第3話:偽りの自殺と新たな仲間 -1
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あらすじ
王宮のミステリウム~ヴァンパイアメイドと王宮の魔女~ - 第3話:偽りの自殺と新たな仲間 -1
本文
ミレーヌとヴァネッサは、ロゼリア侯爵の邸宅へと辿り着いた。
門前で警備の指揮を執っていたアリア・リントヴルムは、ミレーヌを見つけると、公の顔で厳しく言い放った。
「王女殿下の雇われメイド。貴様らの任務は終わったはずだ。無用な詮索は、第一王子の騎士団長である私の職務の妨げになる。直ちに退去せよ。」
ミレーヌは体が硬直する。
「う、うぅ…」
ヴァネッサは、アリアの冷徹な言葉の裏にある意図を即座に察し、あえて火に油を注ぐように、冷然と口を開いた。
「おや、第一王子の忠実なる番犬が、ご丁寧に門番をしていらっしゃるとは。我々の小さな好奇心など、貴女の大きな職務には影響ありますまい。王女殿下のご命令で、立ち会わせていただくだけです。」
ヴァネッサの露骨な挑発に、アリアは剣の柄に手をかけ、低い声で返した。
「(剣の柄に手をかけ、低い声で)メイド。口を慎め。お前たちの不手際が、王宮にどれほどの混乱をもたらしたか、理解しているのか。血の量と、侯爵の体格が合わないというような愚かな噂を信じるな。」
アリアの厳しい言葉の中に、ミレーヌは決定的なヒントを聞き取った。ヴァネッサは、アリアの真意を読み取り、ミレーヌの腕を乱暴に掴み、アリアに向かって頭を下げる。
「失礼いたしました、騎士団長殿。これ以上、殿下のご立派な捜査を邪魔することは致しません。」
ミレーヌはヴァネッサに引っ張られながら、「ぶひゅ…!」と情けない声を上げた。
二人が邸宅から少し離れた、物陰に入った場所。
ヴァネッサは、ミレーヌの手を離すと、すぐに厳しい視線を向けた。
「ミレーヌ様。よろしいですか。TPOを考えなさい。アリア騎士団長は表向き、第一王子殿下の忠実な部下です。我々と親密であることが露見すれば、彼女の立場がどれほど危うくなるか。分かっていて、なぜ不用意に歩み寄ろうとするのです。」
ミレーヌは、ヴァネッサの正論に顔を赤くし、反論できない。
「むぎゅ……」
二人が離れた直後、王都の方角から、新たな報せを告げる伝令の馬の蹄の音が響き渡った。
◇◆◇◆◇
翌朝、王宮を駆け巡ったのは、ロラン・ハント子爵の遺体が自邸で発見されたという報せだった。
ロラン子爵邸の書斎では、リチャード王子が主導する捜査官と騎士団が、事件の「終結」を急いでいた。
騎士団員が、遺体を見下ろす。
「これが、例の…ロラン・ハント子爵の遺体か…」
捜査官は、遺書を手に取り、断定的に説明する。
「ああ。遺書も見つかった。『我が血に抗えず、罪を重ねた。全ては我の責めなり』…と。自ら命を絶ったようだ」
憲兵は、安堵の表情を浮かべる。
「これで、一連の事件は終結、というわけか。やはり、噂は本当だったんだな…」
リチャード派の魔術師が、公式見解を裏付ける。
「この遺書には、微かに子爵の魔力が残っています。彼の筆跡とも一致する…間違いなく、彼自身のものだ。自害に至った精神状態も、魔力に影響を与えたのでしょう」
この瞬間、ミレーヌは、遺体に残る不自然な痕跡と遺書の魔力の歪みを見抜き、思わず反論しようと口を開きかけた。
「そ、そんなことは…!」
しかし、ヴァネッサは表情を変えずにミレーヌの肘を軽く掴み、その発言を静止する。
