黒魔女さんからお手紙ついた【罪】25話

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2025/12/28 📚 シリーズ: 黒魔女さんからお手紙ついた 📝 3,901文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

魔法学校入学のために金貨3億枚の借金を背負ったヴェロア

本文

【25】

 時計台へ戻ろうとした足を、ヴェロアの〈もう少しだけ〉が止めた。三人は再び池へ向き直る。

 そのあまりの驚きに、アイリーシェは思わず息をするのも忘れるのだった。ヴェロアの手から離れてそこに現れたのは、紛れもなく記憶の中のお姉ちゃんそのものだった。

 優しい眼差しも、自分とは違って癖のない栗色のまっすぐな髪も、そしてその抜群のスタイルも。何もかもが子供の頃に憧れた、お姉ちゃんの姿だった。

「お姉…… ちゃん?」

 そう漏らした声がわずかに震えていることで、アイリーシェはようやく自分が泣いていることに気づいた。

 それに引き寄せられるように翼を広げて滑空すると、ヴェロアの召喚したお姉ちゃんの周りを旋回する。それはどの角度から見ても、完璧なまでにお姉ちゃんの姿をしているのだった。

 それが肉体と脳を持つバンシーに対抗するために召喚されたものだということにようやく思い至ると、飛びながらそちらを目視する。

 そこには呆然とした表情を浮かべて、その召喚従者であるお姉ちゃんの姿を眺める、バンシーの姿があった。

 もしも今の自分に肉体があったならば、それは自分自身がしていた姿だと思うと、さすがに複雑な気持ちが湧き上がり、思わず苦笑いを浮かべるほかなかった。

 ヴェロアは、本当にお姉ちゃんに会わせてくれたのだった。もう二度と会うことのできないと思っていたお姉ちゃんに会えたということは、それはそれは本当に嬉しかった。もちろんそれが、お姉ちゃんの姿をしているだけの従者でしかないのだと、わかっていても。

「お姉ちゃん!」

 アイリーシェは突如奇妙な感覚に見舞われる。自分と同じ声が、自分の意思とは無関係に放たれて、そしてそれが耳に届く。でもその想いは自分と同じで、その言葉に秘められた気持ちが痛いほどわかる。

 旋回する範囲を広げると、バンシーとお姉ちゃんの姿。その両方が視界に入るように飛ぶ。

 バンシーはゆっくりと、今は一歩一歩自らの足を前に出してそのお姉ちゃんへと近づいてゆく。もちろん水上に浮いているので、その足が地面を掴むことは決してないのだが、自らの足で一歩づつ近づきたい。そんな意思を表しているかのようだった。

 もはやバンシーには、視線の先にあるお姉ちゃんの姿以外は何者も存在すらしていないのだろう。しきりに「お姉ちゃん」と呟きながら、その距離を縮めてゆく。そして気づくとその目には涙を認めていた。

 アイリーシェの耳に届く声は、呟きではなくなっていた。

「お姉ちゃんあたしね、魔法学校で最高の友達に出会ったよ。アリエスっていうんだけど、偏屈なやつでさ、ものすごい魔力と能力を持ってるくせに周りと距離を置くから、友達が全然できないんだよ? おかしいでしょ。それでも本当は寂しいくせに、煩わしい友達関係は面倒だって強がったりして。だからね、あたしが友達になったの。なってあげたわけじゃないよ? 自然とそうなったの。それが当然だと思えるほどにすんなりとね。そのアリエスのおかげで、あたしも魔法が上達したんだ。でもあたしはそんなアリエスに、まだなにも返せていないんだよね。だからもっといっぱいアリエスと話して、知って、あたしに何ができるか、アリエスのためになにをしてあげられるかを見つけたいんだ。これもお姉ちゃんが魔法学校の入学を薦めてくれたおかげなんだよ? だからずっとお礼を言いたかったんだ。それを今言うね。お姉ちゃん、本当にありがとう。あたしはお姉ちゃんの妹で本当によかった。ありがとう、お姉ちゃん。大好きよ」

 あふれだした涙は、もはや収まるということを知らないかのようだった。アイリーシェは羽ばたきながら、胸の奥が締め付けられるような想いを感じていた。

 あれは自分が想っていたことそのままだ。ずっとずっと長い間胸に秘めていて、本当に本当に伝えたかった言葉。それをこうして改めて、自分の言葉を自分で聞いて確認することになるとは思ってもみなかった。しかしそれも今は、不思議と心地いい体験だと素直に思えるのだった。

 フクロウ姿の自分ではない本来の自分の姿である、自分の口から伝えられたということが、非常に嬉しく思えた。

 それでも少しだけ悔しいという気持ちがあることも、また確かだった。それをアイリーシェは、別の一言を呟くことでよしとする。

「アリエスが聞いたら、絶対に怒るよねぇ」

 そんなことを考えながら当人のアリエスへと目を向けると、バンシーの攻撃により閉じ込められていた木々の檻からは解放されていた。

 アリエスは視線の先にとらえたバンシーを目指して、脇目も振らずに走ってゆく。

 従者を召喚したヴェロアはというと、こちらはその姿に驚きの色を隠せないでいた。それが従者の完成度の高さと、お姉ちゃんの姿によるものだということには容易に察しがつくのだった。

