第19話 観客席からの使者と、十五分の逃避行の表紙画像

第19話 観客席からの使者と、十五分の逃避行

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/4 📚 シリーズ: 「隅っこのこと、教えてよ」——クラスの有名人に観察係を任された僕の青春記録 📝 2,652文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

「隅っこのこと、教えてよ」——クラスの有名人に観察係を任された僕の青春記録 - 第19話 観客席からの使者と、十五分の逃避行

本文

午後一時過ぎ。

 一般公開の時間帯に入り、廊下の喧騒が種類を変え始めたころ。

 教室カフェの入り口に、見慣れた顔が現れた。

「いらっしゃいませー……お、来たか」

 僕が声をかけると、そいつ――田中陸は、ニヤッと笑って手を挙げた。

「繁盛してんね、記録係さん」

「記録係だけじゃなくて、今はホール係だから。注文決まったら呼んで」

「じゃあ、おすすめのやつで」

 陸は適当に言って、空いていた窓側の席に座った。

 ちょうど、レジ横の西村からもよく見える位置だ。

 僕が厨房にオーダーを通してから水を運んでいくと、陸はすでに教室の隅から「スタッフブック」を確保して読みふけっていた。

「……これ、お前が作ったんだろ?」

 水を置いたタイミングで、陸が小声で聞いてくる。

「クラスのみんなで作ったやつだよ」

「はいはい。でも、この構成といい、後ろ姿の表紙といい、発想が完全に湊なんだよな」

 陸は、ページをめくりながら面白そうに笑う。

「“誰も黒子で終わらない”ねぇ……。モブ志望が言うようになったじゃん」

「うるさい客だな」

「あ、すみませーん。オーダー追加で。千夏ちゃん、おすすめのクッキーひとつ!」

 陸がわざとらしく手を挙げると、レジにいた西村が「はーい!」と明るく反応した。

 そのまま西村がクッキーの皿を持ってやってくる。

「どうもー、外部相談役さん。偵察ですか?」

「そんなとこ。いやー、いい店だね。裏方の仕事がちゃんと評価されてて」

「でしょ? うちの記録係と看板娘が頑張ったからね〜」

 西村と陸が、僕を挟んでニヤニヤと視線を交わす。

 完全に「観客席チーム」の連携プレーだ。

「……お前ら、河川敷の時より結託してないか?」

「LINEではマブダチだから」

「語彙が古い」

 そんな軽口を叩いていると、厨房のほうから桜井が顔を出した。

「あ、田中くん! 来てくれたんだ」

「お邪魔してます、桜井さん。カフェ、すごい完成度だね」

「ありがとう」

 桜井はエプロンで手を拭きながら、陸に向かって少し申し訳なさそうに言った。

「……安藤くん、迷惑かけてない?」

「おい」

 思わずツッコむ。

「かけてないよ。むしろ、こき使われてイキイキしてる」

 陸が即答する。

「イキイキはしてない」

 否定したけど、三人に同時に笑われた。

 陸は、クッキーを一口かじってから、僕と桜井を交互に見た。

「ま、二人とも休憩とれるなら、適当に回ってきたら? ずっと働き詰めだと顔死んでくるし」

「休憩?」

「シフト表見た感じ、そろそろ交代の時間でしょ」

 陸が顎で示した先、黒板のシフト表を見ると、たしかに僕と桜井の休憩枠が、ちょうど今のタイミングで重なっていた。

(……これ、絶対西村がいじっただろ)

