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第39話 檻 2

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/4/13 📚 シリーズ: 終焉の探偵 📝 2,355文字 ✅ 全年齢

あらすじ

終焉の探偵 - 第39話 檻 2

本文

「……窓!」

 誰かが叫んだ。

 視線が、一斉に窓へ向く。

 外が、黒かった。

 さっきまで見えていた青空が、ない。

 代わりに、黒い何かが、校舎の外壁を這い上がっている。

 下から、上へ。

 ぬるぬると。

 黒くて、光を吸い込むみたいなそれは、

 どこか肉っぽくて、生き物みたいだった。

「……嘘でしょ」

 窓ガラスが、完全に覆われる。

 外が、見えなくなった。

 教室が、一気に暗くなる。

 頼りになるのは、蛍光灯の白い光だけ。

「なに、あれ……」

「先生……!」

 生徒たちが窓に駆け寄り、ガラスを叩く。

 でも、外は真っ黒なままだ。

 数学の先生も、顔を青くして立ち尽くしていた。

「落ち着いて……落ち着いて……」

 声が、震えている。

 その震えが、余計に不安を煽った。

 次の瞬間。

 教室の壁が、ぐにゃりと歪んだ。

「……え?」

 白い壁の表面が、柔らかいものみたいに波打つ。

 そこから、黒い影が、じわじわと滲み出してきた。

 床からも。

 天井からも。

 影は、意思を持っているみたいに、ゆっくりと広がっていく。

「きゃあああああ!!」

 悲鳴が上がった。

 教室が、一気にパニックになる。

 影が、一番近くにいた男子生徒の足に触れた。

 次の瞬間。

 その子は、消えた。

 叫び声も、抵抗もない。

 ただ、そこにいたはずの存在だけが、跡形もなく消失する。

「……田中?」

 誰かの声が、震える。

「逃げろ!!」

「出口!!」

 一斉に、生徒たちがドアへ殺到する。

 私も、反射的に立ち上がった。

 ここにいたら、死ぬ。

 ドアを開けて、廊下へ出る。

 そこも、地獄だった。

◇

 廊下に出た瞬間、空気が変わった。

 壁一面から、黒い影が滲み出している。

 さっきまで白かったはずの壁は、まるで内側から腐っているみたいに波打ち、そこから影が湧き出していた。

 逃げ惑う生徒たちが、次々と飲み込まれていく。

 足を取られ、腕を掴まれ、引きずられるように影の中へ消えていく。

 悲鳴が上がる。

 泣き声が重なる。

 名前を呼ぶ声が、途中で途切れる。

 音が多すぎて、どれが誰の声なのか分からない。

 頭の中が一気に白くなって、思考が止まりかける。

 立ち止まったら、終わりだ。

 私は歯を食いしばって、走った。

 床に伸びる影を避けるたび、靴底が滑りそうになる。

 階段に飛び込み、手すりを掴んで一段飛ばしに駆け下りる。

 後ろで、誰かが転ぶ音がした。

 振り向けなかった。

 一階。

 玄関が見えた瞬間、胸が少しだけ軽くなる。

 外に出られれば、きっと何かが変わる。

 そう思って、校庭へ飛び出した。

 ――足が、止まった。

 空が、なかった。

 見上げた先にあるはずの青は消えていて、代わりに黒い天井が広がっている。

 ぬらぬらと光を反射する、肉みたいな膜が、学校全体を覆っていた。

 校舎も。

 校庭も。

 全部、ひとつの塊みたいに閉じ込められている。

 風がない。

 太陽の熱も、感じない。

 音だけが、妙に反響している。

 学校は影に完全に、囲われていた。

 震える手でスマホを取り出す。

 画面には、圏外の表示。

 探偵さんも。

 梓さんも。

 誰にも、繋がらない。

 これは事故じゃない。

 最初から、逃がす気なんてなかった。

 私たちを、ここに集めて。

 閉じ込めて。

 そう考えた瞬間、

「真弓ちゃん!」

 名前を呼ばれて、はっと振り向く。

 サヤカがいた。

 肩で息をして、今にも泣き出しそうな顔で、私のところへ駆け寄ってくる。

「どうしよう……出られないよ……!」

 声が震えている。

 私も、同じだった。

 私はサヤカを抱きしめた。

 背中に回した手が、冷たい汗で濡れている。

 大丈夫。

 そう言いたかった。

 でも、喉が詰まって、言葉にならなかった。

 そのとき、足元の地面がぬるりと動いた。

 校庭のあちこちから、黒い影が這い出してくる。

 逃げ場を塞ぐみたいに、円を描くように広がっていく。

 生徒たちが、悲鳴を上げながら後ずさる。

 でも、どこにも行けない。

 もう、逃げ場はなかった。

 そして押し寄せる影の向こうに、誰かが立っているのが見えた。

 スーツ姿の小柄な女性。

 風もないのに、髪だけが不自然に揺れている。

「……柳田先生?」

 思わず、そう口に出した。

 でも、違う。

 次の瞬間、先生の身体を包んでいた服がはじけ飛んだ。

 中からは肉色の何かがうねうねと増殖している。

「あ……ああッ!!」

 漏れ出る声と共に腕が増えた。

 体躯が二回り以上大きく膨れ上がる。

 そしてはだけたその肌の全身に、無数の目があった。

 頬にも、首にも、腕にも、ぎょろぎょろと動く目。

「イ……イギィーーーーッ!」

 絶叫!!

 複数の口から、人の出す音とは思えない異質な音が迸った!

 腕や腹、太ももに、小さな口が開いては閉じている。

 地面から何かが先生に集まってくる。

 見ているうちにもどんどん姿が変容してゆく。

 でも――。

 先生の顔だけが、人間のままだった。

 その目には、何の感情も映っていないけれど。

 私たちを見下ろす視線が、冷たく滑る。

 次の瞬間、無数の口が、一斉に開いた。

 重なり合った声が、校庭に響く。

「「「キテッ!!!」」」

 無数の影達が、一気に押し寄せる。

 もう、終わりだ。

 そう思った瞬間だった。

 鋭い破裂音が、空気を引き裂いた。

 ピシャアアアアン。

 一瞬、耳がつんと痛くなる。

 雷みたいな音と同時に、視界が白く弾けた。

 黒いドームに、一直線の亀裂が走る。

 肉の膜が裂け、内部のぬめった層が露わになり、そこを光の矢が貫いていた。

 亀裂の向こうから、光が溢れ出す。

 久しぶりに見る、本物の空。

 青くて、広くて、やけに遠い。

 白い雲。

 照りつける夏の太陽。

 それだけで、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。

 息をするという行為を、思い出した気がした。

 次の瞬間、影が動く。

 裂け目から、誰かが飛び込んできた。

 黒髪が空中で翻り、重力に引かれて一気に落ちる。

 制服姿の少女が、軽やかに校庭へ着地した。

 手に握られているのは、光を帯びた弓。

 実態のない矢の白い残光が尾を引いている。

「真弓さん! 大丈夫!?」

 この数日で聞き慣れた声が耳を打つ。

 やった! 梓さんだっ! 梓さんが来てくれたっ!!

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作者について

カクナ・ノゾム

カクナ・ノゾム

カクナノゾムと申します。 趣味の小説を細々と書いてます。 面白いことは間違いないので是非是非ご一読くださいませ。

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