初夢シェアリング
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
初夢AIアプリの話。
本文
第一章 元日の朝
元日の朝、ユウタは最悪の目覚めを迎えた。
枕元のスマホが、けたたましくアラームを鳴らしている。受験勉強のために早起きする習慣が、正月でも身体に染みついていた。
「はあ……」
ユウタはため息をついて、スマホを手に取った。
画面には、SNSアプリ「DreamShare」の通知が並んでいる。
『あけましておめでとう! 今年の初夢をシェアしよう!』
『一富士二鷹三茄子! みんなの縁起の良い夢を見てみよう!』
DreamShare。去年の秋にリリースされた、初夢専用のSNSアプリだ。
AIが睡眠中の脳波を分析して、見た夢を自動でテキスト化してくれる。専用のヘッドバンドを着けて寝るだけで、朝起きたら夢の内容が文章になっている。
ユウタも、大晦日の夜、半信半疑でヘッドバンドを着けて寝た。
そして、見てしまったのだ。
最悪の初夢を。
ユウタはアプリを開いた。
タイムラインには、友達やクラスメイトの初夢が並んでいる。
『富士山の頂上に登った! 最高の景色だった!』
『鷹が空を飛んでいて、僕も一緒に飛んだ!』
『おばあちゃんが作ってくれた茄子の漬物が出てきた。めっちゃ美味しかった!』
みんな、縁起の良い夢ばかり。
ユウタは、自分の「夢の記録」タブを開いた。
そこには、AIが自動生成した、昨夜の夢のテキストが表示されていた。
『2025年1月1日の夢
僕は高校の入学式にいる。しかし、教室に入ると、誰も僕のことを知らない。友達を作ろうと話しかけるが、みんな冷たい顔をして無視する。
昼休み、一人で弁当を食べていると、誰かが「あいつ、中学の時に友達いなかったらしいよ」と噂している。
放課後、部活の見学に行くが、どの部活も「うちは募集してない」と断られる。
家に帰ると、母が心配そうに「高校、大丈夫?」と聞いてくる。僕は「大丈夫」と答えるが、涙が止まらない。
夢の中で、僕は一人ぼっちだった』
ユウタは、スマホを握りしめた。
最悪だ。
元日から、こんな夢を見るなんて。
しかも、内容が妙にリアルだ。ユウタは今、中学三年生。二月には私立高校の入試、三月には公立高校の入試が控えている。
もし、本当にこんな高校生活になったら……
ユウタは、考えたくなかった。
スマホを見ると、タイムラインには相変わらず、縁起の良い夢ばかりが流れている。
ユウタは、自分の夢を投稿するか迷った。
こんな夢、投稿したら、みんなに笑われるかもしれない。「ユウタ、縁起悪いな」って。
でも……
ユウタは、ふと思った。
みんな、本当にこんな良い夢ばかり見てるのかな?
