見えなくても、大丈夫

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/1/3 📝 2,153文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

1月3日「ひとみの日」に因んで作った作品。実話をもとにした中編小説の中から、序盤シーンを切り取りショートショートに再編集しました。

本文

「Cの向きを教えてね」

 保健室の先生がそう言って、白い棒で壁を指した。

 小学一年生の俺は、首を傾げた。

「……Cって、何ですか?」

「あれあれ、見えないかな? 黒いまるがあるでしょう?」

 先生が指している方向を見る。白い壁に、何かがある。黒い……丸? いや、丸というより、ぼんやりした影みたいなものが浮かんでいる。

「えっと……わかんないです」

「そっかそっか。じゃあ、もうちょっと前に出てみようか」

 言われるまま、俺は検査表の前まで歩いた。近づくにつれて、黒い影が少しずつ形になっていく。

「あ、見えた! まるだ!」

「よかった。じゃあ、どっちが開いてるかな?」

「えーっと……右?」

「うーん、残念。左だったかな」

 隣で順番を待っていた田中くんが、くすくす笑った。

「小野田、目悪いの?」

「悪くないよ! たぶん!」

 その日の検査結果、俺の視力は両眼で0.4だった――というのは、大人になってから母に聞いた話だ。

「小野田くん、"お手紙"を渡すから、お母さんに見せてね」

 先生から渡された封筒を、俺はランドセルの奥底にしまった。

◆ ◆ ◆

「ただいまー」

 母さんは夕飯の支度をしながら、振り向いた。その顔には、牛乳瓶の底みたいに分厚い眼鏡が乗っかっている。俺が物心ついた頃から、母さんはずっとこの眼鏡をかけていた。

「あのね、"お手紙"もらった」

 俺がランドセルから封筒を取り出すと、母さんの表情が少し曇った。

「……やっぱりねぇ」

 母さんは、静かにため息をついた。

「ママ、俺の目、悪いの?」

「うーん……そうかもしれないわね。ママに似ちゃったのかもしれない」

 俺は母さんの分厚い眼鏡を見上げた。正直に言うと、あの眼鏡はあんまりかっこよくないなあ、と思っていた。ごめん、母さん。

「俺も、ママみたいな眼鏡かけるの?」

「どうかしら。今度、目のお医者さんに行って聞いてみましょう」

◆ ◆ ◆

 眼科で検査を受けた結果、俺は「近視」だと診断された。母さんと同じタイプの近視らしい。

 眼鏡はまだ様子見ということになり、代わりに視力回復センターに通うことになった。週に二回、母さんと一緒に電車に乗って、隣町のセンターへ行く。

 遠くを見て、近くを見る。目を上下左右に動かす。赤い点を追いかける。

「先生、これ何の意味があるんですか?」

「目の筋肉を鍛えてるの。目も筋トレが必要なのよ」

「目に筋肉あるんですか?」

「あるのよ。見えないけどね」

 見えない筋肉を鍛える。なんだか不思議な話だ。

 俺は真面目にトレーニングに通った。家でも遠くを見るようにした。

 一年が経った。

 結論から言うと、俺の視力は回復しなかった。

「お母さん、正直に申し上げますと……トレーニングで改善できる範囲を超えているように思います」

 母さんは黙って頷いた。厚い眼鏡の奥で、母さんの目が少し潤んでいるように見えた。

「ママ、俺のせいでお金かかっちゃったね」

「何言ってるの、光のせいじゃないわよ。そういう体質なだけよ」

 母さんは俺の頭を撫でた。

「背が高い人、低い人がいるでしょう? それと同じ。目がいい人、悪い人がいるの」

 俺は母さんの分厚い眼鏡を見た。

「ママ、俺もママみたいになるの?」

「どうかしらね。わからないわ。でもね、光」

「なに?」

「ママは目が悪くても、光を産んで、育てて、今こうして一緒にいるでしょう?」

「うん」

「目が悪くても、幸せになれるのよ」

 母さんは笑った。分厚い眼鏡の奥で、母さんの目は優しく笑っていた。

◆ ◆ ◆

 小学三年生の春、俺はついに眼鏡をかけることになった。

「光、似合うわよ」

「本当?」

 眼鏡屋さんの鏡で、俺は自分の顔を見た。青いフレームの眼鏡。レンズは、母さんのよりずっと薄い。それでも、なんだか自分じゃないみたいで、変な感じがした。

「なんか、変じゃない?」

「変じゃないわよ。かっこいいわ」

「ええ、とてもお似合いですよ。知的に見えますね」

 店員さんにも言われて、俺は少し気を良くした。

 眼鏡をかけて外に出た瞬間、俺は息を呑んだ。

「……すごい」

 世界が、くっきりと見えた。

 遠くの看板の文字が読める。木の葉っぱが一枚一枚見える。空を飛ぶ鳥の形がわかる。今まで俺が見ていた世界は、こんなにもぼやけていたのか。

「ママ、すごいよ! めっちゃ見える!」

「よかったわね」

「あ、あそこの看板! 『ラーメン大盛り無料』って書いてある!」

「そんなに離れてるのに見えるの?」

「見える! すごい! 眼鏡すごい!」

 俺ははしゃいで、あちこちを見回した。世界がこんなにもクリアだったなんて。こんなにも色鮮やかだったなんて。

 俺は眼鏡のフレームに手を添えながら、空を見上げた。青い空に白い雲が浮かんでいる。その輪郭が、はっきりと見える。

 ふと、母さんの方を見た。母さんも空を見上げていた。分厚い眼鏡越しに、同じ空を見ている。

「ママも、初めて眼鏡かけた時、こんな気持ちだった?」

「……そうね。たぶん、同じ気持ちだったと思うわ」

 俺たちは並んで歩いた。眼鏡をかけた母さんと、眼鏡をかけた俺。

 見えないものがあった。でも、見える方法を見つけた。

 母さんが歩いてきた道を、俺もこれから歩いていくんだ。

 それは少し心細くて、でも、少し心強かった。

 隣を歩く母さんの手を、俺はぎゅっと握った。

(了)

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作者について

あいの

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あいぺん毎日更新中! AIと読書が趣味なのでAI小説を作り始めました。自分の想像した世界を、AIの力を借りながら文字に起こす毎日を楽しんでいます。

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