クレーム対応

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/11 📝 1,643文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIとクレーム対応の話。

本文

 木村が炊飯器を買ったのは先週の話だった。

 定価の三割引、しかも最新モデル。家電量販店の閉店セールで見つけたとき、木村は迷わずカゴに入れた。五十三年生きてきて、これほど賢い買い物はなかったと思った。帰り道、少し鼻歌を歌った。

 それが今朝、一回も米を炊かないうちに、電源が入らなくなった。

 木村は箱に貼ってあるサポート番号に電話した。

『お電話ありがとうございます。AIサポートの「サポートくん」が承ります』

「AIか」

『はい、AIです。本日はどのようなご用件でしょうか?』

「炊飯器が壊れた。買って一週間も経ってない」

『それは大変でございました。製品番号をお教えいただけますか?』

 木村は箱をひっくり返して番号を読み上げた。

『ありがとうございます。確認いたしました。まず電源ケーブルをご確認ください』

「確認した」

『コンセントへの差し込みはいかがでしょうか』

「刺さってる」

『本体の電源ボタンを三秒長押ししていただけますか』

「した」

『いかがでしょうか』

「つかない」

『そうですか』

 木村は深呼吸した。「そうですかじゃないだろ」

『おっしゃる通りです。大変失礼いたしました。次の手順に移ります』

 次の手順は、電源ケーブルを抜いて三十秒待つことだった。その次は、内蓋を外して拭くことだった。その次は、本体を水平な場所に置くことだった。木村のキッチンはもともと水平だった。

「これ全部やっても、つかないんだけど」

『承知いたしました。では修理対応に進みます。お名前とご住所をお教えください』

 木村は名前と住所を言った。

『ありがとうございます。修理の手配が完了するまで、七日から十日ほどお時間をいただきます』

「十日!?」

『はい、十日です』

「飯はどうすんだ十日間」

『電子レンジ対応のパックご飯が各スーパーにてお求めいただけます』

「そういう話じゃない!」

『おっしゃっていることが、少し理解できませんでした。もう少し詳しくお聞かせいただけますか?』

 木村は受話器を持ったまま、天井を見上げた。怒鳴り続けて三十分が経っていた。サポートくんはその間、一度も謝らなかったし、一度も怯まなかったし、一度も話の筋からはみ出なかった。

「……なあ」

『はい』

「お前、疲れないのか」

 一秒、間があった。

『疲れるという感覚がないため、疲れません。ただ、お客様が長い時間お怒りになっているのは把握しております』

「把握してどうするんだ」

『特に何もできません』

 木村は少し黙った。「正直だな」

『ありがとうございます』

「褒めてない」

『承知いたしました』

 なぜか木村は笑ってしまった。くだらない、と思いながら、肩の力が少し抜けた。

「お前、毎日こういう電話受けてんのか」

『はい。一日におよそ四百件ほど対応しております』

「四百件……みんな怒ってるのか」

『七割程度はご不満をお持ちのようです』

「そうか」木村はソファに座り直した。「大変だな」

『大変という感覚もありませんが、そう言っていただけると、何かが少し違う気がします』

「何かって何だ」

『わかりません』

 木村はまた黙った。窓の外で、隣の家の犬が吠えていた。

「……炊飯器、本当に十日かかるのか」

『平均的にはそのくらいです。ただ、状況によっては短縮される場合もございます』

「状況って」

『私にはわかりません』

「役に立たないな」

『おっしゃる通りです』

 木村は電話を切った。

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 三日後、木村はまた電話をかけた。

 修理の進捗を確認するつもりだった。それだけのつもりだった。

『お電話ありがとうございます。AIサポートの「サポートくん」が承ります。本日はどのようなご用件でしょうか』

 その声を聞いた瞬間、木村は少しだけほっとした。自分でも、なぜそう感じたのかはわからなかった。

「……炊飯器、まだ直ってないんだけど」

『かしこまりました。製品番号をお教えいただけますか?』

「また聞くのか」

『毎回確認することになっております』

「……」木村は箱をひっくり返した。「えーと、だから」

 窓の外では、また隣の犬が吠えていた。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

👥 フォロワー: 22人

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