第21話 懸念
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
無垢な王女と貧民少女のスラム改革〜培った人脈で魔鉱石採掘労働者の職場環境を改善せよ!!〜 - 第21話 懸念
本文
「ふぅ……」
レオノーラはリアから受け取った水を飲みながら大工達を見守る。
(順調には来ている、けれど……)
問題もまた、山積みなのだ。
スラムも徐々に町としての体裁は整ってきているが、まだまだ足りない物は多い。
水源は鉱山近くの井戸頼り。
道も舗装されていないし、何より医者が居ない。
簡単な怪我ならレオノーラの治癒魔法で何とかなるが、本格的な病気は手が出せない。
レオノーラが常にその場に居合わせる訳でも無いし、魔力消費も大きいので乱発出来る魔法でも無い。
それに敵も居るしね……と、心の中で盛大な溜め息を吐いた。
まずスラムを根城にする黒の牙。
ここ数週間で被害報告が増えているが、それは被害が可視化されたからだろう。
以前までは隣人がいきなり消え失せようが誰も気にしなかった。
寧ろ仕事を奪い合うライバルが居なくなって喜ばしいとすら思っていた。
しかし、今は皆が仕事に有り付けている。
隣人は敵では無く、背中を預ける仲間となったのだ。
スラムの住民の人間関係が密になり、コミニュティで固まって集団生活するようになって黒の牙の仕事は随分とやり難くなった事だろう。
鉱夫が薄給だった頃は質の悪い食材を売る事で住民との接点を作っていたが、今ではレオノーラの働きにより美味い食事が提供されている。
今や大抵の住民は黒の牙の事など気にも留めない。
被害に逢った……と思われているのは未だに集団生活に馴染めない者、かつて黒の牙と接点を持っていた者ばかりだ。
(だから良いという訳では無いけれど。どうにかしたいけどスラムに軍隊を在中させる余裕はまだ無いし……)
そして、他の部署のお偉方。
レオノーラはスラム改革の為の予算を勝ち取ったが、それは即ち予算を減らされた部署があると言う事。
レオノーラとてスラム改革を諦める気はサラサラ無いが、彼等からしてみればスラムの貧民なぞ掃いて捨てる程居るし、正直どうでも良い存在だ。
会議に出席する度にスラム開発計画への疑問を口に出している。
そして……父、ダールトン。
当初こそ魔鉱石の採掘量を増やした事に上機嫌で、レオノーラに権限や予算を与えたが未だに金銭的な成果が出ていない事に苛立ち始めた。
妻を病気で喪って以来すっかり老け込んで情緒が不安定になり、会う度に早く税を取り立てろと急かして来る。
まだその段階では無いとレオノーラや兄スヴェンが説得して漸く落ち着いてくれたが、いつまた暴発するか分からない。
自分がスラムで指揮を執っている間はスヴェンが相手をしてくれている事に申し訳なさを感じているレオノーラだった。
借金の件もそうだし、ユークレッドを追い詰めたガルアークの書類や魔鉱銃を入手出来たのもスヴェン子飼いの密偵のおかげだ。
本当にスヴェンには頭が上がらない。
「姫様!」
「あら、バルコさん。どうかしたの?」
バルコもまたバーラムと同じくバイトとしてやってきた魔法使いだ。
「坑道の地盤が少し脆くなってまして……まだ気にする程では無いのですが一応ご報告しておこうかと思いまして」
「それは大変ね。すぐに行くわ」
レオノーラが慌てて席を立ちリアと共に、バルコの後ろに続く。
バルコさんはドライなイメージがあったけどこうやって気に掛けてくれて嬉しい、とレオノーラは微笑んだ。
「確かに……少し怖いわね」
レオノーラが目を細める。
バルコの言う通りまだ大きな被害が出る程では無いが、放っておいて良い事は無いだろう。
「下がっていて」
レオノーラはしゃがみ込み、チョークを使い地面に魔法陣を描いていく。
「大地の精霊よ、大いなる我等が父よ。
その御力で我等が地を治め給え。
豊穣と慈愛を以て、この地を包み給え。
願わくばその大いなる御力の一端を我に貸し給う。
大地の精霊よ、我が祈りを聞き届けたまえ」
レオノーラの詠唱が終わると同時に魔法陣は光を放ち、周囲の岩がゴロゴロと音を立てながら……しかし粘土のように動きだし、やがて綺麗に均されたような壁面を見せた。
「おぉ……」
バルコは目を輝かせながらその光景を見つめている。
「お見事です、レオノーラ様!」
リアも興奮気味にレオノーラを褒め称える。
リア自身は魔法に詳しくは無いが、同じ魔法使いであるバルコが称賛の声を上げるので、きっと凄い事なのだと判断したのだろう。
「ふふっ、ありがとう。これで補強は出来たと思うけど、また何か異変を見付けたら報告お願いね?」
「はい!」
レオノーラははにかみながら立ち上がろうとして
「あっ……」
「レオノーラ様っ!?」
ふらついて、間一髪という所でリアの胸に抱き止められ転倒を免れる。
「ご、ごめんなさいね……少し目眩が」
「大丈夫ですか?」
リアはレオノーラの顔色を伺うように覗き込む。
「ええ、大丈夫よ」
レオノーラは安心させようと微笑むが、疲労の色は隠せない。
「無理もありません。半ば地形を変えるような魔法をお一人で行使した訳ですから……後は我々に任せてどうか姫様はお休みください」
「ごめんなさいね……ありがとう」
バルコに促され、レオノーラはリアに支えられながら仮拠点に戻った。
食事、入浴とリアに世話を焼かれ、城の物よりも硬いベッドに横たわる。
添い寝するリアに頭を優しく撫でられ(他にも世話役のメイドが複数人居るが、彼女達に見守られながら添い寝されるのももう慣れた)、その温もりに安堵しあっという間に眠りについた。
「……ろ…レオ……ラお……ろっ!!」
「んん……」
遠くから自分を呼ぶ声が聞こえて、レオノーラは目を覚ます。
「起きろ! レオノーラ!」
「……リア? どうしたの……?」
明かりが付けられた部屋の眩しさに目を細めながらレオノーラがふにゃふにゃと起き上がる。
「敵襲だ!」
「……えっ?」
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