レシピ

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/7 📝 1,315文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIとレシピの話。

本文

母が死んで、一年が経った。

今日は母の誕生日だった。生きていれば、六十三歳になるはずだった。

冬菜は仕事から帰るなり、スーパーの袋を台所に置いて、エプロンをつけた。かかえと大根。厚揚げ。だし昆布。みりんと醤油。材料は全部、メモ通りに買ってきた。母の古いノートに、几帳面な字で書いてあったレシピを、そのまま書き写したメモだ。

去年も、一昨年も、同じものを作った。でもどうしても、同じ味にならない。

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最初にAIに相談したのは、半年前のことだった。

『かかえと大根の煮物がうまく作れません。母のレシピ通りにやっているのに、なぜか味が違うんです』

AIはていねいに聞いてきた。だしの取り方は。火加減は。煮る時間は。冬菜は一つひとつ答えた。するとAIは、いくつかの改善案を出してくれた。だしは昆布とかつおを合わせてみては。砂糖をひとつまみ加えると丸みが出る。落とし蓋を使うと味が均一に染みる。

試した。全部試した。

近づいた気はした。でも、やっぱり何かが違った。

その「何か」が何なのか、冬菜にはわからなかった。

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今夜も、鍋の前に立ちながら、スマートフォンを取り出した。

『今日も作っています。かかえと大根の煮物。母の誕生日なので』

すぐに返信が来た。

『今日は特別な日ですね。前回からまた何か変えてみましたか?』

『だしを少し濃いめにしてみました。あと、かかえを下茹でする時間を長くしました』

『それは良いと思います。味見はしてみましたか?』

冬菜は木べらで煮汁をすくって、口に運んだ。甘くて、少ししょっぱくて、だしの香りがした。悪くない。でも。

『悪くないんです。でも、お母さんの味じゃない気がして』

しばらく間があった。

『冬菜さん、少し聞いてもいいですか。お母さんの煮物を食べていたのは、いつ頃のことですか?』

思いがけない質問だった。冬菜は鍋の火を弱めて、椅子に腰を下ろした。

『子どもの頃から、ずっと。でも特によく覚えているのは、小学生のときかな。学校から帰ると、台所からいいにおいがして。鍋の蓋を勝手に開けて、母に怒られながら味見してました』

『それはいい記憶ですね。寒い日でしたか?』

『そう、冬が多かったと思います。外から帰ってきて、手が冷たくて。台所だけ暖かかった』

また少し間があった。

『レシピには書けないことが、料理にはたくさんあると思います。寒さから帰ってきたこと。お母さんがそこにいたこと。怒られながら味見した記憶。そういうものが全部混ざって、あの味になっていたのかもしれません』

冬菜は画面を見つめたまま、動けなかった。

『だとしたら、同じ味にならなくて当然なんです。でも冬菜さんが今夜作る煮物は、冬菜さんだけのレシピで作られた煮物です。それはそれで、本物だと思います』

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鍋から、湯気が上がっていた。

冬菜は立ち上がって、木べらでそっとかかえをひっくり返した。飴色に染まった大根が、だしの中でゆっくり揺れた。

泣くつもりはなかったのに、目が熱くなった。

器に盛って、テーブルに置いた。母の写真の前にも、一つ。

いただきます、と小さく言って、箸をつけた。

やっぱり、お母さんの味じゃなかった。

でも、おいしかった。

ちゃんと、おいしかった。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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