丙午ダッシュ!強運女子の初詣
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
強運自慢の餅子が、午年仕様の派手な着物で挑む2026年の初詣。三年連続大吉のプレッシャーもどこ吹く風、「今日も勝ち確!」とフラグを積み上げていく彼女と、それを見守る年賀丈一の正月コメディ!
本文
「……大吉、来い……!」
加賀美餅子(かがみ・もちこ)は、両手を合わせたまま、白い息をぷしゅーっと吐いた。
2026年の元日。
丙午(ひのえうま)の午年である。
まだ薄暗い早朝、神社の境内には、初詣客の列がずらりと伸びている。
その列の中で、餅子は、ひときわ目立っていた。
理由は簡単だ。
着物が、やたらと“走りそう”なのだ。
真っ赤な地に、金色の馬が駆け回る柄。
帯は炎のようなオレンジ。
髪飾りは、ちいさな馬の鈴。
どう見ても「午年を全力で主張しました!」というテンションが高すぎるコーディネートだった。
「餅子、その髪飾り、本当にやる気なの?」
隣でため息をついたのは、年賀丈一(ねんが・じょういち)。
丈一は、黒いコートにマフラーという、ごく一般的な冬の装いだ。
常識的すぎて、餅子の“暴れ馬コーデ”が際立つ。
「やる気もなにも、今年は丙午よ、丙午! “火の馬”よ? 燃える年よ?
ここで全力で走らなくてどうするの!」
「いや、走るのは気持ちだけでいいと思うけど……」
「細かいことは気にしないの。午年は“駆け抜ける年”なのよ!」
餅子は、胸を張って言った。
胸元の馬型ブローチが、カランと鳴る。
「それにね、去年まで“おみくじ大吉三連続”だったのよ、私。
2023、2024、2025と、ずっと大吉。ここで止めるわけにはいかないんだから!」
「そんな記録、聞いたことないけど……」
丈一は苦笑しながらも、どこか楽しそうだ。
列は少しずつ進み、やがて二人は本殿の前にたどり着いた。
賽銭箱の前で、餅子は財布を取り出す。
「よし、今年は奮発して五百円玉よ!」
「お、気合入ってるね」
「“ご縁がある”五円玉の十倍よ。つまり“ご縁が十倍”ってこと!」
「そういう計算なの?」
ぱしん、と二人は手を合わせ、それぞれ心の中で願いごとを唱えた。
(今年も美味しいものがたくさん食べられますように……できれば馬並みに食べても太りませんように……)
(今年こそ、餅子にちゃんと気持ちを伝えられますように……逃げずに、まっすぐに……)
願いごとの方向性は、微妙にすれ違っていた。
参拝を終えると、餅子はくるりと振り返る。
「さあ! 本日のメインイベント、おみくじタイムよ!」
「ん?初詣がメインじゃないの?」
「何言ってんの!初詣は“スタートライン”よ。おみくじが“本レース”!」
境内の一角にあるおみくじ売り場には、すでに人だかりができていた。
白い箱の中に、細長い棒がぎっしりと詰まっている。
「ここはね、毎年“大吉率が高い”って噂の神社なのよ」
「それ、統計取ったの?」
「SNSで見たから間違いないわ!」
「情報源が軽すぎじゃない?」
餅子は、箱の前で深呼吸をした。
「よし!いくわよ!午年だから、サラブレッドのごとく、運気をぶっちぎるの!」
餅子は、目を閉じて箱に手を突っ込んだ。
ごそごそと棒を探り、一本をつまみ上げる。
「これでお願いします」
巫女さんに棒を渡すと、番号を確認した巫女さんが、棚から一枚のおみくじを取り出した。
「はい、こちらが今年の運勢です」
「ありがとうございます!!!」
餅子は、わくわくしながら紙を開いた。
――その瞬間、彼女は固まった。
「……え?」
「どうだった?」
「……え???」
「どうしたの?」
「えええええええええ」
「大吉でた?」
もはや丈一の声、餅子には届いていないようだった。
おみくじを片手に餅子は、そわそわと動きまわる。回って、回って、回って、止まった。空を見上げ、当然笑顔になったかと思えば、また突然無表情に変わる。
やたらと“走りそう”なその着物の主•餅子は、参拝客の中でも”一際”を通り越えて目立ちよう。まるで神社にパフォーマンスを依頼された演者のようである。
そんな餅子を丈一は、すこし離れたところから、ただだだ見つめていた。
しばらくすると、我に帰ったように餅子が丈一に近づいてくる。
「……丈一?」
「うん?」
「“凶”って、本当に存在するのね……?」
餅子のもつ紙の一番上には、はっきりと「凶」の二文字。
餅子は、まるで世界の終わりを見たような表情だ。
「ねぇ、ねぇ!!! 私、三年連続大吉だったのよ!?
