅れて一人で家を出る。学校でも、距離を置くようになった。
「お姉ちゃん……どうしよう」
「私たちのせいだ」
ある日の放課後、陽菜は決心した。白雪に謝ろう。
白雪の席に行くと、白雪は荷物をまとめているところだった。
「白雪さん、話があるんだけど」
白雪は顔を上げた。
「私も……話があります。二人にも、聞いてほしいです」
月菜を呼び、三人は誰もいない教室に残った。
白雪は窓の外を見ながら、ゆっくりと話し始めた。
「私……来月で、転校します」
陽菜と月菜は、息を呑んだ。
「父の仕事の関係で。実は……最初から決まっていたんです。三ヶ月だけの、期限付きの転校でした」
「そんな……」
「だから、最初は……誰とも深く関わらないつもりだったんです。でも……二人が、優しくしてくれて。気づいたら……大切な友達になっていました」
白雪の声が震えた。
「だから、辛いんです。もうすぐ離れ離れになるのが」
白雪は振り返り、陽菜と月菜を見た。目に涙を浮かべて。
「ごめんなさい。黙っていて」
陽菜は白雪に駆け寄った。
「白雪さん……」
白雪は泣き出した。陽菜は白雪を抱きしめた。月菜も近づき、三人で抱き合った。
「私たちこそ、ごめん」
陽菜が言った。
「私たち、白雪さんを傷つけた。私たち、姉妹で喧嘩してた。白雪さんのせいで」
月菜が言った。
「白雪さんが、大切すぎて……」
三人は泣きながら抱き合った。
ようやく落ち着いて、三人は離れた。夕陽が教室を染めていた。
「あのね、白雪さん」
陽菜が口を開いた。
「私、白雪さんのこと……友達として好きなんだけど、でも……それだけじゃないって、気づいちゃったの」
白雪は目を見開いた。
「私も……です」
月菜が続けた。
「私も、白雪さんのこと……特別に思ってました」
白雪は二人を見た。
「二人とも……私のことを?」
「うん」
「はい」
白雪は俯いた。
「私……どうしたらいいんですか。二人とも、大切な友達で……それ以上に、特別な存在で……」
白雪は顔を上げた。
「私も……二人のことが、大好きです」
陽菜と月菜は顔を見合わせ、笑った。
「ありがとう、白雪さん」
「でも、答えなんて出さなくていいよ」
陽菜が言った。
「私たちだって、答えなんて出せないもん。だって、姉妹だから」
「だから、このままでいい」
陽菜は白雪の手を握った。月菜も、もう片方の手を握る。
「三人で、残りの時間、楽しく過ごそう」
白雪は涙を流しながら笑った。
「はい……ありがとうございます」
三人は、また抱き合った。夕陽が沈んでいく。
残された時間は、あと一ヶ月。
第五章 雪解けの季節
白雪の転校まで、残り一ヶ月。
陽菜と月菜は、できるだけ白雪との時間を大切にしようと決めた。もう喧嘩はしない。
三人での登下校が再開した。以前よりも、もっと楽しく、もっと賑やかに。
「白雪さん、今日の放課後、カラオケ行かない?」
「カラオケ、ですか? 行ったことないです」
「え、マジで? じゃあ、絶対行こう!」
放課後、三人はカラオケボックスに行った。白雪の歌声は、透き通るように綺麗だった。
「白雪さん、上手じゃん!」
「本当に。もっと歌ってください」
二人に褒められて、白雪は嬉しそうに笑った。
休日には、三人で色々な場所に出かけた。商店街、公園、映画館。白雪がまだ行ったことのない場所を、全部案内した。
「ねえ、三人でプリクラ撮らない?」
ゲームセンターに行き、プリクラを撮った。
「いい写真だね」
「はい。宝物です」
白雪が嬉しそうに言った。
*
二月が終わり、三月に入った。雪は少しずつ溶け始め、春の気配が近づいてきた。
クラスでは、白雪の送別会の準備が進んでいた。
送別会の日。放課後、教室に残った全員で、白雪を囲んだ。
「白雪さん、短い間だったけど、ありがとう」
「新しい学校でも、頑張ってね」
クラスメイトたちが次々と言葉をかける。白雪は目に涙を浮かべながら、一人一人にお礼を言った。
最後に、陽菜と月菜が手紙を白雪に渡した。
「これ……私たちからのお別れの言葉」
「読んでください」
白雪は手紙を受け取り、大切そうに胸に抱いた。
送別会が終わり、教室に三人だけが残った。白雪は手紙を開いた。
『白雪さんへ
