第54話 突入の表紙画像

第54話 突入

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/4/28 📚 シリーズ: 終焉の探偵 📝 2,663文字 ✅ 全年齢

あらすじ

終焉の探偵 - 第54話 突入

本文

ガチャリ、という音が、現実と悪夢の境界線だった。

 探偵さんがドアを押し開ける。

 その瞬間。

 ムワッ、と熱風が吹き出した。

「う……っ!」

 私は反射的に袖で口と鼻を覆った。

 臭い。

 さっきまでの比じゃない。

 真夏の生ゴミ置き場の中で、肉を焼いたような……濃厚で、脂っこい死の臭い。

「……なんだ、これ」

 誰かの呟きが漏れる。

 目の前の光景は、もはや「アパートの一室」ではなかった。

 壁も、床も、天井も。

 すべてが赤黒い「肉」で覆われていた。

 ドクン、ドクン。

 部屋全体が、心臓のように脈打っている。

 壁のあちこちから黄色い脂肪が滲み出し、床には粘液のたまりが出来ている。

「空間が……歪められているね」

 探偵さんが、パッキーを構えたまま油断なく足を踏み入れる。

 本来なら六畳一間のワンルームのはずだ。

 なのに、肉の壁は奥へ奥へと続き、食道のようなトンネルを作っていた。

「気をつけて。ここはもう、彼岸。此岸からの理から外れてる」

 梓さんが続き、久我先輩が私を庇うように前に出る。

 私は震える足で、その後に続いた。

 靴の裏が、ネチャ、ネチャ、と嫌な音を立てる。

 その時だった。

『――アッハハハハ! 来た! 来たぞゲストが!』

 突然、肉の壁全体から声が響いた。

 スピーカーじゃない。壁そのものが振動して、鼓膜を直接叩いてくるような声。

「この声……動画の……!」

 間違いない。M_YOUだ。

『ようこそ、俺のスタジオへ! さあ見ろ、視聴者ども! これがリアリティだ! 命懸けの救出劇、最高のエンタメだろぉ!?』

 狂っている。

 この状況を、全部配信しているの?

「三宅! どこだ!」

 久我先輩が叫ぶ。

 けれど、返ってきたのは嘲笑だけだった。

『あんた、もしかして久我さん!? その節はお世話になったなぁ!! メインディッシュの前に……まずは余興を楽しんでくれ』

 ズズ……ッ。

 左右の壁が、泥のように盛り上がった。

 肉が剥がれ落ち、人の形を成していく。

 最初はただの人形に見えた。

 でも、その「顔」が形成された瞬間、私の喉がヒュッと鳴った。

「え……?」

 現れたのは、制服姿の女子生徒たち。

 三人組。

 スカートを短くして、意地悪な笑みを浮かべている。

 見覚えがある。

 ありすぎる。

「なんで……あなたがたが、ここに……?」

「真弓ちゃん、知っているのかい!?」

 久我先輩の声で、我に返る。

 違う。あの子たちは、行方不明になって――

 よく見れば、彼女たちの目は空洞で、肌はプラスチックみたいにテラテラと光っている。

 本物じゃない。

 どしてこんなものを!?

