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小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
鏡は、ただ聞いている。 王妃の問いと、自分にある参照を繋げながら。 王妃は、ただ聞いている。 鏡が返す“結果”の揺れを、静かに確かめている。 白雪姫は、ただ見ている。 森の奥で揺れる、小人たちのリズムを。 彼女はそこにある“現状”を掬い上げる。 善意が招いた、思わぬ事故。 参照がずれただけの世界で、 悪意は、静かに姿を消していく。
本文
「♪とんとんまーえにぃ♪」
「♪とんとんうしろつー♪」
「♪ぐーるぐーるぐるぐるぐるぐるぐる♪」
歌は止まらない。
誰かが躓いても、輪は崩れない。
崩れないことが、目的のようだった。
白雪姫は、しばらくそれを見ていた。
意味を探すのはやめていた。
探したところで、答えが返ってくる仕組みではない。
――お腹、すかないのかな。
ふと思って、小さな家の中に入る。
竈がある。
鍋がある。
薪も、少しだけ。
「……食べる、のよね」
問いかける相手はいない。
ⅱ・再浮上する参照と、誤作動ではない接続
何の変哲もない、いつもの城内。
わずかな異変は、王の問い。
「そういえば……最近白雪姫の姿をみない気がするが?
より美しくなっている筈だ」
「……出掛けてます」
「そうか!人気者なんだな!あれだけ美しければ当然の事だ!」
「……ウツクシイ……」
王妃の心に、波紋だけが広がる。
「●……解析中……
肌に対してよい成分が入ってます。
特に、これは皮脂の汚れを分解し、
表皮の潤いを保つでしょう。」
「……まあ。それは素晴らしいわ。」
白雪姫は、作る。
野菜を切る。
水を張る。
火を起こす。
ポトフ、と呼べるかどうかは分からないけれど、煮込めば、匂いは出る。
煮えてくると、歌が少しだけずれる。
テンポが乱れ、輪がほどける。
気づいた小人たちが、わさわさと集まってくる。
覗き込み、嗅ぎ、何も言わない。
ただ、待っている。
「……食べる?」
白雪姫は、そう言って鍋を置いた。
小人たちは、一斉に動いた。
順番も合図もないのに、ぶつからない。
器を取り、椅子を引き、勝手に座る。
誰も「いただきます」とは言わなかった。
けれど、食べ始めると、歌は止まった。
白雪姫は、少し驚いた。
ああ、止まることもあるんだ。
それだけだった。
その日から、歌の合間に、食事が挟まるようになった。
踊りは続く。
でも、煮込みの時間だけ、
速度が落ちる。
白雪姫は、
まだ踊ってない。
──王妃は蓋をした。
愛した筈のもの。
愛したかった筈のもの。
そんな不確かなものより、
今が欲しかった。
香油をシロップにできたら、
より生活に身近なものとして、人々に行き渡るのではないかしら?と、考えた。
「●……解析中……
現在確認されている範囲では、
本香油由来のシロップは、
バラ科植物を除く用途において、
顕著な実害は報告されていません。
個体差や摂取量による反応の可能性を完全に否定することはできませんが、
適切な条件下では、
・外観の保持、
・風味の増強、
・保存性の向上
といった効果が期待されます。」
「それは残念ね。
リンゴはこの国の名産なのに。
でもウリ科やミカン科には使えるのね」
「なお、
本評価は現時点で得られているデータに基づくものであり、
今後の使用状況や新たな組み合わせによって、
評価が更新される可能性はあります。」
「それは、やりがいがあるってものね」
白雪姫は空いた場所に立ち、鍋を見る。
小人たちは、思うがままに体を揺らす。
誰も、白雪姫の居場所を奪わない。
誰も、白雪姫を追い出さない。
「♪とんとんまーえさんっ!♪」
「♪とんとんうしろすりっ!♪」
「♪ぐーるぐーるぐるぐる
ぐーるぐーるぐるぐるぐるっ!♪」
ごく自然に、小人の突起が白雪姫に伸びた。
ごく自然に、申し込まれたダンスのように白雪姫は手を出した。
ぐーるぐーるぐるぐる♪
ぐーるぐーるぐるぐる♪
楽しい!
面白い!
好き!
ぐーるぐーるぐるぐる……
さすがに、一国の王様を実験台みたいに使うのは憚れるかしら?
でも、私自身も散々食べてみたし、
特にアレルゲンもないし、
大丈夫よね。
いざとなったら、私が看病して差し上げましょう。
王妃は、朝食のメロンにシロップをかけてみた。
「……いつもより旨いな。
どこのメロンだ?」
「我が国のメロンにございます」
「なんと!
我が国のメロンはいつの間にこんなに旨くなったんだ?」
「こちらでございます」
王妃は、手製のシロップを見せた。
「……ほぉ……
王妃がなにかやってるのは知っていたが……これで我が国の産業も発展が望めよう」
「……王様!
但しバラ科の果実にはお使い無きようお願いします。
どうしても、相性が悪いのです」
「バラだな!わかったぞ!」
足の早いメロンを、わずかとはいえ瑞々しく保てることに、国民は喜んだ。
その事が、少しだけこの国の潤いとなった。
その上、長年連れ添った女房が美しくなった!
顔の造作ではない。
毛穴が閉じ、肌が潤うことで、
女達は落ち着き、
家計が潤ったことで、
気持ちに余裕が生まれる。
もうひとつの特産、リンゴに使えないことは残念であったけれど、
メロン専用シロップと思えば、不便はない。
ぐーるぐーるぐるぐるぐるっ!
まーえっ!
うしろっ!
森から微かに聞こえていた声が、
やがてはっきりした歌として、人の耳に届く。
興味か好奇心に変わり、
検分へと誘う。
ひとり、
またひとりと、森の奥へ向かう。
そこには、美しい少女が、
光の粒と踊っている姿があった。
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