成人の日の夜に

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/1/12 📝 4,205文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

成人の日の話。

本文

第一幕 再会

 マンションのドアを開けると、静寂が桐島遥を出迎えた。

 一月の冷たい空気が部屋に流れ込む。コートを脱ぎ、バッグをソファに投げ出すと、遥は大きく息を吐いた。四十歳の成人の日。会社では特に何も起こらない、ただの月曜日だった。

 キッチンで温めた缶コーヒーを手に、遥はリビングのソファに身を沈めた。テレビをつけると、ニュースで新成人たちの晴れやかな笑顔が映し出されている。振袖姿の女性たちが、友人と肩を組んで写真を撮っていた。

「懐かしいな……」

 遥は呟いた。二十年前の自分も、あんな風に笑っていただろうか。

 ふと、本棚の奥に仕舞い込んだままの小さな箱が目に入った。成人式の日に受け取った、政府配布のメモリーバックアップデバイス。あの日、全国民が二十歳の記憶と人格をAIにバックアップする制度が始まった。二十年後の自分への、タイムカプセルのようなものだと言われた。

「本当にちゃんと動くのかな」

 遥は箱を手に取り、埃を払った。中には名刺サイズの薄いデバイスが入っている。充電端子に繋ぐと、小さなLEDが緑色に点灯した。

『桐島遥さん、認証完了。二十歳時のパーソナルAIを起動しますか?』

 機械音声が問いかける。遥は一瞬躊躇したが、コーヒーを一口飲んで決心した。

「起動」

『起動します』

 デバイスから投影されたホログラムが、リビングの空中に人の形を結んだ。光の粒子が集まり、徐々に輪郭を描いていく。

 そして――二十歳の桐島遥が、そこに立っていた。

「わあ……久しぶり、私」

 ホログラムの少女が、きょとんとした表情で周囲を見回した。振袖ではなく、カジュアルなワンピース姿。成人式の夜、自宅でバックアップを取った時の服装だ。

「ここ、どこ? あれ、私の部屋じゃない……」

 二十歳の遥は、不思議そうに首を傾げる。その仕草も、声も、かつての自分そのものだった。

「あのね、ここは未来。二十年後」

「えっ、二十年!?」

 少女の目が丸くなった。そして、ソファに座る四十歳の遥をまじまじと見つめる。

「……もしかして、私?」

「そう。四十歳の、私」

 二十歳の遥は、信じられないという顔で固まった。それから、ゆっくりと遥の周りを回り始める。

「うそ……本当に私なの? 髪、短くなってる。あと、なんか、疲れてる……?」

「失礼ね」

 遥は苦笑した。確かに鏡を見れば、目尻の小皺も、ほうれい線も、二十歳の頃にはなかったものだ。

「ごめん、ごめん」

 少女が慌てて手を振る。その様子がおかしくて、遥は小さく笑った。

「座って。色々、話したいこともあるでしょ」

「うん!」

 二十歳の遥は、嬉しそうにソファの反対側に腰を下ろした。ホログラムだから実際には座っていないのだが、重力を意識した自然な動きだ。

「ねえねえ、未来ってどう? 私、夢叶えた?」

 少女の瞳が輝く。その無邪気な期待に、遥は言葉に詰まった。

第二幕 対立

「夢……って、あれのこと?」

「そうだよ! デザイナーになるって決めたじゃん。大学で勉強して、卒業したら絶対にアパレルブランドに就職するって」

 遥は視線を逸らした。コーヒーカップを両手で包み、その温もりに縋る。

「それは……ね」

「どうしたの? もしかして、もう叶えた? すごい! どこのブランド? パリコレとか出た?」

 少女の質問が矢のように飛んでくる。遥は小さく首を振った。

「違う。デザイナーには、なれなかった」

「えっ……」

 二十歳の遥の表情が曇る。

「じゃあ、今は何してるの?」

「会社員。事務職」

「事務……?」

 少女は信じられないという顔をした。

「デザインとは全然関係ない仕事?」

「そう。毎日、パソコンと書類と向き合ってる。地味だけど、安定してる」

「なんで? なんでそんな仕事に……」

「色々あったのよ」

 遥は言葉を濁した。就職活動の失敗、アパレル業界の厳しさ、生活のための妥協。そのすべてを、どう説明すればいいのか。

「色々って何? 私、あんなに頑張ってたのに。スケッチブック何冊も埋めて、徹夜で課題やって……」

「わかってる。でもね、現実は厳しいの」

「現実って……」

 少女の声が震える。

「じゃあ、恋愛は? 結婚は? 確か、大学で好きな人がいたよね。涼くん」

 遥は再び視線を落とした。

「彼とは、別れた」

「えっ……いつ?」

「大学卒業の時。就職で地元に帰ることになって。遠距離は無理だって」

「そっか……」

 二十歳の遥は肩を落とした。それから、少し間を置いて尋ねる。

「じゃあ、今は誰かいるの? 素敵な人と結婚したとか?」

「してない。独身」

「彼氏は?」

「いない」

「……そっか」

 沈黙が部屋を支配した。時計の秒針だけが、規則正しく時を刻む。

「ねえ」

 少女が静かに口を開いた。

「私たち、何のために頑張ってきたの?」

「何って……」

「デザイナーになる夢も諦めて、好きだった人とも別れて、四十歳になっても一人で。それって……幸せなの?」

 遥は返す言葉を失った。胸に刺さる問いかけ。二十年間、自分に問い続けてきた疑問を、かつての自分に突きつけられる。

「幸せかどうかなんて、簡単に言えないわ」

「でも、私が思い描いてた未来じゃない!」

 二十歳の遥が立ち上がった。ホログラムが揺れる。