「(ヴァネッサは、ミレーヌにだけ聞こえるよう静かに)ミレーヌ様。今は、王女様の名誉のために、口を噤むべきかと。我々は正式な捜査権を持ちません。ここで、彼らの公式見解に異を唱えても、王女様を窮地に陥れるだけです。我々の動きを、今、彼らに開示するのは愚策と存じます。」
ミレーヌは、ヴァネッサの冷徹な正論に全身から力が抜け、言葉を飲み込んだ。
「う…わかったわ…」
捜査官は、周囲にいるミレーヌたちを一瞥もせず、結論を宣言した。
「これ以上の捜査は不要。我々は速やかにこの件を王宮に報告し、終結させる。」
◇◆◇◆◇
ミレーヌ・エランの自室。ミレーヌとヴァネッサは、ロラン子爵の遺書と遺体の写真、そして現場の報告書を広げていた。
「…おかしいわ。この遺書に残された魔力…」
ミレーヌは、遺書の文字を解析魔術で精査する。
「確かに子爵のものに似ているけれど…わずかに歪んでいる。これは…誰かが、魔力を模倣して書いたものじゃないかしら。」
ヴァネッサは、遺体の写真に視線を落とし、その冷たい紅い瞳で写真の細部を分析する。
「(遺体の写真を見つめながら)…首に残る痕跡、これは自力でつけたものではありませんね。そして、この部屋の血痕のつき方…子爵の体に比べて、飛び散り方が不自然です。明らかに、遺体がこの場所で亡くなったものではないことを示しています。」
ミレーヌは、ヴァネッサの指摘に顔を青ざめさせた。
「ぶひゅ…! つまり、これは完璧な偽装工作。彼は殺された…そして、犯人は、誰かに罪をなすりつけようとしている。」
◇◆◇◆◇
王宮の図書館。
ロラン子爵の娘リリア・ハントは、軟禁状態の自宅を抜け出し、潜伏しながら、父の無実を証明するため、この禁断の場所に侵入していた。
「狼男の歴史…王宮に資料は少ないわね…」
ミレーヌが呟くと、一人の少女が、鋭い視線をミレーヌたちに突き立てながら、音もなく近づいてきた。
「あんたたち…なんで親父(父さん)のこと探ってんだ?」リリアは、荒々しく問い詰めた。
ミレーヌは、突然の接近に体が硬直し、いつものようにどもり始める。
「あ、えっと…私たちは…その…あなたのお父様の…事件を調べているんです。」
「どうして? 王宮は、親父のことを人殺しだって決めつけたのに…」
リリアは微かな狼の獣性を滲ませ、まるで瞬間移動したかのように、ミレーヌではなく、より危険な存在と見抜いたヴァネッサの喉元へ殺到した。
「嘘つけ! あんたたち王宮の犬だろ!親父をハメた奴らの仲間か!」
ゴッ、という重い音と共に、リリアの攻撃は空を切った。
ヴァネッサは、その場で一歩も動かず、ただ片方の掌を静かに上げ、その中心でリリアの超速の突きを受け止めた。
「無駄です。貴女の殺意は、私の絶対的な速度には及びません。…そして、我々は貴女の敵ではありません」
「な、なんだこれ!?…くそっ…!」リリアは、自身の並外れた戦闘能力が全く通用しなかったことに戦慄する。
ミレーヌは、その突然の攻防に、「ひ、ひゃああ!」と奇妙な悲鳴を上げ、本棚の奥に隠れようとした。
ヴァネッサは、リリアの手首を解放し、偽装工作の証拠を見せた。
「私たちは、ただ、真実を求めているだけです。…あなたのお父様は、殺された。その証拠を、私たちは見つけました。」
リリアは、驚きと、希望の光を浮かべ、ヴァネッサの紅い瞳をまっすぐに見つめ返した。
「…信じる…! あなたたちを、信じる…!」
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