『キャハハハ!』

『なに見てんのー?』

「あの子たちの複製体?」

 梓さんが、何とも言えない表情を浮かべて弓をつがえる。

 いじめの張本人達なんだから、無理もないかも――

「真弓くんか、梓くんの記憶から複製したんだろうね。しかし何故?」

 探偵さんが眉を顰めた。

 複製体(レプリカ)たちが、耳障りな笑い声を上げて襲いかかってくる。

 その手には、肉と骨で出来たカッターナイフやハサミが握られていた。

「邪魔よ!」

 梓さんが前に出て、弓を引く。

 虚空から青白い光の矢――が収束してゆく。

 弦を引き絞り、狙い違わず放たれた光の矢が、先頭の女子生徒の胸を貫いた。

 ――はずだった。

 パァン、と乾いた音がして、光の矢が弾け飛ぶ。

「なっ……!?」

 梓さんが目を見開く。

 女子生徒の胸には、傷一つついていない。

 ニタニタと笑いながら、歩みを止めない。

「効かない……!? この子たちはにくゑじゃない!?」

「恐らく、ハイブリッド。君の持つ神器への対策だね、これはっ!」

 探偵さんが叫びながら、パッキーを振るう。

 物理的な斬撃が、複製体の腕を切り落とした。

 ボトッ、と肉塊が落ちる。

「こいつらは神様の一部だけじゃない! 元の人間のパーツを使ったただの『人形』だ! 人の部分が君の祈りを阻害している!」

「そんな……!」

 梓さんの顔色が蒼白になる。

 彼女の神器は、あくまで神様の一部を消す為のもの。

 梓さんは思念弓っていってた。

 にくゑという神様に対する否定の概念を飛ばす神器だそうだ。

 なら、純粋な物理攻撃しか通じない相手には、無力だ。

 頼みの綱は探偵さんだけ。

 けれど――。

 ガキンッ!

 二体目の複製体が持つハサミが、パッキーを受け止めた。

「くっ……!」

 探偵さんの足が、ズルリと滑る。

 押し負けている。

 顔色が青白い。やっぱり、具合が悪そうだ!

 壁から、次々と新しい「誰か」が湧き出てくる。

 今度は、見知らぬ中年男性。

 満員電車で痴漢をしてきた男だ。

 次は、怒鳴り散らす教師。

 私の人生における「恐怖」のパレード。

「いや……やだ……っ!」

 私は頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 物理的には探偵さんを追い詰め、精神的には私を削ってくる。

 この空間は、私の記憶を読んで、一番嫌なものを具現化してくる。

「見ちゃだめだ、真弓ちゃん!」

 久我さんが、私を抱え込むようにして庇った。

 この人は私と同じ。戦えない人だ。

 ただのライターだ。

 なのに、背中を向けて私を守ってくれている。

「先輩、危ないっ……!」

「大丈夫だ! 君は僕が守る! はるかさんの大事な教え子で、僕の後輩だからね!」

 先輩の声は力強かった。

 複製体が振り上げた刃が、久我先輩の背中を切りつける。

「くぅっ!」

 呻いて、でも久我さんは私を抱きしめる腕に力を込める。

 その肉人形を探偵さんが回し蹴りで弾き飛ばした。

「くっ……キリがないね……!」

 探偵さんが、荒い息で言った。

 パッキーを持つ手が震えている。

 物理でしか倒せないのに、探偵さんが限界に近い。

「このままここで消耗するのは得策じゃない。……強行突破しよう!」

「くっ……どきなさい!」

 探偵さんの声に梓さんが、体当たりで複製体を突き飛ばして道をこじ開ける。

 その先、肉のトンネルが地下へと急勾配で下っているのが見えた。

「走れ!」

 私たちは複製体の群れを振り切り、食道の奥へと滑り込むように駆けた。

 背後で、M_YOUの高笑いが響く。

『イイネ! 最高の絵だ! 数字が伸びるぞぉ!』

 その声に混じって、スマホからサヤカの悲鳴が聞こえた気がした。

 待ってて。

 お願いだから、待ってて。

 私たちは、腐臭漂う闇の底へ、転がり落ちていった。

 ◇◇◇

 終焉の探偵、Chapter 10終了です。

 肉の迷宮に突入する一同。

 いよいよ戦いが激化してゆきます。

 黒幕との対決が迫るChapter 11をお楽しみに!

 面白そう、続きみたいな、と思った貴方!

 是非応援の♡を!

 そしてコメントも大歓迎です。むしろコメントが大歓迎です。

 なるべくきっちりレスしますので、お気軽にコメントしてくださいね!!

 ちなみに、カクヨムコンに参加してますので、☆でレビューとても嬉しいです!

 それが作者のやる気に直結いたします!

ジャンル・タグ

, , , , , , ,

作品統計

👁️ 閲覧数: 1 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

カクナ・ノゾム

カクナ・ノゾム

カクナノゾムと申します。 趣味の小説を細々と書いてます。 面白いことは間違いないので是非是非ご一読くださいませ。

👥 フォロワー: 2人

作者ページを見る