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第4話 探偵

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/9 📚 シリーズ: 終焉の探偵 📝 3,128文字 ✅ 全年齢

あらすじ

終焉の探偵 - 第4話 探偵

本文

文芸部を出て、夕方の池袋へ歩き出す。

 立教通りを抜け、いつもの帰り道。

 池袋駅を通り抜けて、サンシャイン通りへ――私の帰宅ルートは、いつも人でごった返している。

「今日も混んでるなぁ……」

 前を歩く人、スマホいじってる人、観光客、外国人、コスプレの人、漫才の呼び込み、メイドさん……

 池袋の人口密度、新宿渋谷に比べれば少ないというけれど、普通にラスボス級だと思う。

「これはダメだ……」

 あまりの暑さに負け、途中のコンビニで麦茶を購入。

 何故なら味の付いている飲み物では一番安いから!!

 ペットボトルをあおりながら通りを歩く。

 すると、巨大な人流の中――

 道ばたに、黒い塊があった? 落ちてた? 寝転がっていた?

「……え?」

 すれ違う人たちは誰も見ない。

 避けるでもなく、見下ろすでもなく、むしろ視界に入れないようにしている。

「……あの……倒れてません?」

 私は思わず口を開き、足を止めた。

 その瞬間、流れがぶつかる。

「ちょ、止まんないでよ!」

「あ、すみません……!」

 でも、気になる。

 どうして誰も気にしないの?

 よく見れば――

 真夏に黒コート。

 しかも道端に倒れて、ぶつぶつ文句を言ってる。

「……はぁ……なんだこの世界……暑すぎる……生き地獄か……こんな熱の中、コートに鎖巻いて歩けるの僕くらいだよ……いや、もう歩けてないんだけど……」

(……え、なんか喋ってる!?)

 耳を澄ますと、さらにヤバい独り言が続く。

「人情紙のごとしとはこのことか……これはもう終焉の世界だ……末法の世だよ。身動きもできないほど消耗している哀れな人間を見ながら……まるで空気のように無視するこの人達……!」

(詩人? 哲学者? ポエマー? ……いや、危ない人なのでは!?)

「はっ……まさか……これがこの世界の特性なのか……!」

(やっぱり危ない人だ!!)

 その瞬間――

 倒れていた男が、むくり、と顔を上げた。

 そして。

 私と目が合った。

「っ……あ……」

(やば!! 絶対目を合わせちゃダメなタイプの人だこれ!! 見なかったことに……いやでも倒れてるし……いやいやいやでも絶対危ないって!!)

 私が固まっていると、男の目が大きく見開かれた。

「――そこの君!」

「ひゃっ、ひゃいっ!?」

 ひゅと指が私の方を向いて指される。あ、完全にロックオンされた。

「頼む……助けてくれ……!! くれませんか? ください!!」

「ひぃ!? な、何!? 何が!?!?」

 男は道ばたで四つん這いになって、叫んだ。

「み、水……! 水を……!!」

「えっ、あ、あの……麦茶しかないですけど……!」

「麦茶!! 最高じゃないか!!」

「えっ、そ、そうなんですか!?」

「頼む!! かけてくれ!!」

「かけるの!? 飲むんじゃなくて!?!?」

「かけてくれ!! 死ぬ!! 僕は死ぬ!!」

「ええぇぇぇ!!?」

 もう反射的に、私はリュックから麦茶を取り出していた。

 人が死にそうなんだから仕方ない。

「いきますよ!? 知らないですよ!? 冷たいですよ!?」

「こいッ!!」

「えーいっ!」

 私は叫びながら、麦茶をぶっかけた。

 じょぼぼぼぼぼ!!!

 美しい焦げ茶色の水流が、太陽の光を受けて輝き、黒コートさんの頭に落ちてゆく。

「っぷはあああ!! 生き返った……!!」

 すると、黒コートさんがバネ人形のように跳ね起きた。

 声も表情も、さっきまでの瀕死の人とは思えない。

 立ち上がると意外に上背がある。身長は180くらいだろうか?

「あ、あの……大丈夫ですか……?」

「大丈夫だよ。君のおかげで」

 黒コートさんは服についた水滴を払いながら、立ち上がった。

 ――そこで初めて、私は彼の顔をちゃんと見た。

 人の良さそうな、切れ長の細い目。

 でも整った、端正な顔立ち。

 無造作に伸ばした黒い髪が肩口にかかっている。

 日本人の茶色がかった黒とは違う、黒曜石のような黒い瞳。

 ――そして麦茶の香ばしい匂いがする。

 色々と台無しだ。

 年齢は――幾つだろう?

