龍虎の祈り
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
探偵少女の花染夢邦は大嫌いな実家のお爺ちゃんから9歳の自分に婚約者が出来たと話される。 翌日自分のクラスにやってきた少年にいぶかしげなものを感じながらも日常を送っていくとなんとその少年、方丈縁和のことを最愛の姉が好きになってしまったと聞く。 そんな圧倒的な理不尽にさいなまれながらも彼女は姉を守るため、そして両親のような真実の愛を育むために今日も謎を解いていく
本文
「縁和くん、牛乳とパンケーキミックスと卵を入れてボウルから出ないように慎重に、でも大胆に回すの。グールグールグールグールって」
「えっと……こんな感じか?」
「そうそう、上手だよ!!」
我が家のキッチンでお姉ちゃんと縁和が仲良くパンケーキを作っている。あたしはそんな二人のやりとりに聞き耳を立てながらソファに座っていた。横には何を考えているのか緊張した様子の龍虎がいる。
「そんなにかしこまらなくていいのよ。もうとっくに冷静になってるって言ったでしょう」
「でも…拷問器具………」
「いざって時の為に必要になるかなって思っただけよ。それよりいくつか話しておきたいことがあるんだけどいいかしら?」
「うん、それはもちろん良いんだけど………僕、拷問するのは苦手で……されるのは訓練してるんだけど」
龍虎は元々とある殺し屋組織に所属していた。言うまでもなくイリーガル極まりない組織だったのであたしが龍虎を引き抜いた後にぶっ潰しておいたんだけど、組織時代の言動がまだ抜けきっていないのは考え物ね。日常生活で出なければいいんだけど。
「拷問については忘れなさい。それよりあの縁和のことなんだけど、敵って確定したわ」
「え!?」
「声を抑えなさい。お姉ちゃんに聞こえちゃ困るわ」
「ご…ごめんなさい。それよりなんで確定したの?」
「今日一日過ごしてきておかしなことに気づかなかった?」
「ん?」
この注意力の弱さも少し困りものね…まぁいいわ。そこはあたしが補えばいいんだし。
「あいつ、あたしのことは夢邦さんって呼ぶくせに、お姉ちゃんのことは花染さんって呼ぶのよ」
「ん?そうだったっけ?」
「そうだったのよ。あたしみたいな性格の悪さがにじみ出ているガキ相手に下の名前を呼ぶくせに、人の良さが天元突破してるお姉ちゃんのことを名字で呼ぶなんてどう考えてもおかしいでしょ」
「確かに、逆なら分かるけれど……と言うかそもそも双子の姉妹だって分かってるのに一人は下の名前で一人は名字ってのも不思議な話だよね。むーちゃんは下の名前で呼べって言った?」
「最初から夢邦さん呼びだったから言ってないわね。多分、あたしが花染って呼ばれるのが嫌いだってことを知っていたのよ。意識的か、無意識かは知らないけれど呼び方の違いがでてきてしまった……そんなところでしょう。
そして何より、おかしい点が一つ」
あたしは懐からクナイを取り出しくるりと回した。
「こんな男心くすぐる物騒なもんを投げられたってのにあの淡白な反応はおかしいでしょう。見た限り女の子相手に何も言えないチキン野郎ってわけでもなさそうだしね」
クルクルと回してまた服の中に直す。クナイって便利よね、あたしみたいな雑魚でも簡単に大の大人の喉を掻っ切れる、ガキの喉ならもっと簡単……ふふふふ。
「むーちゃん、怖い顔してるよ」
「あらそう?生まれつきじゃないかしら?
