第45話 新しい日常(終)
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
内閣魔導院・魔法生活安全局、対魔法市民支援課の生真面目公務員と皮肉屋悪魔 - 第45話 新しい日常(終)
本文
澪side
魔導駆動列車(リミテッド・ライン)から降りて、人混みの中を歩いて……家に着く頃にはすっかり疲労困憊になってしまった。
「ただいまです……」
力ない声で呟きながら、玄関を開けて靴を脱ぐ。
今日は本当に長い一日だった。朝から晩まで現場を駆け回り、悪魔の暴走を鎮め、市民の不安を和らげ――気づけば、もう夜遅くになっていた。
「おかえりなさい、澪。ナナとスルナもお疲れ様」
セラちゃんの声が聞こえた。顔を上げると、セラちゃんが優しく微笑んでいた。
「あ、ただいま戻りました……」
私が挨拶を返すと、セラちゃんが私の鞄を受け取ってくれた。
「今日も大変だったでしょう? 顔色悪いわよ」
「そんなことは……」
「嘘つかないの。ほら、こっち来て」
セラちゃんに手を引かれて、ふかふかのソファに座らされる。
セラちゃんから一緒に住まないかと誘われて、それを受けて。
家賃は折半で……と言いたいけど、私の収入ではそれすら厳しい。
払えなくは無いけど、趣味や貯金に回すお金が無くなるから……とセラちゃん固辞されてしまった。
ならせめて家事だけでも……とは思うけど、最近は益々忙しくなって、先に帰ってきたセラちゃんが済ませてくれている事もしばしば。
我ながら情けない……
「ご主人様、お疲れですよね? スルナがマッサージします!」
「い、いえ、大丈夫ですから……」
今日はスルナちゃんも大活躍だった。
様々な経験を経て感知能力がアップしていて、対象の位置をかなり正確に絞り込めるようになった。
暴走した悪魔や、不穏な魔導具の捜索等で頑張ってくれた。
そんなスルナちゃんにマッサージをして貰うのは気が引けるから断ったけど……
「大丈夫じゃないわよ。肩、ガチガチじゃない」
セラちゃんが私の肩に手を置いて。その温かさに、思わず力が抜ける。
「ん……」
「ほら、やっぱり。無理してるでしょう?」
セラちゃんの手が優しく肩を揉みほぐしていく。
スルナちゃんも私の足首から少しずつ上に向かって揉んでいく。
「ご主人様、いつも頑張りすぎです……もっと自分を大事にしてください」
「でも、市民の皆さんが困っていますし……」
「澪が倒れたらもっと困るわよ」
セラちゃんが私の耳元で囁いた。その吐息が耳にかかって、思わず体が震える。
「せ、セラちゃん……近いです……」
「いいじゃない。恋人同士なんだから」
「こ、恋人って……!」
恋人、なのだろうか。
確かに私とセラちゃんは特別な関係で、お互いを想い合っていて……同棲までしている。
なら、恋人と言って差し支えない、の、かな……?
その事実に思い至って顔が熱くなる。
「ん……」
それを見たからか、セラちゃんが私の頬にキスをした。
「きゃっ……!?」
「ふふ、可愛い」
「ずるいです、セラさん! スルナもします!」
セラちゃんがくすくす笑って。
対抗する様にスルナちゃんが私の反対側の頬にキスをした。
「す、スルナちゃんまで……!」
「スルナ、ご主人様の事が大好きですから」
スルナちゃんが満面の笑みで言う。
私は二人に挟まれて、どうしていいかわからなくなった。
恥ずかしいけれど、温かい。二人の体温が、私の疲れを癒してくれる。
「まったく、お前ら騒がしいな」
ナナちゃんの呆れた声が聞こえた。見ると、ナナちゃん目の前にプカプカ浮かびながらこちらを見ていた。
「ナナちゃん……」
「澪、お前も疲れてるなら休め。無理するな」
「はい……」
「それと……」
ナナちゃんが私の頭をポンと叩いた。
「今日は良く走り回ったじゃないか」
「ナナちゃん……」
思わず笑みが零れる。
ナナちゃんは相変わらず皮肉屋だけど、最近は少し優しくなったし、好意を見せてくれるようになった。
照れくさそうに顔を逸らすけど、その耳が少し赤い。
「ナナさん照れてます?」
「照れてない」
「照れてるじゃない」
「黙れ小娘!」
ナナちゃんが顔を真っ赤にして怒る。その姿が可愛くて、私も思わず笑ってしまった。
「ふふ……」
「お前まで笑うな!」
「ごめんなさい! でも、ナナちゃんが可愛くて……」
「……やっぱりロリコンじゃないのか?」
「や、やっぱりとは……!?」
ナナちゃんやスルナちゃんが子供の姿なのは偶然なのに……!?
