正解率100%
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
AIと質問の話。
本文
ORACLEが公開されたのは、三月の初めだった。
最初はニュースサイトの片隅の記事だった。「あらゆる質問に正解を返すAI」という見出しを、佐藤は通勤電車の中で眺めた。また大げさなやつだ、と思いながらも、なんとなくアプリをダウンロードした。
試しに入力した。
「明日の東京の天気は」
『曇りのち晴れ。最高気温14度』
翌日、その通りだった。
同僚の田中に話すと、「俺も使ってる」と言った。「競馬で試したら全部当たった。怖くて賭けられなかったけど」と笑った。昼休みに三人で集まって、あれこれ試した。歴史のクイズ、難読漢字、来月の為替レート。外れることがなかった。誰かが「神様じゃん」と言って、みんな笑った。
その週末、佐藤は一人でORACLEを開いた。
「転職すべきですか」
『現在の職場での評価と市場価値を比較した場合、転職は三年以内に有益な結果をもたらす可能性が高い』
なるほど、と思った。前から薄々そう感じていた。
「妻との関係は、改善できますか」
『コミュニケーションの頻度を増やすことで、六ヶ月以内に関係性が改善する確率は67%』
67%。高いのか低いのか、よくわからなかった。でもORACLEが言うなら、そうなのだろう。佐藤はスマホを置いて、リビングの天井を見上げた。妻は隣の部屋にいた。テレビの音が、壁越しに聞こえていた。
二週間が経った。
佐藤はほとんど毎晩ORACLEを開くようになっていた。仕事のこと、お金のこと、子どもの進路のこと。ORACLEはいつも静かに、正確に答えた。不思議と腹も立たなかった。感情がなかったからかもしれないし、外れたことがなかったからかもしれない。
ある夜、風呂上がりにソファに座って、何気なくスマホを開いた。
特に聞きたいことはなかった。でも指が動いた。
「私は幸せですか」
送信してから、少し恥ずかしくなった。こんなことを機械に聞いてどうする。でも取り消しボタンは押さなかった。
ORACLEが、沈黙した。
三点リーダーがゆっくりと揺れた。五秒、十秒。こんなに待たされたのは初めてだった。佐藤はなぜか、息を止めていた。
答えが、返ってきた。
一文だった。
佐藤はその文字を、三回読んだ。
それからスマホをテーブルに伏せて、立ち上がった。廊下を歩いて、隣の部屋のドアをノックした。
「なに?」と妻の声がした。
「なんでもない」と佐藤は言った。少し間があってから、「……茶でも飲むか」と続けた。
返事が来るまでの数秒を、佐藤は廊下で待った。