もしかして、悪い夢を見た人は、投稿しないだけなんじゃないか。
ユウタは、意を決して、投稿ボタンを押した。
自分の悪夢を、正直に、シェアした。
第二章 反応
投稿してから、三時間。
ユウタは、勉強机に向かっていたが、全く集中できなかった。
スマホが気になって、何度も何度もアプリを開いてしまう。
自分の投稿には、まだ反応がゼロだった。
「いいね」もコメントもない。
一方で、友達の「富士山の夢」には、もう百を超える「いいね」がついている。
ユウタは、後悔し始めた。
やっぱり、投稿なんてしなきゃよかった。
こんな縁起の悪い夢、誰も見たくないよな。
その時、スマホが震えた。
通知だ。
ユウタは、慌ててアプリを開いた。
誰かが、コメントをくれていた。
『わかる。私も似たような夢見た。新しい環境って、怖いよね』
ユウタは、目を丸くした。
コメント主は、同じ中学の、別のクラスの女子、アヤカだった。
ユウタは、急いでアヤカの投稿を見に行った。
そこには、こう書いてあった。
『高校の初日、教室で自己紹介をするが、緊張しすぎて何も話せない。みんなが笑っている。先生に「もういいよ」と言われて、恥ずかしくて泣きそうになる夢』
ユウタは、じわりと胸が温かくなった。
自分だけじゃない。
アヤカも、不安な夢を見ていたんだ。
それから、次々とコメントが届いた。
『僕も、高校で友達できるか心配で、似たような夢見ました』
『私、部活で失敗する夢見た。受験も怖いけど、入学後も怖いよね』
『縁起の良い夢を見ようと思ったけど、やっぱり不安な気持ちが夢に出ちゃうんだよね』
ユウタの投稿に、共感のコメントが集まってきた。
「いいね」の数も、じわじわと増えていく。
みんな、同じだったんだ。
縁起の良い夢を投稿している人の中にも、本当は不安を抱えている人がいる。
ユウタは、少しだけ、気持ちが楽になった。
第三章 予感
一月が終わり、二月になった。
私立高校の入試が始まった。
ユウタは、第一志望の私立高校を受験した。自己採点では、まあまあの手応え。合格発表は一週間後だ。
その間、ユウタは毎日、DreamShareを見ていた。
自分の初夢の投稿には、今では三百を超える「いいね」と、百件近いコメントがついていた。
中には、こんなコメントもあった。
『この夢、予知夢だったりして? 気をつけてね』
『夢って、無意識の警告だって聞いたことある。何か心配なことがあるのかも』
ユウタは、少しドキッとした。
予知夢……
まさか、そんな。
でも、もしそうだったら?
二月十日、合格発表の日。
ユウタは、学校のパソコン室で、発表を見た。
受験番号を探す。
……あった。
合格だ。
ユウタは、ほっとした。
よかった。これで、春から新しい高校生活が始まる。
その日の放課後、ユウタは合格した高校の説明会に参加した。
体育館で、新入生向けのオリエンテーションが行われる。
ユウタは、会場に入った。
そして、周りを見回した時、はっとした。
この光景……
どこかで見たことがある。
いや、見たんじゃない。
夢で、見たんだ。
あの初夢の、高校の入学式の場面と、この体育館の雰囲気が、よく似ている。
ユウタの心臓が、早鐘を打った。
もしかして、本当に予知夢だったのか?
だとしたら、これから、あの夢と同じことが起きる……?
第四章 選択
説明会が終わった後、ユウタは一人で帰ろうとした。
その時、後ろから声をかけられた。
「ねえ、君も合格したの?」
振り返ると、同じ中学の、違うクラスの男子が立っていた。名前は、タクヤ。
ユウタは、少し驚いた。タクヤとは、中学でほとんど話したことがない。
「うん、合格した」
「そっか。よかったな。俺も受かったんだ」
タクヤは、嬉しそうに笑った。
「なあ、これから、どっか寄ってかない? 近くにファミレスあるし」
ユウタは、迷った。
夢の中で、ユウタは一人ぼっちだった。誰とも友達になれなかった。
でも、今、タクヤが声をかけてくれている。
もし、ここで断ったら……
あの夢と、同じ道を歩くことになるかもしれない。
ユウタは、初夢を思い出した。
あの夢を投稿して、みんなからコメントをもらった。
『新しい環境って、怖いよね』
『でも、一歩踏み出せば、きっと大丈夫』
そんなコメントもあった。
