第7話:シャドウランドの試練と情報戦 -1
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あらすじ
王宮のミステリウム~ヴァンパイアメイドと王宮の魔女~ - 第7話:シャドウランドの試練と情報戦 -1
本文
シャドウランドの隠された集落。長老の家は、分厚い樹皮と岩でできた壁に囲まれ、外の荒々しい森の気配とは裏腹に、静謐な魔力と薬草の匂いに満ちていた。
ミレーヌ、ヴァネッサ、リリアの三人は、地面に敷かれた粗い織物の上で、長老を前にひざまずいている。
長老は、年輪を重ねた深いシワの刻まれた顔で、静かに三人の覚悟を試すように見つめる。
「…ロラン・ハントの真意を知り、お前たちの迷いは消えたようだ。しかし、真の盟約の証は容易く手に入らぬ。お前たちの覚悟、そして、真実を求める心が本物か…この地の試練で、見せてもらおう。『真実の鏡』を探し出し、無事にここへ戻れ。道中、お前たちの心が試されるだろう。」
リリアは、亡き父と同じ道を辿ることに、強い決意を込める。彼女の瞳には、父への誇りと使命感が燃えていた。
「真実の鏡…! 父さんも探していたものだ…!」
ミレーヌは、コミュ障ゆえの体の震えを抑え、一歩前に出て、決意を込めた眼差しで応じた。
「…心が試される…わかったわ、長老様。私たちで、必ず見つけ出して見せます。」
◇◆◇◆◇
国王の病と侯爵の殺人事件、そしてロラン子爵の自殺報道に揺れる王都。貴族街から伸びる広場では、新聞売りの声が、人々の不安を煽る冷たい風に乗って響き渡る。
新聞売りが、号外を手に叫ぶ。
「号外! 号外! フィリップ侯爵、公金横領で告発! 王宮の腐敗、止まらず!」
庶民Aは、その報に憤る。その怒りは、貴族社会全体に向けられていた。
「また貴族の不正か! 本当にこの国は腐りきっている!」
レティシア王女の専属メイド、エレナ・ファルツとサラ・グレンは、人波の中で密かに情報を収集していた。エレナは、新聞のインクの匂いを嗅ぎながら、冷静に状況を分析する。
「(新聞を読みながら)なんてこと…これは明らかにリチャード王子の仕業ね。王宮全体の信頼を失墜させようとしているわ。」
サラは、人々の動揺に心を痛める。彼女の役割は、庶民からの情報収集だ。
「街の人たちは、もう誰を信じたらいいのか分からなくなっているわ。王女様のご心労が…」
二人は、ミレーヌたちの不在を補うように、王宮内の情報戦を支えていた。
◇◆◇◆◇
ミレーヌたちが試練に挑むシャドウランドの森の奥。足元に広がる苔や湿った土の匂い、古木の太い幹。その森に満ちる古代の魔力が、ヴァネッサのヴァンパイアの血と激しく共鳴し始めた。
彼女の白い肌が一瞬蒼白になり、普段は完璧に抑制されているはずの感情が、苦悶となって顔に浮かび上がる。彼女の脳裏に、かつて人間と人ならざる者たちが交わした「盟約」が、血を流して破られる悲劇的な記憶の断片が、容赦なく流れ込んできた。
ヴァネッサは突然頭を押さえ、低く呻いた。
「(頭を押さえ、苦悶の表情で)うぅ…これは…何…? 古き血の記憶…裏切り…そして…燃えるような怒り…!」
ミレーヌは、彼女の異変に気づき、解析魔術を発動させた。
「ヴァネッサ!? どうしたの!? あなたの魔力が、激しく乱れているわ…何が見えているの!?」
リリアも、その異常な空気に警戒する。
「ヴァネッサさん! 大丈夫!?」
ヴァネッサは、か細い声で、抑圧されていた記憶の断片を漏らした。
「(か細い声で)…王家…人間…裏切り…追放…私の…故郷…」
ミレーヌとリリアが支える中、ヴァネッサは数呼吸の間、激しい痛みに耐えた。やがて、彼女は深呼吸一つで、その内なる嵐を無理やり押さえ込む。紅い瞳から一瞬苦痛が消え、いつもの冷徹な仮面が顔に戻る。しかし、彼女のローブを握る指先は、微かに震えていた。
「(冷静さを取り戻し、震えを抑え)問題ありません、ミレーヌ様。古代の魔力が、過去の記憶を刺激しただけです。早く試練を続けましょう。」
◇◆◇◆◇
王都郊外のガリオン帝国大使館。
大使ゼラス・ガルディアは、アルカディア王国の混乱を好機と捉え、有力商人バルドゥール・クロスと密かに会合を持っていた。部屋には、異国情緒あふれる重厚な香木が焚かれ、密約の冷たい空気を隠している。
ゼラス・ガルディアは、ワイングラスを傾けながら、冷笑を浮かべる。
「アルカディアの混乱は順調に進んでいるようだ。フィリップ侯爵の件も、実に効果的だった。次に狙うは、第二王女セシリアの情報網だ。特に、あのセイレーンの娘は厄介だ。彼女の歌声を封じれば、セシリアは手足をもがれたも同然。」
バルドゥール・クロスは、ゼラスの言葉に悪意に満ちた目で応じる。彼はリチャード王子とガリオン帝国の密約を経済的に仲介している立場だ。
「メロディ・サイレンス…なるほど。彼女の歌声は、王宮内に潜む者たちの心を操ることもできますからな。彼女を失脚させれば、セシリア殿下への民衆の信頼も揺らぐでしょう。」
彼らは、ミレーヌたちの動きとは無関係に、王国の支配権を奪うための新たな牙を研ぎ澄ましていた。
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