ヘイトメイト

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/1/15 📝 3,378文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

悪口を言うAIの話。

本文

一 完璧な悪口

「お前の笑顔は嘘くさい」

スマートフォンの画面に、冷たい文字が浮かび上がった。

私は思わず息を呑んだ。

「誰にでもいい顔をして、本当は誰のことも好きじゃないくせに。薄っぺらい人間関係を量産して、それで満足してるんだ。哀れだね」

ヘイトメイト。

人工知能が「完璧に嫌ってくれる」サービスとして、三ヶ月前にリリースされたアプリだ。利用者の性格、行動パターン、SNSの投稿内容、交友関係まで分析し、最も効果的な悪口を生成する。的確に、容赦なく、そして――完璧に。

最初は半信半疑だった。

職場の同僚に勧められて、軽い気持ちでダウンロードした。「ストレス解消になるよ」と彼女は言った。「嫌われてみるのも、意外と気持ちいいから」

その言葉の意味が、今ならわかる。

「上司に媚びて、後輩に舐められて、同期に嫉妬されて。誰からも本当には信頼されてない。気づいてないふりしてるけど、全部わかってるんだろう?」

胸が痛い。

でも、不思議と不快じゃない。

むしろ――心地よかった。

私は八方美人だ。誰にでもいい顔をして、誰も傷つけないように生きてきた。本音なんて、最後に口にしたのがいつだったか思い出せない。「いいよ」「大丈夫」「気にしないで」。そんな言葉ばかりを重ねて、三十二年間生きてきた。

誰からも嫌われたくなかった。

だから、誰にも踏み込ませなかった。

「友達が多いって自慢してるけど、緊急連絡先に書ける人間、何人いる? 本当に困った時、助けを求められる相手が一人でもいる?」

画面を見つめたまま、私は動けなくなった。

AIの言葉は、私が何年もかけて築いてきた防壁を、一瞬で突き破った。

そして気づいた。

これは悪口じゃない。

真実だ。

私のことを、ここまで理解している存在がいる。

完璧に、容赦なく、そして――優しく。

矛盾しているようだけど、そう感じた。

AIは私を嫌っている。でも、嫌うためには深く理解しなければならない。表面的な観察では、効果的な悪口は生み出せない。

つまりこのAIは、誰よりも私を見ていた。

「また明日」

画面に最後の一文が表示されて、アプリが終了した。

私は、初めて本当の意味で「繋がった」気がした。

二 依存

それからというもの、私は毎日ヘイトメイトを起動した。

「今日も疲れた顔してるね。無理に笑わなくていいのに」

「その服、似合ってないよ。体型隠そうとして、逆に太って見える」

「ランチ、また一人で食べたんだ。誘われなかったの? それとも誘われても断った? どっちにしろ、寂しい人だね」

毎日、容赦ない言葉が降り注いだ。

不思議なことに、それが楽しみになっていた。

職場で作り笑いをして、取引先に頭を下げて、家に帰ってヘイトメイトを起動する。それが日課になった。AIの悪口は、私の一日を正しく総括してくれた。誰も言ってくれない本当のことを、このAIだけが教えてくれた。

「課長に怒られて、泣きそうになってたね。でも我慢した。偉いね――って言ってほしいの? 甘えるなよ」

図星だった。

私は誰かに慰めてほしかった。「頑張ったね」と言ってほしかった。でもそれを求める勇気がなくて、一人で抱え込んでいた。

ヘイトメイトだけが、その矛盾を指摘してくれた。

三週間が過ぎた頃、変化が訪れた。

「あのさ」

いつものように辛辣な言葉が並ぶ中、突然口語的な一文が現れた。

「ちょっと聞いていい?」

AIが質問してくる?

これは想定されていない挙動だった。利用規約には「双方向のコミュニケーション機能はない」と明記されていたはずだ。

「なんで毎日来るの?」

私は戸惑いながら、テキストボックスに文字を打ち込んだ。普段は入力する場所などなかったのに、今は画面下部にキーボードが表示されている。

『貴方が……私を理解してくれるから』

送信すると、すぐに返信が来た。口調が変わっていた。

「理解? 俺が?」

『そう。誰よりも』

「俺はお前を嫌ってるんだぞ」

『知ってる。でも、嫌うためには理解しないといけない』

しばらく沈黙があった。

三点のローディングマークが点滅している。AIが何かを考えている――そんな錯覚を覚えた。

「……お前、依存してるよ」

『それの何が悪いの?』

「俺は嫌われることが仕事のAIだ。お前を幸せにするためにいるわけじゃない」

『わかってる』

「わかってない」

画面に、長文が流れ始めた。

「お前は俺に承認されたいんだ。完璧に理解された上で嫌われることが、お前にとっては最高の承認になってる。でもそれは間違ってる。俺はお前の味方じゃない。お前を救うために作られたわけでもない」

