第6話 刻まれた魔界語。不穏な空気
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あらすじ
内閣魔導院・魔法生活安全局、対魔法市民支援課の生真面目公務員と皮肉屋悪魔 - 第6話 刻まれた魔界語。不穏な空気
本文
澪side
「魔界語……⁉︎ なんでそんな物が⁉︎」
「知るか。悪魔を召喚して従わせれば魔界語の呪文を刻む事は出来るだろうが……そういう事は一般的じゃないのか?」
「全然一般的じゃないです! 仮に悪魔の呪文を用いる場合には魔導院の産業魔導局に許可を取り、表記する義務があります。
ですがこのお掃除ゴーレムには見当たりません……」
どうしよう……取り敢えず課長に判断を仰ごう。
携帯魔法波通信機で課長に連絡を取る。
『もしもし、九重さん? お掃除ゴーレムの件はどうなったの?』
「無事に停止しました。ですがコアとなる羊皮紙を取り出したら、そこには通常の呪文に加えて魔界語の呪文も刻まれたいました」
『魔界語? それは妙ね……メーカーは分かる?』
「えっと……『魔道具製造会社・グレイブス』です」
『グレイブスって言えば業界屈指の老舗だけど……あそこの商品に魔界語の呪文があったなんて聞いた事無いわね。
今軽く調べてるけど、悪魔呪文を用いてる旨は何処にも書いていないわ』
「どうしましょう……?」
『残念ながら市支課にそれを調査する権限は無い。
メーカーに連絡して調べてもらうしか無いわね』
「分かりました。グレイブスに連絡して引き取り、調査を依頼します」
『お願いね。引き取りが終わったら直帰して良いから』
「分かりました」
課長との通話を切り、メーカーであるグレイブスに連絡した。
30分後に到着した従業員さんに件のお掃除ゴーレムと羊皮紙を渡す。
「こちらです。魔界語の呪文が追加されている不具合は良く有る事なのでしょうか?」
「いやぁ、普通はそんな事起こり得ないんですが……野良の悪魔が悪戯で事を起こす事は稀にあるんです。
こちらで改めて詳しく調べさせて頂きます。
また何かありましたらご連絡致しますので……」
「お忙しい中ありがとうございます。宜しくお願いします」
私は頭を下げてグレイブスの車を見送った。
これ以上は市支課の私に出来る事は無い。
課長にも言われたし帰っちゃおうかな。
お掃除ゴーレムと相対してる時や、グレイブスの従業員さんを待ってる間に市民の方々から写真や動画を撮られて気疲れしちゃったし。
南新興区の物って高いから買い物も出来ないし……
◇◇◇◇◇
「悪いニュースともっと悪いニュースが有るわ。
九重さんはどっちから聞きたいかしら?」
翌朝。
市支課に向かうと開口一番課長に不穏な事を言われた。
「えっと、悪いニュースからお願いします……?」
「市支課に、というか九重さんにクレームが入ったの。
半裸の少女を公衆の面前で連れ歩くのは如何なものか……ってね」
「え? あぁ……っ⁉︎」
そうだった! 悪魔だから、とそういうものとして受け入れてたけど、ナナちゃんは見た目は可愛い女の子だ。
そして身に纏っているのは下手な下着よりも布面積の小さい布切れ……
これでは市民の方々からお叱りを受けても仕方がない……!
「も、申し訳ございません! 早急にナナちゃんにお洋服を着せますので……!」
「お願いね。すぐ近くに安く買える服屋があるから後で見に行くと良いわ。服の代金は経費扱いにするから」
「ありがとうございます……!」
「そしてもっと悪いニュース。
あの魔界語が刻まれた羊皮紙、問題無いって」
「……はい?」
「魔界語を使った形跡は見られなかった。
あのお掃除ゴーレムの暴走は単なるエラーだった……そうよ」
「そんな⁉︎ コアとなる羊皮紙には確かに別の言語の呪文が書き加えられていました!
悪魔のナナちゃんはソレをはっきりと魔界語だと……悪魔が使う呪文だと言っていました」
「それは確かだ。お前達がどう思おうと勝手だが、アタシは確かに見た。あれは魔界語だ」
「グレイブスはお掃除ゴーレム以外にも様々な商品を販売しています。
配膳ゴーレムや洗濯ゴーレム……中にはもっと大型の建設支援型のビルド・ゴーレムや防衛警備型のウォード・ゴーレム……
更にはまだ試用段階ですが、ゴーレムの技術を用いて作った運搬用の自動運転トラックも街中を走っています。
お掃除ゴーレムは柵に体当たりするだけで人的被害は出ませんでしたが、これらの大型ゴーレムが暴走したらその被害は計り知れません! 今一度再検査の要求を……」
「無駄よ」
「……っ、だったら産業魔導局に調べて貰えば……」
「無駄だ、と言ったわ。グレイブスはその産業魔導局から問題無しとのお墨付きを貰っているのよ」
「な、何でですか⁉︎ そんなのおかしいです! 放っておいたら市民の安全が……」
「九重さん」
「っ」
霧島課長の重く、怒気が籠った声。
怖くて、気圧されて……私は口が止まってしまった。
「弁えて頂戴、九重さん。
貴女も私も内閣魔導院の職員なの。上の決定には逆らえないわ。
確かに市民の安全は大事よ。その為に私達が居る。
けれど……市支課に出来るのは民間の魔法トラブルの解決やケアだけ。
私達はそれぞれ己の役割を全うする事で市民の生活を支えているの。
度を越した……言ってしまえば越権行為の介入は組織の秩序を乱してしまつう。
今回は暴走したお掃除ゴーレムの活動を停止させられた。
市民の方々に被害が出る前に止められた。
九重さんは自分に出来る最大限の成果を出した……それで良しとするべきなのよ」
「……はい」
課長の言う通りだ。
組織というのは人間社会を円滑に回す為に生まれたシステム。
誰かが勝手をすればその秩序は歪んでしまう……
それこそ市民に危害を齎す危険もある。
それは、分かっている。
「ですが、私は……っ」
「……九重さん、これだけは言っておくわ。
貴女が“勝手な行動”を取って何らかの不利益を生んだ場合……私は庇えない。それを肝に銘じておきなさい」
「……⁉︎ は、はい!」
「ふぅ、空気が重くなっちゃったわね。ナナちゃんの服でも見に行ったら? 何かあったら連絡するから」
「ありがとうございます! ナナちゃん、行きますよ!」
「はいはい」
ナナちゃんを引き連れて、エレベーターに乗り込んで。
周りに人が居ない事を確認して、ナナちゃんがぽつり。
「調べるなら自己責任って事か」
「禁止されなかったという事は、課長にも思うところが有ったという事です。
えぇ、何せ私達は内閣魔導院・魔法生活安全局、対魔法市民支援課……市民の方々を魔法トラブルから守るお仕事なのですから……!」
確かに立場的にも協力は出来ない。
けれど、課長は確かに私の味方だと……そう思える。
よし、頑張るぞ……!
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