ユウタは、深呼吸をして、答えた。
「うん、行こう」
ファミレスで、ユウタとタクヤは、二時間も話し込んだ。
タクヤは、意外と気さくで、面白い奴だった。中学では別のクラスで、接点がなかっただけで、話してみると、共通の趣味もたくさんあった。
「なあ、ユウタって、公立も受けるの?」とタクヤが聞いた。
「うん、受けるよ。北高志望」
「マジで!? 俺も北高受けるんだ!」
タクヤは、目を輝かせた。
「じゃあさ、もし私立蹴って公立行くことになったら、一緒だな」
「そうだね。公立も一緒に頑張ろう」
「おう! もし同じ高校になったら、同じ部活入ろうぜ」
「いいね。何部がいい?」
「バスケとか?」
「俺、バスケ苦手だけど……まあ、やってみようかな」
二人は、笑い合った。
家に帰る途中、ユウタはスマホを取り出した。
DreamShareを開いて、自分の初夢の投稿を見る。
あの悪夢。
でも、今日、ユウタは違う選択をした。
タクヤと友達になった。
これで、あの夢とは違う未来を歩める気がする。
第五章 新たな道
三月上旬、公立高校の入試当日。
ユウタは、緊張しながら試験会場に向かった。
会場の前で、タクヤとばったり会った。
「お、ユウタ! 頑張ろうぜ!」
「うん、お互いにね」
二人は、拳を合わせた。
試験が終わった夜、ユウタはタクヤにメッセージを送った。
『お疲れ様。どうだった?』
すぐに返信が来た。
『まあまあかな。ユウタは?』
『俺も何とか。合格発表、ドキドキするね』
『だな。でも、きっと大丈夫だよ』
三月中旬、公立高校の合格発表の日。
ユウタは、学校のパソコン室で、発表を見た。
受験番号を探す。
……あった。
合格だ。
ユウタは、ガッツポーズをした。
やった。北高に受かった。
すぐにタクヤにメッセージを送った。
『受かった!』
数秒後、返信が来た。
『俺も! やったな、ユウタ!』
『おめでとう、タクヤ! 同じ高校だ!』
『春から一緒だな。楽しみだわ!』
ユウタは、嬉しくて、涙が出そうになった。
あの初夢では、一人ぼっちだった。
でも、現実では、友達ができた。
しかも、その友達と、同じ高校に進める。
第六章 感謝
四月、入学式の日。
ユウタは、新しい制服を着て、北高の門をくぐった。
体育館での入学式。クラス発表。新しい教室。
すべてが、初めてで、少し緊張する。
でも、怖くはなかった。
なぜなら、タクヤがいるから。
タクヤは違うクラスだったけど、休み時間に会いに来てくれた。
「ユウタ、クラスどう?」
「まあ、まだ慣れないけど、大丈夫そう」
「そっか。俺のクラスも良い感じだわ。部活、やっぱバスケ入ろうぜ」
「うん、そうだね」
入学式の後、ユウタは新しいクラスで、何人かに声をかけてみた。
「よろしく」
「こちらこそ」
みんな、笑顔で答えてくれた。
放課後、ユウタは一人で帰り道を歩いていた。
スマホを取り出して、DreamShareを開く。
元日に投稿した、あの初夢。
ユウタは、新しいコメントを書き込んだ。
『あれから三ヶ月。今日、高校の入学式でした。
夢で見たような、一人ぼっちにはなりませんでした。
友達もできたし、新しいクラスの人たちとも話せました。
あの悪夢を投稿して、本当によかった。
みんなからのコメントで、「自分だけじゃない」って思えたし、「一歩踏み出せば大丈夫」って勇気をもらえた。
そして、夢を知っていたから、同じ道を歩かないように、気をつけることができました。
初夢って、縁起の良い夢を見るのが大事なんじゃなくて、どんな夢を見ても、それを受け止めて、行動することが大事なんだと思います。
ありがとう、みんな。
そして、ありがとう、AI。
悪夢を見せてくれて』
ユウタは、投稿ボタンを押した。
すぐに、コメントが届いた。
『おめでとう! よかったね!』
『素敵な高校生活を!』
『ユウタの投稿、私も勇気もらったよ』
ユウタは、微笑んだ。
初夢は、縁起物じゃない。
自分の心を映す、鏡なんだ。
そして、その鏡を見て、自分がどう行動するかが、未来を変える。
ユウタは、スマホをポケットにしまって、春の空を見上げた。
桜が、満開だった。
(完)
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