「私、毎日必死だった。いつか絶対に夢を叶えるって信じて。それなのに、四十歳の私は諦めてる。平凡な毎日に満足してる。そんなの……」

「そんなの、何?」

 遥も立ち上がった。

「言いなさいよ。そんなの、何なの?」

「……裏切りだよ」

 少女の目に涙が浮かぶ。

「私が信じてた未来への、裏切りだ。私、こんな大人になりたくなかった」

 その言葉が、遥の心を深く抉った。

「あなたに何がわかるの」

 遥は低い声で言った。

「二十歳のあなたに、この二十年の苦労が何もわからないくせに」

「だって……」

「人生は思い通りにいかないの。夢を追いかけるだけじゃ生きていけない。現実を見なきゃいけない時が来るのよ」

「それって、ただの言い訳じゃん!」

 少女が叫んだ。

「諦める理由を並べてるだけ! 本当は、怖かっただけでしょ? 失敗するのが怖くて、挑戦することから逃げたんでしょ?」

「黙りなさい!」

 遥も声を荒げた。

「あなたは若いから、理想ばかり語っていられる。でも私は、生きていかなきゃいけなかったの! 家賃を払って、食べて、働いて――そうやって一日一日を積み重ねてきたのよ!」

「それは……」

「あなたには、まだわからない。これから二十年かけて、やっとわかるの。人生は、夢だけじゃないって」

 二十歳の遥は、震える唇を噛みしめた。

「じゃあ聞くけど」

 少女が、真っ直ぐに遥を見つめる。

「今、幸せなの? 自分の人生に、満足してるの?」

 遥は答えられなかった。

「……言えないんだ」

 少女が静かに呟く。

「やっぱり、私の未来は、こんなんじゃなかった」

 ホログラムがゆらりと揺れた。

第三幕 和解

 遥はソファに座り込んだ。両手で顔を覆う。

「……そうね」

 絞り出すような声だった。

「幸せかどうかなんて、わからない」

 二十歳の遥が、黙って座り直す。

「でもね」

 遥は顔を上げた。目元が少し赤い。

「後悔ばかりじゃない。確かに夢は諦めた。でも、得たものもある」

「得たもの……?」

「会社の同僚たち。毎朝挨拶してくれる近所のおばあちゃん。時々会う大学の友達。それから……」

 遥は窓の外を見た。冬の夜空に、星が瞬いている。

「毎日、ちゃんと生きてるって実感。それって、案外大事なことなのよ」

「でも、夢は……」

「夢はね、諦めたわけじゃない。形が変わっただけ」

 遥は、本棚から一冊のスケッチブックを取り出した。

「週末、趣味で描いてる。誰に見せるわけでもない、自分だけのデザイン画」

 ページを開くと、そこには色鮮やかなドレスのスケッチが並んでいた。二十歳の遥が、目を見開く。

「これ……すごい。二十歳の時より、ずっと上手」

「二十年、描き続けてきたから」

 遥は微笑んだ。

「プロにはなれなかった。でも、描くことは止めなかった。それじゃダメだった?」

 少女は静かにスケッチブックを見つめた。

「……ダメじゃ、ない」

「ありがとう」

 二十人の遥が、ゆっくりと顔を上げる。

「ねえ、一つ聞いていい?」

「何?」

「四十歳の私は……私のこと、嫌い? 二十歳の、夢ばかり見てた私のこと」

 遥は首を横に振った。

「嫌いじゃない。むしろ、愛おしいわ」

「えっ……」

「だって、あなたがいなければ、今の私はいない。あなたの夢があったから、私は生きてこられた。たとえ形は変わっても、あの時の情熱は、今も心のどこかにあるの」

 遥は、二十歳の自分の隣に座った。ホログラムだから触れることはできないけれど、そっと手を伸ばす。

「だから、ありがとう。夢を見せてくれて」

 少女の目から、一筋の光が流れた。AIに涙は流せないはずなのに、感情の模倣がそこにあった。

「私も……ありがとう」

 二十歳の遥が微笑む。

「四十歳まで、ちゃんと生きてくれて。夢の形は変わっても、諦めずに描き続けてくれて」

 二人は並んで、窓の外を眺めた。

「ねえ、約束して」

 少女が言う。

「六十歳になった時も、描き続けてて。私たちの夢を」

「約束する」

 遥は頷いた。

「それから、もう一つ」

「何?」

「もっと、自分に優しくして。四十歳の私、頑張りすぎ。たまには休んでね」

「……そうね。そうするわ」

 デバイスのLEDが点滅を始めた。バッテリーの残量が少ない。

「そろそろ、時間みたい」

 二十歳の遥が立ち上がった。

「最後に一つだけ。涼くんのこと、本当に好きだった?」

「……うん。本当に好きだった」

「なら、いいの。後悔してないなら」

 ホログラムが薄くなり始める。

「またね、私。二十年後に」

「ええ。六十歳で、また会いましょう」

 光の粒子が散り、二十歳の桐島遥は消えた。

 リビングに、再び静寂が戻る。

 遥は、手の中のコーヒーカップが冷たくなっていることに気づいた。時計を見ると、もう日付が変わろうとしている。

 スケッチブックを手に取り、遥は新しいページを開いた。ペンを走らせる。今日出会った、二十歳の自分の姿を描く。無邪気で、輝いていて、夢に溢れた少女。

 そして、その隣に、四十歳の自分も描き加えた。疲れた顔をしているけれど、どこか穏やかな笑みを浮かべた女性。

 二人は手を繋いでいた。

「これからも、よろしくね」

 遥は呟いて、スケッチブックを閉じた。

 窓の外で、新しい日が始まろうとしていた。

(了)

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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