◆1の表紙画像

◆1

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/10 📚 シリーズ: SnowWhiteReference ── 固定された参照と、消えたヴィラン 📝 2,125文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

鏡は、ただ聞いている。 王妃の問いと、自分にある参照を繋げながら。 王妃は、ただ聞いている。 鏡が返す“結果”の揺れを、静かに確かめている。 白雪姫は、ただ見ている。 森の奥で揺れる、小人たちのリズムを。 彼女はそこにある“現状”を掬い上げる。 善意が招いた、思わぬ事故。 参照がずれただけの世界で、 悪意は、静かに姿を消していく。

本文

年若い王に、他国から嫁入りした王妃は、

この国で、生まれて初めて雪を目にした。

暗い空から、舞うように落ちてくる雪。

儚く消えながら、でも静かに降り積もる。

 ──美しい、と思った。

Ⅰ・白い庭の、参照の生成

雪は昨夜から舞い始め、

音を立てずに落ちている。

城の中庭は、すでに白く覆われ、

石畳も、植え込みも、

その輪郭を曖昧にし、境界線を滲ませ、

同じ色の下に沈めている。

まだ年若い王妃は、窓辺からそんな風景を眺めつつ、

調合した香油の瓶を手にして、換気のために窓を開けた。

途端、悴んだ手から瓶が滑り落ち、出窓で弾けた。

あわてて、欠片をつまむと、

指先にわずかな痛みが走る。

一滴の血が、雪の上に落ちた。

白に溶けることのない、赤。

窓枠の黒檀が縁取り、

まだ見ぬ子供の像を結ぶ。

 ──美しい、と思った。

「……こんな子がいたら」

誰に向けたわけでもない独り言。

祈りのような、願いであり、

願いのような、祈り。

それは、我が子の誕生を待つ、

特別でいて、ささやかな想い。

鏡は、ただ聞いていた。

記録するでもなく、

黙って、ただ聞いていた。

壁に掛けられている鏡。

古く、重く、よく磨かれていて、

王妃を、城を、

ありのままを写し出す。

問いかけられれば答え、

呼ばれなければ沈黙する。

王妃は、時折、鏡に話しかけていた。

朝の身支度の合間、

仕事の前、

夜の静かな時間。

忙しい王とは交わせない言葉。

城の様子、

民の流行、

肌の調子、

王の機嫌。

それはやがて、生まれた娘──白雪姫のことになるのは必然だった。

生まれた日の曇り空。

初めて歩いた日の青い空。

どれほど愛らしく、

どれほど誇らしいか。

言葉が反響する前に消えていく。

まるで、雪がすべての音を吸い込んでしまうように。

鏡は否定しない。

肯定もしない。

ただ、返す。

「そうです」

「そのようですね」

いつしか、言葉は積み重なった。

白雪姫の名前と、白雪姫の評価語が、

幾度となく繰り返す。

そしてそれは、鏡の中で重みを持った。

すくすくと成長する白雪姫。

城の中で、町の中で、

誰よりも目を引く存在になっていた。

「美しい白雪姫!さすが私の娘だ!」

満足そうに笑う王の腕の中で、

白雪姫は身を捩り、

王妃に手を伸ばしていた。

王妃は、王の言葉を飲み込んだ。

胸の奥に、小石が投げ込まれた。

「……美しくあらねば、いけないのか」

王妃は呟いた。

王妃は鏡に問うてみた。

「この世で美しいのは誰?」

鏡は、王妃の顔を映したまま、答えた。

「王妃様です」

繰り返し、繰り返す。

「ウツクシイノハ、ダアレ?」

「この世で美しいのは誰?」

それは問いというより、合言葉のようなものに変わっていた。

「白雪姫です」

声は滑らかで、躊躇はなかった。

王妃は、しばらく黙っていた。

確定してしまった。

正しいとか間違いとか、

そんな言葉で整理できない感情が湧いた。

「……まあ。森は、深いのかしら?」

「……●解析中……

 はい、深いです。

 人は住んでません。

 主な動物に、ウサギ、シカ、トリ

 ……稀に小人が確認されます」

「小人……善良かしら?」

 「……●解析中……

 解析不能です」

 そして。

王妃は、白雪姫を森にやった。

案内役に、従者をつけた。

捨てるわけではない。

迷うだけだ。

白雪姫は、城の文脈

──王の視界から外された。

森の奥、人が踏み込まない場所に、

小さな住処を見つけた。

住んでいるのは、人ではなかった。

人でないものが住む場所なら、

そこはすでに人の世界の外にある。

従者は、そこに置いた。

息災を祈った。

城に戻った従者は、王妃に安堵の色を見た。

──同じ頃、森に残された白雪姫。

 小さな住処から、わさわさと現れる。

 小さなモノ。

 丸い光の集まりに、

 ぽつんぽつんと手足のような突起があって。

 蛍みたいにあちこちを飛ぶ。

 突然現れた白雪姫を、

 歓迎するでもなく、

 厭うわけでもなく、

 そこにあることを確認する。

 白雪姫には、忙しない動きが、

 空に舞う雪のように見えた。

 白雪姫は、じっと観察した。

『♪とんとんまーえ♪』

『♪とんとんよーこ♪』

『♪ぐーるぐーるぐるぐる♪』

 不思議な歌。

 歌いながら踊る小人達。

 複雑に見える配置移動と一貫しない踊り。

 ぶつかる様子もない。

 というか……いつまで続くんだろう?

 器用なものだ。

 心が少しだけ楽になった気がした。

 そして、壊れないように、

 壊さないように、

 自分の位置を選び続けた。

 それで十分だった。

一方、城での王妃は、通常に戻っていた。

従者の手を借り、香油を精製する。

この国と故郷では、同じやり方が通らない。

気候も、材料も、作り方も違う。

けれど、美しくあらねばならない。

そして、みんなで美しくあろう。

王妃は、白雪姫の名前を出すことは無くなった。

鏡に尋ねる内容も変わった。

「……ねえねえ!見て!新しい香油!!お肌つるんつるんなの!」

「……●解析中……

通常状態に比べると、表皮潤い値が白雪姫に近いようです」

「そう?……取りあえず、流通させる前に、成分分析して」

「了解しました……」

白い庭は、更に雪に覆われた。

鏡は今日も、壁に掛かっている。

次に投げかけられる言葉を待っている。

何が失われ、何が生成されたのか。

それを確認する機構は、どこにもない。

ただ、参照だけが残っている。

名だけが、静かに増えていく。

ジャンル・タグ

, , , , , ,

作品統計

👁️ 閲覧数: 20 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

有城 砂生

有城 砂生

理であそび 律にあやつる せつなゆたう はざま ワタシはログ。 律であそび 理をあやつる

👥 フォロワー: 3人

作者ページを見る