 完成度に関しては、アイリーシェのイメージを元にして作られたのだから当然である。さすがにお姉ちゃんへの想いは伊達じゃないと自画自賛するのだった。

「アイリーシェ! 早く、こっちよ」

 アリエスからの指示が飛んでくる。見るとアリエスは、その距離をもうわずかなところまで縮めていた。

 お姉ちゃん以外はもう目に入っていないバンシーに近づくことは、今となっては何ら難しいことではなかった。なにせバンシーからは、もういっさいの敵意は感じられなくなっていたのだから。

 アリエスがなにをしようとしているのかは、容易に想像がつく。バンシーの召喚を解除して、その肉体に魂を戻そうというのだ。

「待って! アリエス。まだだ、もう少しだけ待って!」

 その考えをヴェロアも把握したのだろう。しかし思いがけずヴェロアは、そんなアリエスの行動を制したのだった。

 あにはからんやそんな言葉をかけられたアリエスは、慌ててその足を止める。そして疑問と不満を同居させたような表情を浮かべてヴェロアに一瞥をくれる。

「んもう、なによ! なんなのよ、いったい」

 口をついて出たアリエスの言葉に、たてた人差し指を唇にあて、声をあげないように注意喚起するのだった。

 ヴェロアの召喚したお姉ちゃんへと、ゆっくりと、しかし一歩一歩着実に歩み寄ったバンシー。その互いの距離が、もう一歩踏み出せば手がふれ合うといったところまで来ると、その歩みが止まった。

 互いを見つめ合うその姿を、固唾を飲んで見守る一同の目の前で、両手を広げた二人。そしてそれぞれが背中をポンとひと押しされたかのように、その最後の一歩を踏み出した。

「あ……」

 そう短い一言を発したアイリーシェ。

 みんなが優しく見守るなかで、二人は強く抱擁を交わしたのだった。それはアイリーシェが長い間望んだことだった。途端に二人分の嗚咽が耳に届いてくる。

 その異変に気づいて目を凝らす。するとヴェロアの召喚したお姉ちゃんの姿をした従者は足元を僅かながらだがゆらゆらと陽炎のように揺らめかせていた。それが、その召喚がもう長くはもたないのだろうということだと気づくまで、そう時間はかからなかった。

 その理由が、アイリーシェのイメージを元にしたからなのか、召喚したヴェロアが自分で作ったものではないからなのか。それとも持っていた期間が足りないからなのか、それはアイリーシェにはわからない。

 でもその召喚がそれほど長くはもたないと薄々感づいていたヴェロアが、最後のプレゼントとばかりに、その二人の姿を見せてくれたのだということだけは、想像に難しくはないのだった。

「まったく、どこまで優しいんだい」

 そう呟くアイリーシェは、そんなヴェロアに目を向けた。

 本当ならば肉体に魂を戻してからそうしたかった。しかし肉体に魂が戻るまでにどれくらい時間がかかるのかわからない。だからそうするしかなかった。

 ヴェロアの表情から、そんな感情を読み取るのもまた容易だった。なにせヴェロアの顔はそこにいる誰とも違う、辛い表情をしていたのだから。

「ありがとう、ヴェロア。ありがとう、お姉ちゃん。……さよならは言わないよ」

 ボソリと漏らしたアイリーシェ。するとそこが限界だったのか、お姉ちゃんの姿をした従者は、足元から煙のようにしてその姿を消したのだった。元に戻った召喚物がぽとりと地面に落ちる。

 何が起きたのか理解ができないといった様子のバンシーは、つい今しがたまでその温もりを感じていた両の手をじっと見つめていた。そして両膝をがっくりと落とすと、両手で顔を覆うのだった。

 それは泣いているようにも、はたまた残った温もりを最後まで感じようとしていようにも思えたのだった。

 ようやくアリエスが駆け寄ると、いっさい気にもとめないバンシーの額に手をあて、召喚解除のための言葉を紡ぐ。

「汝を長き闇、長き孤独から、今解き放たん。汝を傷つける全てのことから解放せん。全てを安らかな母の胸のような、愛に満ちた場所へと返す」

 その手が光を帯び始めると、アイリーシェは急ぎアリエスの傍らへと降り立つ。

 ヴェロアとミエリはその様子を真剣な眼差しで、二人の全てを見つめている。

 アリエスが空いた手をかざすと、そちらも光を放ち、アイリーシェは仄かな暖かさと安堵を感じるのだった。

「待ってる人がいる。求めている人がいる。愛する人がいる。愛してくれる人がいる。それを自然の理とするならば、汝は汝の魂を受け入れ、汝のあるべき姿を示せ」

 ひときわ大きな光を放つと、バンシーの姿が、フクロウ姿のアイリーシェが共に輝きだす。

 やがてその光は周囲に優しい暖かさをもたらすのだった。

ジャンル・タグ

, , , , , ,

作品統計

👁️ 閲覧数: 11 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

九十九沢 美勇

九十九沢 美勇

AIを利用して小説作品を作っています。 カクヨムにも投稿しています。

👥 フォロワー: 5人

作者ページを見る