第9話 黒の牙
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あらすじ
無垢な王女と貧民少女のスラム改革〜培った人脈で魔鉱石採掘労働者の職場環境を改善せよ!!〜 - 第9話 黒の牙
本文
リアと婦妻の間柄になって、だからキスとか同衾はするようになった。
だが、肌を重ね合わせた事は未だない。
やり方は知っているのだ。
義姉……つまり兄スヴェンの妻であるソラシャから座学で教わった。
ソラシャは属国であるハーリア国の王女でありながら、スヴェンの元に嫁ぐまでは男女どちらでも行ける遊び人で有名だった。
半ば人質としてヴェールバルドに来たが、結婚後は遊ぶ事なくスヴェンただ1人を愛した。
その情欲が全てスヴェンに向かっていくので、彼女が身篭るまでは毎日の様にやつれたスヴェンの姿がよく目撃されたものだ。
そんな訳で、義妹が女性を妻にしたという話を聞き付けて己の知識と経験を授けてくれた。
リアの事は愛しているし、愛し合いたいとも思うが正直怖い思いもある。
リアはどう思っているのかしら? とか、きっと素晴らしい肉体美なのだろう、とか。
そんな考えを振り払うようにレオノーラは小さく頭を振った。
「それで、何かしらの突破口は見付かりましたか?」
「え⁉︎ あ、スラムの事よね? えぇ、分かっているわっ!」
「?」
レオノーラは誤魔化すようにカップを一気に傾けた。
「んくっ……ふぅ。私はやっぱり鉱夫の待遇を改善するのが最優先だと思うわ」
「可能なのですか?」
「調べてみたんだけど、鉱山の経営は民営らしいの。
具体的には民間の企業が魔鉱石を採掘して、それを国に売る……という形式ね。
どうしてその形になったのかは分からないけど……恐らく利権絡みでしょうね」
「では鉱山経営に国は関わっていないと? ……私は本当に逆恨みでレオノーラ様を襲ってしまったのですね……」
「気にしないで。あくまで採掘業がそうというだけであって、スラムを放置していたのは私達の責任だもの。ね?」
「は、はい……」
それでもリアはしょげたままだ。
しおらしい彼女も可愛いと思いつつ、レオノーラは更に言葉を続ける。
「軽く調べただけでも炭夫の仕事は危険が沢山。
なのに何の対策もされていないし、やっぱり給与が低過ぎるわ」
「しかし経営者がレオノーラ様の言う事を素直に聞くでしょうか?」
「難しいでしょうね。基本的に経営に口出し出来る物では無いし、4つある鉱山の経営者全員が王城の会議に参加出来る程の力を持っている。
魔鉱石はヴェールバルドの象徴であり経済における命綱……お父様の覚えも良いし、私が何か言ったところで取り合ってはくれないでしょう」
「では如何なさるおつもりですか?」
「私も王城会議に出席するわ。そこで彼等が如何に杜撰な経営をしているか、それによって住民がどれ程苦しんでいるのか……それをお父様を始めとした有力者に訴えるの。
きっと私のようにスラムの状況を良くしたいと願っている人は他にもいるはず。
その方達とお父様が協力すれば、きっと待遇も改善される筈よ!」
「それは……いえ、そうなる事を私も願っております」
「……?」
一瞬言い淀んだリアにレオノーラは疑問符を浮かべつつ、眉間に皺を寄せる。
「ただ、一つ分からない事があるの。それ程重要な事では無いのだけど……」
「なんですか?」
「不当に低いとは言え、鉱夫は収入を得ている。
ではそのお金は何に使っているの? 正直売買が成立する環境には思えなくて……」
「あー……」
レオノーラの疑問にリアは申し訳なさそうな表情で顔を俯かせ……やがて意を決したようにレオノーラに向き合った。
「その、隠していたつもりでは無いのですが……」
「何か知っているの?」
「収入を得た住民は“黒の牙”と取引するんです」
「黒の、牙……? スラムにお店があるという事?」
「私も詳しい事は知らないのですが、黒の牙は地下組織と呼ばれる類の集団……だと思います。
恐らく黒の牙と言うのも本来の組織名では無いかと。
スラムが本拠地なのか、あくまで拠点の一つであるのかは分かりませんが……」
「その黒の牙が住民と売買をしていると?」
「そうです。と言っても出せるお金は少ないですし、得られる物も相応……城下町の残飯が殆どです。
ですが、そこが唯一正規で食べ物を得られる場なので……結局奪い合いになりますが」
「黒の牙は何故そんな事を……?」
「一つ確かな事実としては、若い女性に対して娼館での仕事を斡旋している事です。
……これはあくまでも噂程度ですが、人身売買も行っているとか。
スラムの住民と距離を縮め、商品の品定めと隠れ家の確保をしているのかと」
「そう……」
レオノーラは一際深い溜め息と共に表情を歪めた。
「やむを得ない事情があるとは言え、地下組織の収入源になり得るというのは見過ごせないわ。
環境改善と共に、正しいお金の使い先も用意しないといけないわね」
「その…それで、ですね……」
「まだ何かあるの?」
「実は……レオノーラ様を襲撃したのも、その黒の牙からの命令でして……」
「リアもメンバーなの⁉︎」
「い、いえ違いますっ! 私は餓死寸前の所で腐ってないパンを恵まれたんです。
そして王族に対する憎悪を煽られ、ナイフを待たされて……
その時は本当に王族が憎かったし、パンをくれた恩義もあってあんな事を……っ」
「リア、駄目よ。そんなにキツく腕を掴んでは怪我をしてしまうわ」
レオノーラは震える程自身の二の腕を掴むリアの右手を優しく解き、両手で包み込んだ。
「大丈夫、貴女は悪くないわ。悪いのは弱みに付け込んで悪事を働かせる黒の牙よ。
その手口からして、何かをやらされたのはリアだけでは無いのでしょうね……
今はまだ対処する余裕は無いけれど、スラムで健全な営みを成せれば黒の牙の力も弱まる筈よ。
その為にも私には貴女が必要なの。きっと辛く難しい道のりになるわ。
だからどうか私を支えてね。愛しのリア」
「レオノーラ様……っ!!」
感極まって抱きついてくるリアをレオノーラは優しく抱き留める。
頭一つ分高い彼女の背中をポンポンと叩きながら、近日に行われる王城会議への決意を新めて胸に刻んだのだった。
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