消えるメッセージ
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
三が日限定のメッセージ。
本文
第一章 新年の通知
元旦の夜、遠藤隼人のスマホが静かに震えた。
家族との夕食を終え、自室でゴロゴロしていた隼人は、面倒くさそうに画面を覗き込んだ。通知の内容を見て、彼は息を呑んだ。
『**エフェメラルメール**から新着メッセージがあります』
エフェメラルメール――正月限定で流行している、1月3日の23時59分に自動消滅するメッセージサービスだ。年賀状の代わりに、儚いデジタルメッセージを送り合う。そんな風変わりなサービスが、今年は若者の間で話題になっていた。
隼人自身は使ったことがなかった。周囲の友人たちが「エモい」「余韻がやばい」と盛り上がっているのを横目で見ていただけだ。
それなのに、誰かが自分に送ってきた。
隼人はアプリを開いた。
送信者の名前を見た瞬間、心臓が跳ねた。
**川村咲希**
三年前、別れた元恋人の名前だった。
指先が震える。タップするべきか、それとも――
いや、もう開いてしまった。
画面に浮かび上がったのは、シンプルな一文だった。
『あけましておめでとう。元気にしてる?』
それだけだ。
隼人は画面を見つめたまま、動けなくなった。
第二章 三年前の記憶
川村咲希。
大学時代の同級生で、二年間付き合った恋人。
別れたのは、就職のタイミングだった。咲希は地元の福岡に戻り、隼人は東京に残った。遠距離は無理だと、二人とも分かっていた。泣きながら笑って、「またいつか会えたらいいね」と言い合って別れた。
あれから三年。
隼人は仕事に追われ、何人かと付き合ってはみたものの、どれも長続きしなかった。咲希のSNSはとっくにフォローを外していたから、彼女が今どうしているのかは知らない。
知らないはずだった。
なのに、どうして今、メッセージを?
隼人はスマホを握りしめた。返信すべきだろうか。いや、でも何を書けばいい? 「元気だよ」なんて素っ気ない返事でいいのか? それとも、もっと何か――
いや、待て。
隼人はふと気づいた。このメッセージ、1月3日に消えるんだ。
つまり、あと二日しかない。
返信するなら、今日か明日のうちに。
隼人は深く息を吐いた。
咲希は何を思って、このメッセージを送ってきたんだろう。未練? それとも、ただの新年の挨拶?
隼人の指は、返信ボタンの上で迷い続けた。
第三章 儚い言葉
1月3日、23時50分。
隼人はようやく決心した。
この二日間、何度もメッセージを開いては閉じ、開いては閉じを繰り返していた。咲希の「元気にしてる?」という問いかけが、隼人の胸に突き刺さったまま抜けなかった。
もう逃げるのはやめよう。
返信しよう。素直に、今の気持ちを。
隼人はキーボードを開いた。
『元気だよ。咲希は?』
いや、これじゃ素っ気ない。消して、もう一度。
『久しぶり。咲希も元気そうで良かった』
違う、これじゃまるで他人行儀だ。
隼人は何度も文章を打っては消し、消しては打った。
そして、ようやく決まった。
『あけましておめでとう。元気だよ。咲希のこと、ずっと忘れてなかった。また会えたらいいね』
送信ボタンを押そうとした瞬間――
画面がフラッシュした。
咲希のメッセージが、音もなく消えた。
23時59分。
時間切れだった。
隼人は呆然と、真っ白になった画面を見つめた。
消えてしまった。
咲希の言葉も、自分が打ち込んだ返信も、全部。
しばらくして、隼人はゆっくりとスマホを置いた。
部屋は静まり返っていた。
でも不思議なことに、隼人の胸には、怒りも後悔もなかった。
ただ、切なさと、温かさが入り混じった、不思議な感覚だけがあった。
咲希は、もしかしたら返信を期待していなかったのかもしれない。
ただ、新年の挨拶を送りたかっただけ。
三年前の思い出を、少しだけ蘇らせたかっただけ。
そして、隼人も――
彼女のことを、まだ忘れていなかったんだと、確かめられた。
それだけで、十分だった。
隼人は窓の外を見た。
新年の夜空には、冷たい星が瞬いていた。
メッセージは消えた。
でも、咲希の最後の言葉だけは、確かに心に残っていた。
『また会えたらいいね』
そうだね、咲希。
いつか、また――
隼人は静かに微笑んだ。
儚いメッセージは消えたけれど、その余韻だけは、ずっと残り続けるだろう。
(了)
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