バウムクーヘンの日

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/4 📝 1,549文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIとお菓子作りの話。

本文

「ねえ、今日って何の日か知ってる?」

放課後の教室で、村瀬のあはスマホに向かって話しかけた。

『3月4日ですね。バウムクーヘンの日です。1919年のこの日、広島でドイツ人菓子職人によって日本で初めてバウムクーヘンが作られたことに由来しています』

「バウムクーヘン!?」

隣の席でノートを片付けていた中島さくらが顔を上げた。「どしたの急に」

「今日バウムクーヘンの日らしい」

「へえ」

「作ろうよ」

さくらはしばらくのあを見た。「……今から?」

「今から!」

『材料はこちらです。薄力粉、バター、砂糖、卵、牛乳――』

「ちょっと待って読むの早い」

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さくらの家のキッチンは、一時間後にはすっかり戦場になっていた。

ボウルの中でバターと砂糖をまぜながら、のあはスマホに聞いた。「ねえ、本当にフライパンで作れるの?」

『はい。オーブンがなくてもフライパンで層を重ねれば作れます。ただし一層ごとに弱火で丁寧に焼く必要があります。焦らず時間をかけることが重要です』

「焦らず……」

「のあが一番苦手なやつじゃん」とさくらが言った。

「うるさい」

最初の一層を流し込んで、蓋をして待つ。ちゃんと固まったのを確認して、二層目を重ねる。それだけのことなのに、思ったより繊細だった。

三層目を入れたとき、さくらが「あ」と言った。

「焦げてる」

「え!?」

あわてて火を止めたけれど、端っこが少し茶色くなっていた。

「大丈夫、取ればいい」とのあは言ったが、声が少しへこんでいた。

『端部が焦げた場合も、内側の層に問題がなければ完成品に影響は少ないです。続けてください』

「AIって慰めるのうまいよね」とさくらが笑った。

「慰めてるのかなあれ」

『慰めているつもりはありませんでしたが、そう聞こえましたか?』

ふたりは顔を見合わせて、なんとなく笑った。

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五層、六層、七層。

だんだんコツがわかってきた。火加減はこのくらい、待つ時間はこのくらい。スマホに聞いても「感覚で調整してください」としか返ってこないところは、やってみるしかなかった。

「ねえ、なんで急にバウムクーヘン作ろうと思ったの」とさくらが聞いた。

「なんとなく。今日の日付見て、面白そうだなって」

「のあってそういうとこあるよね。ぱって動く」

「さくらは動かなさすぎ」

「そうかな」

「そうだよ。この前の文化祭だって、最初乗り気じゃなかったじゃん」

「あれは……まあ」さくらは少し笑った。「楽しかったけど」

「でしょ」

八層、九層、十層。

キッチンにバターと砂糖の甘い匂いが広がっていた。窓の外はもう夕方で、空がうっすらオレンジになっていた。

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「できた……かな」

フライパンをひっくり返して、皿に乗せたそれを、ふたりでしばらく見た。

丸くて、茶色くて、少し歪んでいる。端っこが焦げた跡もある。断面を切ってみると、層はちゃんと重なっていた。均等ではないけれど、確かに年輪みたいに。

「年輪みたいだね」とさくらが言った。

「木って意味だもんね、バウム」

「そうなの?」

『バウムクーヘンはドイツ語で「木のお菓子」という意味です。断面が木の年輪に似ていることから名付けられました』

「ありがとうルナ」とのあは言った。

「ルナって名前つけてたの?」とさくらが笑った。

「なんか呼びにくいじゃん、AIって」

ふたりで一切れずつ口に入れた。外はさくっと、中はしっとり。完璧ではないけれど、ちゃんとバウムクーヘンだった。

しばらくして、スマホが光った。

『おいしいですか?』

のあとさくらは顔を見合わせた。それから同時に吹き出した。

「おいしい」とのあは打った。「でもこれは食べてみないとわからないよ」

『そうですね』とAIは返した。『それが少し、羨ましいです』

のあはその一文を読んで、もう一口バウムクーヘンを食べた。甘くて、温かくて、今日一日の味がした。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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