 少年のようにも青年のようにも成人ようにも見える。

 ――あ、なんか地味だけど良き顔!!

 どこの国の人ともいえないけれど、

 どの国にいても違和感のなさそうな、不思議な雰囲気。

 そして――

「……っ」

 その瞬間、私は見てしまった。

 黒コートの下にいているやっぱり黒いシャツとネクタイ。

 よほど暑かったのか、ネクタイはだらしなく垂れ下がり、シャツの胸元が大きく開いている。

 そしてシャツの隙間から覗く、銀色。

 あれは――鎖?

 胸元の盛り上がりを見るに、両肩からクロスするように、全身に巻かれている。

(……なに、あれ……)

 見えないところのオシャレ、なんだろうか?。

 それともただの変態?

 黒コートさんは私の視線に気づいたのか、

 さりげなくシャツの前を閉じ、ネクタイを締めなおす。

 そして――私を見た。

 その目が、一瞬だけ変わった。

 優しげな笑みの奥に、何か深いものが見える。

「君が……ああ、そうなんだね」

「え……?」

「いや、ごめん。独り言」

 黒コートさんはまた軽い調子に戻る。

 でも、今の一瞬。

 確かに、この人は何かを見た。

 私の中の、何かを。

「……よし。生還。ありがとう、お嬢さん!」

「……え? あ、え……?」

 男はふわりと笑った。

 その笑みは優しいけど、どこか世界と距離がある。

「自己紹介がまだだったね。僕は探偵。よろしく」

「た、探偵……!?」

 懐に手を差し入れ、一枚の紙片を私に差し出す。

 それは名刺。

 風変わりな感触の黒い紙に、金色の文字。

 差し出された名刺には、ただ一言。

『探偵』

『detective』『侦探』『Detektiv』

『детектив』『محقق』『जासूस』

『탐정』『গোয়েন্দা』『mpelelezi』

 と記されている。

 ――訂正、まったく一言ではなかった。

 恐らく、だけど、これは全部同じ意味だ。

 それは最初に書いてある文字の各国版。

 でも、それだけ。

 連絡先も電話番号も何もない。

 住所は……豊島区立東池袋公園!?

 そこって住んでいい場所でしたっけ!?

 ――脳裏に段ボールでできたお家が目に浮かぶ。

「困ったことがあったら、ここへ。恩返しするよ」

「あ、あの……!」

 私は思わず声をかけた。

 探偵が振り返る。

「……私、あなたを……見たことがあるような……」

 探偵の表情が、一瞬だけ真剣になる。

「……そうかもね」

 それだけ言って、黒コートさんは微笑んだ。

「でも今日は、君が僕を助けてくれた。それだけで十分だよ」

 探偵はひらひらと手を振り、また人混みの中へ消えていった。

 優しい笑みを浮かべて。

 恐らくは公園の段ボールハウスへ。

 私は名刺を握ったまま、その場に立ち尽くす。

 周りの喧騒が、遠く感じる。

 池袋の雑踏も、夕焼けも、何もかもが遠い。

(……見たことある)

 胸が冷たくなる。

 喉がひりつく。

(この人……夢で……)

 世界が崩れ落ちるあの場所で、

 赤黒い海の向こうから、私を見ていた黒い影。

 あの時、私は助けを求めた。

 叫んだ。

 「助けて」と。

 そして、あの影は――

 こっちを見ていた。

(まさか……同じ……?)

 でも、それって、どういうこと?

 夢と現実が、繋がってるってこと?

「……なんで……?」

 真夏なのに、背中に鳥肌が立っていた。

 ――この人、

 私の夢の中に、いた。

 そして今、現実にいた。

 ということは――

 あの夢は、ただの夢じゃない。

 予知とか、そういうものなのかもしれない。

 だとしたら。

 世界が崩れ落ちる、あの光景も――

「……嘘、でしょ……」

 握りしめた名刺が、汗で湿っていく。

 私の指先が、小刻みに震えている。

 怖い。

 何が起きてるのか分からない。

 でも――

 ――ここから、何かが始まる。

 そんな予感がする。

 そして、これが私と、終焉の探偵との出会いだった。

◇◇◇

終焉の探偵、Chapter 1終了です。

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作者について

カクナ・ノゾム

カクナ・ノゾム

カクナノゾムと申します。 趣味の小説を細々と書いてます。 面白いことは間違いないので是非是非ご一読くださいませ。

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