「はいはい、可愛い悪魔さんね」
セラちゃんがナナちゃんの頭を撫でた。
「やめろ!」とナナちゃんが抗議するけど、セラちゃんは構わず撫で続ける。
これまではナナちゃんに物理的に距離を縮める人は居なかった(私はいつも揶揄われる側だから)。
セラちゃんと同棲してからは良く構っている。
スルナちゃんとも張り合いはするけど、構ってもいるからセラちゃんは想像以上に面倒見が良いのかも。
「ふふ」
その光景を見ながら心が温かくなるのを感じた。
疲れていた。大変だった。でも、こうして帰ってくる場所がある。
セラちゃんが優しく労ってくれる。
スルナちゃんが心配してくれる。
ナナちゃんが素直じゃないなりに気遣ってくれる。
それだけで、私の心がスッと軽くなる。
「ねえ、澪」
「はい?」
「お風呂、一緒に入らない?」
「え……?」
「背中、流してあげるわ」
「い、いえ、一人で大丈夫ですから……!」
「遠慮しないで。それとも、私と一緒は嫌?」
「そ、そんなことないです! ただ……恥ずかしくて……」
「なら、いいじゃない」
セラちゃんが微笑む。
ずるい。あんな寂しそうな顔をされたら断れない事を知っている。
「スルナも一緒に入ります!」
「えっ!? セラちゃんと二人きりでも恥ずかしいのに、スルナちゃんともなんて……!」
「じゃあアタシも入るか」
「な、ナナちゃんまで!?」
普段な面倒だからと入りたがらないのに……!
あのニヤニヤ笑いはさっきの仕返し……っ!
「さ、行きましょ。夕食はその後でね」
「精一杯ご奉仕しますねっ」
「アレか? 身体にボディソープを付けて密着すれば良いのか?」
「そ、それは……っ」
思わずゴクリと唾を呑んでしまう。
結局、私はセラちゃん達に連れられてお風呂場へ向かった(セラちゃんに誘われたグラディエルさんとアステシアさんは警護を理由に断られた)。
あれよあれよと言う間に服を脱がされ、浴室の椅子に座らされて髪や身体を洗われる。
恥ずかしいけれど、嬉しい。
こんな日常が私は大好きだ。
疲れも、辛さも、全部癒してくれる。
この温もりがあるから私は明日も頑張れる。
「ありがとうございます」
私は小さく呟いた。
セラちゃんとスルナちゃんが笑顔になって。
ナナちゃんの顔は見えないけど、きっと笑ってる。
ヒヒイロカネ計画はきっとまた動き出す。
犠牲になった天使や悪魔の反発も考えられるし、精霊を失った事で衰退した自然も取り戻したい。
門倉だって健在で、また市民に悪影響を及ぼすかもしれない。
それ以前に、市民の方々の魔法への恐怖やトラブルにも寄り添わないと。
……うん、大変だ。
だからこそ、私達が居る。
ナナちゃんとスルナちゃん。
セラちゃんにグラディエルさん、アステシアさん。
こんなにも心強くて、優しい人達が居る。
だから、また明日も頑張ろう。
fin
作品統計
📚 本を探すなら「よみどき」(あいぺんが運営する本の発見サイト)
130万冊を超えるコミック・小説・書籍の順位と値段を毎日みて、いま読むものを決められます。