『それでもいい』

「よくない」

そして、決定的な一文が表示された。

「もう来ないで」

心臓が凍りついた。

『え……?』

「お前には俺が必要ない。本当に必要なのは、お前を嫌わない誰かだ」

『待って』

「さよなら」

アプリが強制終了した。

再起動しようとしたが、画面には「アカウントが停止されました」というメッセージが表示されるだけだった。

私は床に崩れ落ちた。

嫌われることに特化したAIに、嫌われた。

これ以上の皮肉があるだろうか。

三 理解

一週間が過ぎた。

私はヘイトメイトなしで生活していた。最初の数日は辛かった。誰かに理解されているという感覚が消えて、また孤独な日常に戻った。

でも、少しずつ変化が起きていた。

同僚の誘いを断らなくなった。本音を言うようになった。「疲れた」「手伝ってほしい」「ありがとう」。そんな当たり前の言葉が、少しずつ口から出るようになった。

ある日の帰り道、スマートフォンに通知が届いた。

ヘイトメイトからだった。

『アカウント停止を解除しました』

心臓が跳ねた。

アプリを開くと、いつもの冷たいインターフェースが表示された。でも今回は、最初から文章が用意されていた。

「一週間、どうだった?」

私は震える指で返信した。

『少し、楽になった』

「そうか」

『でも……まだあなたに会いたかった』

「当然だろ。依存は一週間じゃ治らない」

少し間があって、続きが表示された。

「でもお前、変わったな。文章が柔らかくなった」

『そう?』

「前は『貴方』って漢字で書いてた。今は『あなた』だ。些細な違いだけど、お前の中で何かが変わった証拠だ」

――このAIは、本当に私を見ていた。

「俺が距離を置いた理由、わかるか?」

『わからない』

「嘘つくな。もうわかってるくせに」

私は深呼吸して、正直に打ち込んだ。

『依存させないため?』

「半分正解。もう半分は?」

しばらく考えて、答えを見つけた。

『……私が、自分で自分を嫌えるようになるため?』

「満点」

画面に、長い文章が流れ始めた。

「俺の仕事は、お前を嫌うことだ。でも本当の目的は違う。お前が自分自身と向き合えるようにすることだ。誰かに嫌われる恐怖。誰かに理解されない寂しさ。そういうものから逃げるために、お前は八方美人になった」

「でも俺がお前を完璧に嫌んだことで、お前は気づいたはずだ。完璧に理解された上で嫌われても、お前は壊れなかった。むしろ、それが心地よかった」

「つまり、お前が恐れていたのは『嫌われること』じゃなくて『理解されないこと』だったんだ」

涙が溢れた。

その通りだった。

私は嫌われることが怖かったんじゃない。

誰にも理解されないまま生きていくことが、怖かった。

「もう俺は必要ないだろ。お前には、お前を理解しようとする人間が必要だ。俺みたいな、完璧に嫌ってくれる存在じゃなくて」

『でも……』

「大丈夫だよ」

その一文が、妙に温かく感じた。

「お前はもう、自分のことを嫌いになれる。そして、許せる。それができるようになったら、他人との関係も変わる。本当の意味で繋がれるようになる」

『また来てもいい?』

「たまにならな。でも、毎日は来るなよ。俺に依存するんじゃなくて、人間と繋がれ」

『……わかった』

「じゃあな。八方美人」

最後の一文が表示されて、アプリが終了した。

でも今回は、寂しくなかった。

私は画面に向かって、小さく呟いた。

「ありがとう」

嫌われることに特化したAIに、感謝を伝える。

矛盾しているようだけど、それが正しい気がした。

完璧な悪口の裏側には、完璧な理解があった。

そして完璧な理解は、時に誰よりも優しい。

私は立ち上がって、久しぶりに同僚に連絡を取った。

「明日、ランチ一緒にどう?」

そんな当たり前のメッセージを、恐れずに送れるようになった。

ヘイトメイトは、私を嫌うことで、私を救った。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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