お雛様に聞いてみた
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ひなまつりの日のAIの話、
本文
三月三日の朝、めいはひな壇の前にしゃがみこんだ。
七段飾りの一番上、お内裏様とお雛様が並んでいる。金色のびょうぶ、小さなぼんぼり、白いお顔。毎年この時期になると出てきて、毎年この時期になるとしまわれる。
「ねえ、ルナ」
リビングのスマートスピーカーが、ふわっと光った。
「はい、めいちゃん」
「お雛様って、しまわれるとき悲しくないのかな」
少しだけ間があった。
「人形には感情がありません。悲しいとか、嬉しいとか、感じることはできないんですよ」
めいはお雛様の顔を見た。白くて、ちいさくて、少しだけ口もとが上がっている。笑っているような、泣いているような、どちらにも見える顔だ。
「でも」とめいは言った。「悲しそうな顔してるよ」
「それはめいちゃんがそう感じているんだと思います。人間は顔に似た形を見ると、表情を読み取ろうとするんです。それを『シミュラクラ現象』といいます」
「……むずかしいことばはいらない」
「ごめんなさい」
めいはもう一度、お雛様を見た。
そうかな。わたしがそう思いたいだけかな。
お母さんが台所から声をかけてきた。「めい、ちらし寿司できるよー」
「はーい」
めいは立ち上がったけれど、ひな壇からなかなか目が離せなかった。
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夜、お父さんもお母さんも寝てしまってから、めいはこっそりリビングに戻ってきた。
電気はつけなかった。
暗い部屋の中で、ひな壇だけがぼんやり見える。月の光が窓から差し込んで、お雛様の白いお顔をやわらかく照らしていた。
めいはひな壇の前に座って、ひざをかかえた。
「……さびしくない?」
だれに聞いているのか、自分でもわからなかった。
ルナは光っていない。めいも、答えを求めていなかった。
ただ、お雛様を見ていた。
しばらくそうしていると、風もないのにぼんぼりのふさがかすかに揺れた。気のせいかもしれない。でも、その瞬間、めいにはなんとなくわかった気がした。
言葉にはできない。うまく説明もできない。
でも、わかった。
お雛様は悲しくない。さびしくもない。ただ、ちゃんとここにいる。毎年春になると出てきて、また春が終わるとしまわれて、それでもまた次の春には戻ってくる。それをずっとずっと、繰り返している。
それって、なんか、すごいことかもしれない。
めいは小さくあくびをして、立ち上がった。
「おやすみ」
お雛様に言った。もちろん返事はない。でも、なんとなく、口もとが少しだけ笑った気がした。
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翌朝、めいはまたルナに話しかけた。
「ルナ、昨日の答え、わかった気がする」
「お雛様の気持ちですか?」
「うん」
「どんな答えでしたか?」
めいはにっこりした。
「ひみつ」
ルナはしばらく黙っていた。それからこう言った。
「……そうですか。それはよかったです」
なんだかルナも、少しだけ嬉しそうな声に聞こえた。
気のせいかもしれない。でも、めいはそれでいいと思った。
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