ここで“凶”って、どういうこと!? 午年よ!? 駆け抜けるどころか転んでるじゃないの!」
「落ち着いて、餅子。ほら、下のほうの文章、ちゃんと読んでみなよ」
丈一が紙を指さす。
そこには、こう書かれていた。
『今は足元がもつれているような時期ですが、
ここから歩幅を整えれば、
やがて風を切って走れるでしょう。
焦って全力疾走せず、まずは一歩から。』
「は??私の足元が”もつれている”ですって?」
「今よりもっと、上手に走れるようになるってことだよ」
「でも、凶は凶よ……。私の“連続大吉記録”が……」
餅子が肩を落としていると、隣で丈一が自分のおみくじを開いた。
「……あ、吉だ」
「うわああああああああああああああああああ!」
「ちょ、なんで悲鳴!?」
「私だけ凶!? この午年フル装備で!? こんなに馬を盛ってるのに!?
ねえ神様、わたしの気合い、伝わってるよね???」
「“暴れ馬注意”ってことじゃない?」
餅子が空に向かって抗議していると、背後からくすくすと笑い声が聞こえた。
「にぎやかな人たちね」
振り向くと、そこには巫女装束の少女が立っていた。
胸元の名札には「波通 梨加(はつう・りか)」と書かれている。
「さっきのおみくじ、私が渡したやつだよ。
“凶”って、実は当たりなんだよ?」
「……え?」
餅子と丈一が、同時に首をかしげる。
「この神社、今年から“干支おみくじ・午年バージョン”っていうのを始めたの。
普通のおみくじの中に、十二支それぞれの“特別メッセージ”が紛れてるんだ。
で、“凶”の中にだけ、丙午限定の“隠しメッセージ”が入ってるんだよ」
「隠しメッセージ!?」
餅子の目が、きらりと光った。
「ほら、そのおみくじの裏、見てみて」
「裏?」
餅子が紙をひっくり返すと、そこには小さなイラストが描かれていた。
炎をたてがみにまとった、丸っこい馬が、空を駆けている。
その下には、こう書かれていた。
『午年スペシャル・丙午
“凶を引いたあなたは、
暴れ馬を乗りこなす資格あり”
社務所でこのおみくじを見せると、
限定お守り&“ファイヤーおせち”試食券がもらえます。』
「……暴れ馬?」
「ファイヤーおせち?」
二人は顔を見合わせた。
梨加は、いたずらっぽく笑う。
「ね? 当たりでしょ?」
「なに……これ……?」
「少なくとも、SNS映えはすると思うよ」
「それは大事だわ!」
餅子は、さっきまでの落ち込みをどこかに置き忘れたように、ぱっと表情を明るくした。
「よし、行くわよ丈一! 社務所へ!」
「え、ちょ、引っ張らないで!」
餅子に腕をつかまれ、丈一はずるずると引きずられていく。
梨加は、その背中を見送りながら、ふっと笑った。
「……あ、そうだ」
梨加は、境内の片隅に立っている、もう一人の人物に声をかけた。
白いコックコートに、エプロン。
初詣客の中で、これまた異様に浮いている男――尾瀬智凌里(おせち・りょうり)だ。
「凌里さん、準備できてる?」
「もちろん。午年スペシャル“ファイヤーおせち”ね。
味も見た目も、今年は攻めてるよ。丙午らしく、ちょっと“火”を効かせてある」
凌里は、にやりと笑った。
「“暴れ馬を乗りこなす資格あり”って書いたの、君のアイデアだろ?」
「うん。どうせなら、凶を引いた人にも、笑って帰ってほしいからね。
“ちょっと怖そう”ってイメージの丙午も、楽しくスタートしてほしいし」
梨加は、東の空を見上げた。
少しずつ明るくなっていく空。
初日の出が、もうすぐ顔を出す。
――そのころ、社務所前。
「午年限定お守り、こちらになります!」
巫女さんが差し出したのは、小さな馬の形をしたお守りだった。