短い間だったけど、一緒に過ごせて本当に嬉しかったです。
白雪さんと出会えて、私たちの世界が広がりました。
私たち姉妹は、同じものを好きになる癖があります。
食べ物も、音楽も、そして……白雪さんも。
でも、それでいいと思っています。
大切な人を、大切な姉妹と分かち合えるなんて、幸せなことだから。
白雪さんが新しい場所で幸せになることを、心から願っています。
ずっと、友達でいてください。
陽菜と月菜より』
白雪は手紙を読み終え、静かに泣いた。陽菜と月菜も、涙をこらえきれなかった。
三人は、最後に抱き合った。
最終章 それぞれの道
白雪の転校の日。
朝、陽菜と月菜は白雪の家の前で待っていた。最後の登校。正確には、駅まで一緒に行くだけ。
玄関が開き、白雪が現れた。
「おはようございます」
「おはよう」
三人は、最後の道のりを歩き始めた。
雪はすっかり溶けて、道端には春の花が咲き始めていた。
「春、ですね」
白雪が呟いた。
「うん。もうすぐ、桜が咲くよ」
「桜……見たかったな」
「新しい場所でも、桜は咲くよ。そのとき、私たちのことも思い出してね」
「はい。絶対に」
駅に着いた。白雪の両親が車で待っていた。
「じゃあ……」
白雪が二人を見た。涙をこらえて、笑顔を作ろうとしている。
「ありがとう。二人と出会えて、本当に良かった」
「こちらこそ」
陽菜が言った。
「白雪さんと過ごした時間、一生の宝物だよ」
「私も……ずっと忘れません」
月菜が続ける。
「白雪さん」
陽菜と月菜は同時に口を開いた。
「大好きだよ」
「大好きです」
白雪は、もう笑顔を保てなかった。涙がこぼれる。
「私も……二人のことが、大好きです」
最後に、三人は抱き合った。
「じゃあ、行きますね」
白雪は二人から離れた。
「元気でね」
「また会おうね」
「はい。絶対に」
白雪は車に乗り込んだ。車が動き出す。
陽菜と月菜は、手を振った。白雪も、車の窓から手を振り返す。
車が見えなくなるまで、二人は手を振り続けた。
そして、車が完全に見えなくなったとき、陽菜と月菜は抱き合って泣いた。
*
それから数日、陽菜と月菜は元気がなかった。
二人での登下校に戻ったが、どこか物足りない。
でも、時間は流れる。少しずつ、二人は日常を取り戻していった。
ある日、月菜のスマホに通知が来た。
「お姉ちゃん、白雪さんから」
白雪からのメッセージ。
『陽菜さん、月菜さん、元気ですか。
新しい学校に通い始めました。
少しずつ慣れてきました。
でも、やっぱり二人が恋しいです。
今日、学校の近くで桜が咲いているのを見ました。
すぐに、二人のことを思い出しました。
いつか、また会いたいです。
ずっと、二人のことが大好きです。
白雪』
陽菜と月菜は、スマホの画面を見つめた。そして、顔を見合わせて、微笑んだ。
「返信しよう」
二人は一緒に返信を書いた。
『白雪さん
私たちも元気です。
毎日、白雪さんのことを思い出しています。
こっちでも、桜が咲き始めました。
三人で見たかったね。
でも、いつかまた会えると信じています。
私たちも、白雪さんのことが大好きです。
陽菜と月菜より』
送信ボタンを押す。
陽菜と月菜は、通学路を歩き始めた。雪は完全に溶けて、春の風が吹いている。桜の花びらが舞っていた。
「ねえ、月菜」
「なに?」
「私たち、同じ人を好きになっちゃったけど……良かったと思う?」
月菜は少し考えてから、答えた。
「うん。良かった」
「だよね」
陽菜は笑顔になった。
「だって、白雪さんと出会えたし、姉妹の絆も深まったし」
「そうだね」
二人は笑い合った。
双子の姉妹だから、同じものを好きになる。
双子の姉妹だから、同じように諦められる。
双子の姉妹だから、痛みも喜びも分かち合える。
そして、双子の姉妹だから――
今も、これからも、一緒に歩いていける。
春の日差しの中、陽菜と月菜は並んで歩いていた。
白雪との思い出を胸に。
そして、新しい季節へと、歩みを進めていく。
(完)
作品統計
📚 本を探すなら「よみどき」(あいぺんが運営する本の発見サイト)
130万冊を超えるコミック・小説・書籍の順位と値段を毎日みて、いま読むものを決められます。