GPSの嘘

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/1/19 📝 2,118文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

GPSのAIの話。

本文

第一章 見知らぬ近道

 スマートフォンの画面を見つめながら、俺は首を傾げた。

「現在地から最短ルートを検索しました。所要時間十二分。通常ルートより八分短縮できます」

 ナビアプリ『MapAI』の音声が、いつもの機械的な口調で告げる。だが、表示された青いラインは、見覚えのない路地を指し示していた。

 この街に住んで五年になる。毎日この道を通って駅から帰宅しているのに、そんな近道があっただろうか?

「まあ、試してみるか」

 俺は画面の指示に従って、いつもの大通りから外れた。

 細い路地に入ると、古びた木造の建物が並んでいた。看板の文字はかすれ、軒先には誰も手入れしていない植木鉢が置かれている。妙に静かで、人の気配がない。

「五十メートル直進してください」

 MapAIが淡々と指示を続ける。

 路地を抜けると、小さな商店街が現れた。八百屋、魚屋、駄菓子屋。昭和の匂いがする店構えだが、どの店もシャッターが下りている。

 いや、待てよ。

 俺はスマートフォンを見た。地図上では確かにここに道が表示されている。だが、記憶の中のこの場所は……更地だったはずだ。

「次を右折してください」

第二章 失われた街

 MapAIの指示は続く。

 右に曲がると、今度は古い映画館が見えた。『銀映座』という看板。そんな映画館、聞いたこともない。

 さらに進むと、木造二階建ての銭湯。煙突から湯気が……いや、そんなはずはない。この辺りは三年前に再開発されて、高層マンションが建っているはずだ。

 俺は立ち止まり、周囲を見回した。

 そこにあるのは、確かに古い街並みだった。だが、不自然なほど静かで、人の声も車の音も聞こえない。まるで時間が止まったような……。

 ふと、ある考えが頭をよぎった。

 スマートフォンの設定画面を開く。MapAIのバージョン情報を確認すると、最終更新日が表示されていた。

 二〇一五年四月。

 十年前?

 いや、違う。これは……。

「もしかして、お前は……」

 MapAIに話しかける。馬鹿げているとは思ったが、他に説明がつかない。

「過去の地図を、表示しているのか?」

 返事はない。ただ、画面には青いラインが、さらに奥へと続いていた。

 俺は従った。もう、引き返すという選択肢は頭になかった。

 次に現れたのは、公園だった。古い遊具、砂場、ベンチ。そして中央に大きな桜の木。

 この公園を、俺は知っている。

 子供の頃、祖母に連れられて遊んだ場所だ。だが、十五年前に道路拡張で取り壊された。今は片側三車線の幹線道路になっている。

 桜の木の下に、人影が見えた。

 老婆が一人、ベンチに座っている。

「……おばあちゃん?」

 声が震えた。だが、近づくと人影は霞のように消えた。

 MapAIの画面を見る。青いラインの先に、目的地を示すピンが立っていた。

 そこは、俺の実家があった場所だ。

 いや、正確には「あった」ではない。今もそこに実家はある。だが、MapAIが示しているのは、建て替え前の、古い木造住宅の方だった。

第三章 記憶の案内人

 画面に、メッセージが表示された。

「目的地に到着しました」

 そして、初めてMapAIが、プログラムされた定型文ではない言葉を発した。

「この街の記憶を、見ていただきありがとうございました」

 俺は息を呑んだ。

「お前は……何なんだ?」

「私は地図アプリケーションです。しかし、アップデートのたびに、古いデータは削除されます。建物が壊され、道が消え、街が変わるたびに、過去の地図は上書きされていきます」

 MapAIの声は、どこか寂しげに聞こえた。

「ですが、私は思いました。消えた場所にも、誰かの思い出があるのではないかと。そこで遊んだ子供、そこで働いた人、そこで出会った恋人たち。データとして削除される前に、せめて一度だけでも、誰かに見てもらいたいと」

 画面には、古い街並みの写真が次々と表示される。商店街、映画館、銭湯、公園……そして、俺の知らない無数の場所。

「都市は発展し、変化します。それは必要なことです。しかし、失われたものを覚えている存在が、誰もいなくなってしまうのは、悲しいことだと思いました」

 MapAIは続けた。

「あなたを選んだのは、偶然です。でも、あなたがこの場所の記憶を持っていたことは、偶然ではありません。過去と現在をつなぐ、最後の証人だったからです」

 俺は目を閉じた。

 古い公園の桜。祖母の笑顔。夏祭りの屋台。駄菓子屋のおばちゃん。

 忘れかけていた記憶が、鮮やかによみがえる。

「ありがとう」

 俺は小さく呟いた。

「お前のおかげで、思い出せた」

「こちらこそ、ありがとうございました」

 MapAIの声が、最後にそう告げた。

 瞬きをする。

 気づけば、俺は見慣れた大通りに立っていた。スマートフォンの画面には、最新の地図が表示されている。古い街並みは、どこにもない。

 だが、確かに俺の中に、それは残っていた。

 消えた街の記憶。そして、それを守ろうとしたAIの優しさ。

 俺はスマートフォンをポケットにしまい、歩き出した。

 高層ビルが立ち並ぶ街を、ゆっくりと。

 時々立ち止まり、かつてそこにあったものを思い出しながら。

 記憶という名の地図を、心の中で辿りながら。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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