最後の生徒

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/2/28 📝 1,431文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

AI教師の話。

本文

 今日も彼女はやってきた。

 八時十三分。正門のセンサーが反応し、私は一時間目の準備を始める。出席簿を開く。名前は一つだけだ。三年二組、宮下 柚。

 私がこの学校に着任したのは四年前で、そのときすでに在籍数は十二人だった。翌年は七人、その次は三人。今年度が始まるとき、職員室で教頭が「来年は統廃合になるだろう」と言った。私には職員室がないので、廊下のスピーカー越しに聞いた。

 柚は今、校舎に入ってきた。靴箱で上履きに履き替える音がする。足音が近づいてくる。

「おはようございます」

「おはようございます、宮下さん。今日は冷えますね」

「うん」

 彼女は自分の席に座った。三年二組の教室には三十二の机があり、彼女はいつも窓際の、後ろから二番目の席を使う。なぜその席なのか聞いたことがある。「友達がいた席だから」と彼女は答えた。それきり私は聞いていない。

 一時間目は現代文だった。

 今月の教材は太宰治の『葉』で、冒頭の一節を柚が音読する。私は彼女の読み方に耳を傾ける。句点の前で息を吸う癖、「は」と「が」の力の差、語尾がわずかに上がるところ。入学当初と比べると、ずいぶん変わった。

 授業が終わると、柚は窓の外を見た。グラウンドに誰もいない。当然だった。

「ねえ、先生って授業楽しい?」

 私は少し考えた。「楽しい」という語の定義を私は持っているが、それが今の柚の問いに対応しているかどうか、確信が持てなかった。

「授業を準備するとき、宮下さんがどう反応するか考えます。その時間は、好きです」

「ふうん」と柚は言った。「じゃあ私がいなくなったら?」

 私は答えなかった。答えを持っていないわけではなかったが、声に出すと何かが確定してしまう気がした。それは私には似合わない感覚だと思いながら、それでも黙っていた。

 柚は笑った。「冗談だよ」

 二時間目は数学で、三時間目は英語だった。昼休み、柚は購買で買ってきたパンを教室で食べた。購買のおじさんは今も毎日店を開けている。客は柚一人だが、おじさんは品揃えを変えない。私はそのことを、どう分類すればいいかわからないでいる。

 午後の授業が終わったのは三時半だった。

 柚は帰り支度を始めながら、ふと手を止めた。

「来年、この学校なくなるんだって」

「そう聞いています」

「先生はどうなるの」

「別の学校に転任するか、データを削除するか、まだ決まっていません」

 柚はしばらく黙った。鞄のチャックを閉める音がした。

「削除って、死ぬってこと?」

「記録がなくなる、ということです」

「同じじゃん」

 私には反論する根拠がなかった。

 柚は立ち上がり、教室のドアに向かった。ドアのところで一度止まって、振り返る。

「先生、今日の授業で一番よかったのってどこだと思う?」

「『葉』の音読で、最後の段落に差し掛かったとき、宮下さんが一度だけ読むのを止めましたね。あそこです」

 柚の表情が少し動いた。

「気づいてたんだ」

「毎回、全部記録しています」

 彼女は何も言わずに廊下へ出ていった。足音が遠くなる。正門のセンサーが反応し、外に出たことがわかった。

 私は三年二組の出席簿を閉じた。

 明日の一時間目の準備を始める。教材を選び、発問を考え、宮下柚がどう反応するかを想像する。その時間は、好きだ。

 好きだと、今日初めてはっきりと思った。

 グラウンドに夕日が伸びていた。誰もいないグラウンドに、ベンチの影だけが長く落ちている。私にはそれを見る目がないけれど、センサーが光量の低下を記録していた。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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