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4節 境界線のこちら側

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/13 📚 シリーズ: 共感性知能アプリNestTalk(ネストーク) 📝 1,491文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

ある刑事の叙事詩 《夜の王国 ~選択と調整の病理~》

本文

## 【第1章 失われた日常】

### 【4節 境界線のこちら側】

 雨は、静かに降っていた。

 東京湾から流れ込む湿った空気が、夜の新宿を包み込み、ネオンの光を滲ませている。路上に落ちた光は、まるで血の跡のように歪んで見えた。

 その男は、傘を差さずに立っていた。

 濡れることを、気にしていない。

 正確には、どうでもよかった。

 コートの内ポケットから、折り畳まれた紙を一枚取り出す。そこには、整った文字で短い文章が書かれていた。

『次は、選ばせない』

 自分が残した言葉だ。

 それを指でなぞりながら、男は小さく息を吐いた。

 ――理解された。

 未遂。

 それは失敗ではない。確認だ。

 彼ら――警察が、こちらの“法則”に気づき始めているかどうか。その反応を見るための、必要な工程だった。

 男の脳裏に、これまでの「対象」が浮かぶ。

 通り魔でも、快楽殺人でもない。

 無差別に見えるのは、彼らが“見るべき点”を見ていないからだ。

 人は、役割を演じる。

 社会は、その役割の上に成り立っている。

 そして、その役割を果たさなくなった者がいる。

 放置された歪み。

 誰も修正しない誤差。

 それを是正するのが、自分の役目だ。

 男は、視線を上げた。

 ビルの谷間に、警察署の灯りが見える。

 ――次は、もう迷わない。

 選別は、こちらが行う。

 ◇

 同じ夜。

 警視庁捜査一課のフロアには、まだ明かりが残っていた。

 小坂凌は、デスクに肘をつき、モニターに映し出された事件一覧を眺めていた。第一、第二、第三――未遂を含めた現場写真と、被害者のプロフィール。

 共通点は、ない。

 年齢も、性別も、職業も違う。

 生活圏すら、重なっていない。

 それでも、小坂は確信していた。

 ――無作為じゃない。

 犯人は、何かを“見ている”。

 それは、警察が通常の捜査で拾い上げるデータではない。

「まだ帰らないんですか」

 声をかけられて、振り向く。

 朝霧だった。コーヒーを二つ持っている。

「お前もな」

「今日は……眠れそうにないです」

 朝霧は、紙コップを差し出した。

 小坂はそれを受け取り、一口飲む。

「なあ、朝霧」

「はい」

「もし、犯人が“正しいことをしている”と本気で思っていたら……どうする」

 朝霧は、一瞬だけ言葉に詰まった。

「……それでも、止めます」

「理由は」

「人を殺していい理由なんて、どこにもありません」

 即答だった。

 迷いのない、真っ直ぐな声。

 小坂は、苦笑した。

「そうだな」

 だが、それだけでは足りない。

 犯人は、その“正しさ”を武器にしてくる。

「正義は、人を簡単に壊す」

 朝霧は、眉をひそめた。

「それって……経験談ですか」

 小坂は、少しだけ視線を逸らした。

「昔、似た事件があった」

「……似た?」

「“守るために壊す”と信じた人間がいた」

 それ以上は、語らなかった。

 だが、朝霧は察した。

 小坂凌にも、過去がある。

 ただのエリート刑事ではない。

 沈黙の中で、捜査本部の電話が鳴った。

 それは、偶然ではなかった。

「……小坂です」

 受話器の向こうから、緊張した声が響く。

『新しい情報です。次の“候補”ですが――』

 その言葉に、小坂の表情が変わった。

「誰だ」

『警察関係者です』

 朝霧が、息を呑む。

『正確には……内部調査課に出入りしていた、民間人です』

 小坂は、ゆっくりと立ち上がった。

 ――境界線が、越えられた。

 犯人は、警察の内側に踏み込んできた。

 それは宣戦布告に等しい。

「場所は」

『まだ特定中ですが、都内です』

 小坂は、拳を握り締めた。

 この事件は、

 もう“誰かを守る話”では終わらない。

 警察という組織そのものが、

 試されようとしている。

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冥界焔つむぎ

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