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第52話 M_YOU

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/4/26 📚 シリーズ: 終焉の探偵 📝 2,439文字 ✅ 全年齢

あらすじ

終焉の探偵 - 第52話 M_YOU

本文

探偵さんの推理を聞いて、私はハッとした。

 マスコミへのリーク。

 プロの扇動者。

 そんなことが出来る人間を調べることができるとしたら――。

「……ねえ、病院に行きませんか?」

 私の提案に、二人が振り向く。

「病院?」

「はい。久我さんなら、マスコミにも顔が利くし、何かわかるかも知れません」

 それに、と私は付け加える。

「あのアプリで人気の投稿者でしたし、もしかしたら何か知っているかも」

「そうなのね。もしかしたら有力な情報を持ってるかも知れない」

「ええ、あの人なら、きっとまだ病院にいるはずですから」

 前回の事件で意識不明になった、柳田先生のそばに。

 梓さんが、少しだけ表情を和らげて頷いた。

「そうね。あの人なら、信頼できるわ」

 ◇

 外の熱気が嘘みたいだった。

 病院の廊下は、ひんやりとしていて、消毒液の匂いがした。

 静かだ。

 外では人が消えているというのに、ここだけ時間が止まっているみたい。

 病室のドアをノックして、そっと開ける。

 予想通り、彼はそこにいた。

 パイプ椅子に座り、眠り続ける柳田先生の手を握っている背中。

 久我先輩だ。

「……先輩?」

 声をかけると、彼が驚いたように振り返った。

 少しやつれた顔。

 でも、その瞳は優しかった。

「真弓ちゃん? それに、矢野さんも……どうしたんだい、みんな揃って」

 私たちは、外で起きていることを手短に話した。

 テレビの中継で人が消えたこと。

 「にくゑ」の名前がニュースで拡散されていること。

 それを聞いた瞬間、久我先輩の顔色が変わった。

「なんだって……?」

 彼は立ち上がり、ブラインドの隙間から外を見た。

「すまない、ずっとここに詰めていたから……外の様子なんて、全然見ていなかった」

 悔しそうに拳を握る先輩。

 その姿を見て、私は胸が痛くなった。

 先生のそばを離れられないくらい、心配していたんだ。

「ライター君。君のコネクションで探れないか?」

 探偵さんが切り出す。

「誰がマスコミに『名前』を流したのか。その出処を」

「……分かった。心当たりに片っ端から当たってみる」

 久我先輩はスマホを掴むと、血相を変えて病室を出て行った。

 バタン、とドアが閉まる。

 部屋には、また静寂が戻った。

 私は、ベッドに近づいた。

 柳田先生は、静かに眠っている。

 呼吸器のリズムだけが、彼女が生きている証だ。

 綺麗な顔。

 前回の事件で、あんなに恐ろしい姿になっていたなんて信じられないくらい。

「……先生」

 早く目を覚ましてほしい。

 また教室で、嬉しそうにBL史実の話をしてほしい。

 こんな、人が消えるニュースなんかじゃなくて。

 数分後。

 荒い足音と共に、久我先輩が戻ってきた。

「ハァ……ハァ……分かったよ」

 先輩は息を整えながら、私たちを見た。

 その目は、鋭い「ライターの目」に戻っていた。

「本来、ネタ元の秘匿は絶対なんだけど……昔の貸しを無理やり使って吐かせた」

 ゴクリ、と私が唾を飲み込む音が聞こえた気がした。

「情報提供者の名前は、『三宅優』だ」

「三宅……優……」

 聞いたことのない名前だ。

 けれど、先輩はさらに続けた。

「それと、もう一つ分かったこと――というか矢野さんから話を聞いてから調べていたんだけど……」

 先輩はスマホの画面を操作し、あるメモを表示させた。

「以前、僕が『にくゑアプリ』の開発についての意見を求められていた時。開発の初期段階で情報を提供してくれた制作者……そのハンドルネームが確か、『M_YOU』だった」

「エム……ユー?」

「Miyake You……M_YOU。一致する」

 先輩の声が、低く響く。

「つまり、この情報の伝播を目論んでいるのは……開発に関わった内部の人間、三宅優である可能性が高い」

 ビンゴだ。

 探偵さんの推理通り、アプリ側の人間が仕掛けている。

 梓さんが、ギリ、と歯を食いしばる音がした。

「そいつね……。そいつが、清音を……! ……場所は!?」

「……それが、分からないんだ」

 久我先輩は悔しそうに首を振った。

「彼とはネット上でしかやり取りをしていない。通話もボイスチェンジャーを使っていたし、実際に会ったことは一度もないんだ」

 梓さんが絶望したように壁を叩く。

 手詰まりかと思われた、その時だった。

「――あっ」

 久我先輩が、何かに気づいたように顔を上げた。

「待てよ……。僕、彼に『掲載誌』を送ったな」

「掲載誌?」

「ああ。彼のアプリを取り上げたオカルト雑誌だ。完成したら一部欲しいと言われて……郵送した覚えがある」

 先輩はものすごい速さでスマホをタップし始めた。

 クラウド上の発送履歴を漁っているらしい。

「あった……これだ!」

 画面に表示されたのは、半年前の発送ログ。

 そこには『三宅優』の名前と共に、住所が記されていた。

「池袋二丁目……北口の『コーポ・ミヤビ』というアパートだ」

 ネットの匿名性に隠れた犯人を、アナログな郵便物が暴き出した瞬間だった。

 先輩は、少し自信なさげに付け加えた。

「ただ、これは半年前のデータだ。彼がまだそこに住んでいるという保証は――」

「いるわ」

 遮ったのは、梓さんだった。

 彼女は、病室の窓――北側を向いている窓を睨みつけていた。

「感じるの……。北の方角から、とてつもない腐臭が漂ってくる」

 梓さんの瞳が、人間離れした光を帯びる。

「私の鼻は誤魔化せない。……そのアパートが、穢れの発生源(ソース)よ」

 データと、直感。

 二つが重なった今、疑う余地はなかった。

「……行きましょう」

 私が言うと、久我先輩が「待ってくれ」とコートを掴んだ。

「僕も行く。……いや、行かせてくれ」

 先輩は、眠り続ける柳田先生を一瞬だけ振り返り、決意を込めて言った。

「僕の取材相手が、こんな事件を引き起こしているなら……僕にも落とし前をつける責任がある」

 その言葉に、私は強く頷いた。

 やっぱり、久我先輩は信頼できる大人だ。

「はい! 心強いです!」

 こうして私たちは、灼熱の池袋北口へ向かうことになった。

 その先に何が待っているのかも知らずに。

 ――と、その時、スマホが震える。

 取り出してみると、サヤカからのLINEが来ていた。

 そこには一言。

【たすけて】

 とだけ表示があったのだった。

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作者について

カクナ・ノゾム

カクナ・ノゾム

カクナノゾムと申します。 趣味の小説を細々と書いてます。 面白いことは間違いないので是非是非ご一読くださいませ。

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