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第26話:鑑定士ジゲン、最後の「真贋」

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/4/15 📚 シリーズ: 《冒険者ギルドのお仕事ファンタジー》鉄の受付嬢リリアンのプロの流儀 ~冒険は、窓口から始まります~ 📝 2,451文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

《冒険者ギルドのお仕事ファンタジー》鉄の受付嬢リリアンのプロの流儀 ~冒険は、窓口から始まります~ - 第26話:鑑定士ジゲン、最後の「真贋」

本文

◇◆◇◆◇

【視点:ジゲン・シュテルン】

 鑑定室は、嘘が通用しない場所じゃ。

 魔物の素材も、古代の遺物も、ここに来ればその「真実」を曝け出すことになる。

 ワシは鼻眼鏡を外し、丁寧にレンズを磨いた。目の前には、さきほど若手の冒険者が命からがら持ち帰ったという、1枚の古い羊皮紙が置かれている。

「……ほう。これは、ただの地図ではないな」

 羊皮紙からは、どす黒い魔力の残滓が漂っている。通称「呪われた地図」。

 だが、ワシが驚いたのはその呪いではない。そこに描かれた海岸線、山脈の隆起、そして名もなき集落の配置――。

 鑑定士として70年以上の月日を過ごしてきたワシの記憶が、1つの座標を指し示した。

 それは、辺境にある「ヴェール農園」の周辺。ギルドの受付に座る、あの娘の故郷だ。

 コンコン、と控えめだが正確なリズムでドアが叩かれた。

「ジゲンさん。例の『特殊物件』の登録準備が整いました。鑑定結果をいただけますか」

 入ってきたリリアンは、相変わらず乱れひとつない夜会巻きに、一点の曇りもないアクアマリンの瞳をしていた。彼女は事務用ボードを手に、この「呪物」をただの在庫品として処理しようとしている。

「リリアン。この地図をよく見たか?」

「ええ。記録によれば、第3紀後半の様式を模した偽造品、あるいは情報の欠落が激しい失敗作と推測されます。呪いの解除費用と資産価値を天秤にかければ、即座に封印処理を施すのが合理的です」

 淀みない報告。完璧な事務処理。

 だが、彼女がアクアマリンのピアスに触れる回数が、いつもより1回多い。

「……リリアン。お主、この地図の左下にある、小さな『しるし』に気づいておらんわけではなかろう?」

 ワシが指差したのは、等高線の端に小さく描かれた、鳥の羽のような紋章。

 リリアンの指先が、わずかに、しかし確実に止まった。

「お主はいつも、プロの仮面を被って世界を数字で管理しようとする。だがな、鑑定の本質は『真贋』を見極めることだけではない。対象が放つ『熱』を感じ取ることじゃ」

「……ジゲンさん。私は、ギルドの職員です。私情を挟む余裕はありません」

「黙れ、小娘。たまにはプロの顔を捨てて、自分のために驚け。……この地図を描いたのは、お主の父親ではないのか?」

 リリアンの瞳が、大きく揺れた。

 それは、鉄の女が初めて見せた、1人の「娘」としての動揺だった。

◇◆◇◆◇

【視点:リリアン・ヴェール】

 ジゲンさんの言葉が、私の「鉄のカーテン」を容易く貫いた。

 羊皮紙の上に描かれた、不格好なまでに細密な地図。

 その筆致、線の引き方、そして隅に隠された小さな羽の紋章。

 記憶の底に沈んでいた、土とインクの匂いが蘇る。

「……父は、冒険者ではありませんでした」

 気づけば、私は事務用ボードを机に置き、呪われた地図に手を伸ばしていた。

「ただの、夢想家でした。辺境の村で農作業の合間に、見たこともない世界の地図を描いては、『いつかここに行くんだ』と笑っていた。……母はそれを『野菜の足しにもならない』と怒っていましたが、私は、その地図の向こう側に広がる無限の自由が、たまらなく好きだったのです」

 父が若くして病で亡くなった時、私の手元に残ったのは、描きかけの1枚の地図だけだった。

 私は、父が夢見た「真実」を確かめたかった。

 だからこそ、情報の海である王都へ向かい、軍師として、そして冒険者として、世界の隅々を歩き回った。地図が示す場所が「真実」であることを証明するために。

 けれど、いつしか私は、地図を「管理する道具」としてしか見なくなっていた。

 命を守るための座標。利益を生むためのデータ。

 いつの間にか、父が持っていたあの「熱狂」を、冷徹な事務処理の中に閉じ込めてしまったのだ。

「リリアン。知識を『守る』ことは尊いが、それだけでは死んだ記録と変わらん」

 ジゲンさんが、穏やかな声で私の肩に手を置いた。

「この地図には呪いがかかっておる。だが、それは悪意ではない。……『この先を見たい』という、描き手の執念が魔力と結びついただけのものじゃ。お主が、この地図の『続き』を心から望めば、呪いは消える」

 私は目を閉じ、深く呼吸をした。

 受付嬢としての誇り。軍師としての計算。それらを一度、心の奥底へ仕舞い込む。

 代わりに、幼い頃に父の膝の上で地図を眺めていた時の、あの高鳴る鼓動を呼び覚ます。

(……見たい。この線の先にある、まだ誰も知らない風景を)

 目を開けた瞬間。

 羊皮紙を覆っていた黒い霧が、陽光に解かされるように消え去った。

 そこには、ヴェール村のさらに奥、険しい連峰の向こう側に広がる、美しい未踏の渓谷が描き出されていた。

「……ジゲンさん。これは、鑑定対象ではありません」

 私はアクアマリンのピアスを整え、いつもの「鉄の微笑み」を浮かべた。

 だが、その瞳には、かつてないほど強い光が宿っていた。

「これは、私の『未完の依頼』です。いつか、自分の足でこの続きを描き足しにいくための」

「ふむ。それでこそ、わしが認めたリリアンじゃ」

 ジゲンさんは満足げに鼻眼鏡を直し、再びレンズを磨き始めた。

 鑑定室を出ると、廊下にはアンリが心配そうに立っていた。地下の大図書庫から、呪いの波動を感じ取って駆けつけたのだろう。2階からは、クラウディア主任が優雅に紅茶を啜りながら、こちらを見守っているのが見えた。

「リリアンさん、大丈夫ですか? 地図の鑑定、手伝いましょうか?」

「いいえ、アンリさん。……でも、後で地下へ伺います。この地図の座標、最新の測量データと照合したいのです」

「……! ええ、喜んで!」

 私は窓口へと戻る。

 明日を守るためにペンを執り、数字を管理する日々は変わらない。

 けれど、私の心の中には、父から受け継いだあの「冒険心」という名の地図が、再び色鮮やかに広がり始めていた。

【リリアンのプロな流儀】

「真実を見抜く目は、冷徹なだけでは足りない。対象への『熱狂』があって初めて、その奥底にある光が見える。プロとして守り抜くべき知識の根底には、常に少年少女のような好奇心が眠っているべきなのだ」

(第26話:完)

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ざつ

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