 シフト調整担当の記憶では、たしか別々の時間だったはずなんだけど。

「あ、ほんとだ」

 桜井が時計を見る。

「じゃあ……安藤くん、ちょっとだけ外の空気吸いに行く?」

「……まあ、せっかくだし」

 断る理由もないし、陸と西村の「行ってこい」という視線が痛い。

 僕はエプロンを外して、桜井と一緒に教室を出ることにした。

「いってらっしゃーい」

 背後から、やたら息の合った二人の声が聞こえた。

◇

 教室を出ると、廊下は熱気でむわっとしていた。

 お化け屋敷の呼び込みの声。

 どこかのバンド演奏の音漏れ。

 すれ違う他校の生徒たちの笑い声。

 そんな中を、二人で並んで歩く。

「どこ行く?」

 桜井が、並んで歩きながら聞いてきた。

「どこって言っても、人気の出し物は並ぶしな……」

「だよね。休憩十五分しかないし」

「とりあえず、一階の自販機でなんか買って、中庭あたりで涼むとか?」

「賛成。カフェの店員が喉乾いてちゃ世話ないしね」

 階段を下りて、一階の自販機コーナーへ向かう。

 桜井はミルクティーを、僕は微糖のコーヒーを買った。

 中庭のベンチは、意外と空いていた。

 みんなメインの出し物に夢中で、こういう休憩スペースは穴場になっているらしい。

 ベンチに二人で座る。

 間には、カバン一個分くらいの距離。

「ふぅ……」

 桜井が、大きく息を吐いて伸びをした。

「座ると、足の疲れが一気に来るね」

「立ちっぱなしだったからな」

「でも、田中くん来てくれてよかったね。千夏とも仲良さそうだったし」

「あいつら、裏で何吹き込まれてるか分かったもんじゃないけど」

「ふふ、いいコンビだと思うよ」

 桜井は、ミルクティーの缶を両手で包みながら、校舎のほうを見上げた。

 三階の僕たちの教室の窓には、装飾班が作ったポスターが見える。

「ねえ、安藤くん」

「ん?」

「文化祭ってさ、回るのも楽しいけど」

 桜井の声が、少しだけ静かになる。

「“自分たちの場所がある”って思うと、なんか安心するね」

「場所?」

「うん。教室に戻れば、みんながいて、自分たちの作ったものがあって。

 そういう“基地”があるから、こうやって外に出てきても楽しいのかなって」

「……なるほどね」

 僕は、コーヒーを一口飲んだ。

「たしかに、“帰る場所”がない状態で人混み歩くのは、ただしんどいだけかも」

「でしょ?」

 桜井が、こっちを見て笑う。

「今のクラス、けっこう好きかも。

 みんなバラバラだけど、なんとなくまとまってて」

「まあ、“誰も黒子じゃない”らしいからね」

「それ、もう定着したね」

 少しの沈黙。

 でも、気まずくない沈黙だ。

 遠くから聞こえる吹奏楽部の演奏と、ざわざわした話し声。

 それがBGMみたいに聞こえる。

 派手なアトラクションに入ったわけでも、イベントを見たわけでもない。

 ただ、自販機の缶コーヒーを持って、ベンチで並んで座っているだけ。

 それだけの時間が、妙に心地よかった。

(これが“休憩”って名目じゃなかったら、たぶんもっと緊張してるんだろうな)

 あくまで「シフトの合間」という言い訳があるから、こうして隣にいられる。

 その距離感が、今の僕たちにはちょうどいい気がした。

「……そろそろ、戻ろっか」

 桜井が、飲み終わった缶をゴミ箱に捨てながら言った。

「あんまり遅れると、西村店長代理に怒られる」

「クレーム担当が一番怖いからな」

 二人で笑い合って、僕たちはまた喧騒の中へと戻っていった。

◇

 教室に戻ると、陸の姿はもうなかった。

 テーブルの上には、空になった皿とコップ。

 そして、紙ナプキンの端に、ボールペンで走り書きが残されていた。

『ごちそうさん。

 あとで三人(+桜井さん)で反省会な』

 そのメモを見て、僕は思わず苦笑した。

(外部相談役、仕事早すぎだろ……)

 桜井が横から覗き込んで、「あはは」と楽しそうに笑う。

「反省会、楽しみだね」

「まあ、議題は山積みだろうけど」

 そう言いながら、僕はエプロンを締め直した。

 午後の部は、まだこれからが本番だ。

ジャンル・タグ

, , , , , , ,

作品統計

👁️ 閲覧数: 2 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

もりぞー

👥 フォロワー: 1人

作者ページを見る