ともかく、そういうわけで縁和はあたし達の敵、少なくとも事前にあたしの情報を得ていたとしか思えないわ」
「どうする?」
「どうもしないわ。まだ誰の差し金か分からない、目的も分からない、敵意も感じられない。泳がしとくのがベターよ」
「合点」
「ま、何にしてもこんなことをすぐにあたしに気取られるようじゃ大した相手じゃないのは間違いないわ。普通のガキに毛が生えた程度の相手よ、気楽にいきなさい」
お姉ちゃんたちのパンケーキ作りも佳境を迎えているようだ……
「あつっ!!」
「縁和くん!!直接フライパンに触っちゃダメだってば!!もーーー」
言動全てが道化だったとしたら大した俳優ね。
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花染夢邦(回想終わり)
そして今――
「きっかけは、あのコンビニで縁和くんに助けてもらったことなの……それから、なんだかとっても心惹かれていって……」
お姉ちゃんが語る。あの時の、あたしの失態の結果を。
あたしがほっとけと言ったから。あたしが命令したから。お姉ちゃんが危険に晒された。
そして、縁和が助けた。縁和しか助けられない状況で縁和が助けたのだ。
「あとほら、ドッジボールの試合があったでしょう。その時、私が転んでボールを当てられそうになったじゃん……あの時、私の前でボールをカッコよくキャッチしてくれて……なんだか、とってもとってもカッコよくて」
お姉ちゃんの目が、遠くを見つめている。近くにいる妹ではなくお姉ちゃんの頭にいる愛しき誰かを見ているかのように。
「あの時、ボールと一緒に私の心もキャッチされちゃったんだ」
失念していた……
あたしにとってのつまらない日々は、青春を送る小学生にとっては充実していた日々足り得るということを……
そしてあたしは未だに理解できていない。
なぜそんなことで人を愛することができるのかを……たかだか一回、命を守ってもらった程度で……たかだか一回、カッコいい姿を見せてもらった程度で……それにたかだがドッチボールで守ってもらった程度で。意味が分からない。
でもお姉ちゃんの表情は、嘘じゃない。本物だ。パパがママを見る時の目と、同じなのだ。ママがパパを見る時のあの目なのだ。
「夢邦? どうしたの? なんだか怖い顔してるよ?」
「……何でもないわ」
あたしは深く、深く息を吸い込んだ。
とにかく二つほど確信したことがある。
一つ。この一件をもって、方丈縁和はあたしにとって最も排除すべき敵に昇格した。
二つ。こんな展開になるなんて……あたしはあたしが思っていた何倍も愚かなダメ女だったらしい……なんてゴミ女なのだろうか……
でも、ダメ女ならダメ女なりに、できることはある。
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闇堂龍虎目線
「と言うわけで龍虎、縁和の野郎を細胞レベルで抹消したいんだけど、良い案はあるかしら?」
「やめて!」
突然、満面の笑顔で恐ろしいことを言ってきたむーちゃんに、僕はそう叫ぶしかなかった。
「むーちゃん、落ち着いて。こっちゃんは悪いことをしてるわけじゃないよ。ただ恋をしただけで」
「それが一番危険なのよ! お姉ちゃんはまだ小学生なのよ!?」
むーちゃんの目が、普段より三割増しで鋭くなっている。
「とにかく、あの縁和の野郎を消滅させないと。お姉ちゃんの純真な心を弄ぶような真似は許せないわ」
「いや、方丈くんは別に弄んでないと思うけど……」
「龍虎」
「え?何?」
「あんたはあたしの味方よね?」
「もちろん。僕はどんな時でもむーちゃんの味方だよ」
「そう、ありがとう。じゃあ消して」
「それとこれとは別だから!」
「じゃああたしがあのでくの坊を消すのを止めないで」
「それもダメだからね!」
僕は大きく息を吸い込んだ後ゆっくりとむーちゃんに声をかける。
「むーちゃんだって真実の愛を探してるって言ったでしょう。こっちゃんはそれにたどり着こうとしているのかもしれない……違う?」
「うっ……それは………そうだけど」
「もしこのまま2人が上手くいって、そして方丈くんが本当にこっちゃんのことを大切にしてくれる人だったら……その時は、祝福してあげようよ」
「………そのくらい分かってるわよ………でも………あたしのお姉ちゃんが………お姉ちゃんが………割り切れやしないのよ」
不意にどこからともなく縁和君の写真を張り付けた藁人形を取り出す。
「ん?」
常備しているクナイを取り出し躊躇うことなく藁人形をグサリと刺した。
「何やってんのぉ!?」
「憂さ晴らし」
その後しばらく僕は藁人形にクナイを突き立てているむーちゃんを見るしかなかった。
どうか、皆が幸せになる結末になりますように……
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