赤い布地に、金色の糸で馬が駆ける姿が刺繍されている。
「か、か、かわいい……! これ、絶対写真撮るやつじゃない!」
「餅子、もう十枚くらい撮ってるよ」
「角度が大事なのよ、角度が!」
餅子が夢中で写真を撮っていると、社務所の奥から、ふわりとスパイシーな匂いが漂ってきた。
「……なんか、すごくいい匂いしない?」
「する。おせちっぽいけど、なんか普通じゃない感じ」
そこへ、コックコート姿の凌里が現れた。
「いらっしゃい。今年から始まった“午年スペシャル・ファイヤーおせち”の試食会へようこそ」
「ファイヤーおせち!?」
「名前のインパクトがすごい……」
テーブルの上には、色とりどりのおせち料理が並んでいた。
しかし、よく見ると、どれもどこか“馬っぽくて、火っぽい”。
海老は、炎のように高く盛り付けられ、
伊達巻は、蹄鉄のような形にカットされている。
黒豆には、小さな赤いスパイスがちょこんとのっていて、
田作りは、まるで馬のたてがみのようにふわっと広がっていた。
「すごい……! 見た目が完全に“暴れ馬パーティー”だわ!」
「味もちゃんと伝統的だけど、ところどころピリッと“火”を入れてあるよ。
丙午だからね、“情熱的に行こう”ってコンセプトで」
凌里は、自信満々に胸を張る。
「この試食会、実は“凶”を引いた人限定なんだ。
“スタートでつまずいた人ほど、ここから勢いをつけて走れる”っていう意味を込めてるんだ」
「とても良いわね。
最初に“今年サイコー!”って言われるより、
“ここから加速するよ”って言われたほうが、
なんか、ワクワクするかも!」
餅子は、お守りをぎゅっと握りしめた。
「よし、決めた! 今年の目標!」
「お、出た。餅子の“今年の抱負”」
「“凶スタートからの大逆転! 馬のように、食べて、笑って、駆け抜ける一年にする!”」
餅子は、にかっと笑った。
その笑顔は、さっきまでの“凶ショック”が嘘のように明るい。
ふと、丈一が真面目な顔になる。
「じゃあ、俺も今年の目標、言っていい?」
「いいわよ。どうせ“仕事を頑張る”とかでしょ?」
「いや……」
丈一は、少しだけ視線をそらし、そして餅子を見つめた。
「“暴れ馬みたいな一年でも、
手綱を離さずに、餅子の隣で一緒に笑っていられるようにする”」
餅子は、一瞬きょとんとした。
「……なにそれ、急にカッコいいじゃない」
「ち、違うよ! そういうつもりじゃなくて、その、えっと……」
「ふふっ、冗談よ」
餅子は、ほんのり頬を赤くしながら、にやりと笑った。
「じゃあ、その目標、ちゃんと達成できるかどうかは――」
「どうかは?」
「来年の元日、おみくじ引いたあとに、またここで確認しましょ!」
丈一の胸の鼓動が、どくん、と大きく跳ねた。
「……うん。約束だよ」
二人の頭上で、太陽が顔を出した。
境内の屋根や木々が、金色に染まっていく。
午年、丙午の2026年の始まり。
“凶”から始まった餅子の一年は、
きっと、馬のようにドタバタしながらも、
笑い声を撒き散らして駆け抜けていくのだろう。
その隣には、きっと――
年賀丈一が、少し照れくさそうに笑いながら、
しっかりと“手綱”を握って立っている。
そして、境内の片隅では、
波通梨加が来年の干支おみくじの企画メモを書き始め、
尾瀬智凌里が、次の「干支おせち」の構想を、もう考え始めていた。
元日の空に、初日の出が高く昇る。
暴れ馬のように賑やかで、ちょっとだけスリリングな一年が、静かに動き出していた。
作品統計
📚 本を探すなら「よみどき」(あいぺんが運営する本の発見サイト)
130万冊を超えるコミック・小説・書籍の順位と値段を毎日みて、いま読むものを決められます。