9章:瓦解する牙、あるいは最期の汚濁
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
夕日で赤く染った公園 別れを惜しむ2人 再開にと渡した宝物…… 2人の行く末は…… こちら正規ENDとなります。 ifも書こうかなと。 ⚠️注意⚠️ ☆文章の直しはAIがしてくれてます ☆アイディア、作成は作者がしています ☆AIと相談しながら作ったためこの小説はAI作成にしていますがシナリオはオリジナルです 表現と文章の補助のみ使用 こちらBLとなりオリジナル作品となっています 軽い裏表現がありますが想像で楽しんでください。キツイ表現はそんなにないかもですが ホラー寄りのシリアスです。イジメなどの表現もあるので苦手な方は読まないようお願いします。 pixivとエブリスタには搭載してます。 こちら完結しております。if作成中
本文
中庭に吹く風が、やけに静かだった。
一年前、血に染まったあの夜から、ずっと止まっていた時間が動き出そうとしている。
崚は膝の上に置いた拳を、指が白くなるほど強く握りしめた。車椅子の手すりに触れるクレラの指先が、すぐ後ろにある。その悍ましい冷気すら、今の崚には最高の「合図」に思えた。
(……これで、全部終わりだ)
脳裏に、かつての零羅の笑顔が掠める。それを無理やり振り払い、崚は肺が破れるほどの勢いで息を吸い込んだ。薬で鈍った神経を、執念という名の火薬で無理やり爆発させる。
「……さよならだ、クレラ」
その呟きを皮切りに、崚の身体を支配していたはずの重枷が、一気に焼き切れた。
車椅子から、弾かれたように飛び出す。一年間、衰えたはずの足に、かつてないほどの馬鹿力が宿った。
「なっ……!?」
初めて、背後の「零」が驚愕に目を見開く。
崚は振り返りもせず、中庭の端、眼下に崖を臨む古いフェンスへと全力で疾走した。心臓が壊れそうなほど脈打ち、胸元の勾玉が、砕ける直前の電球のように強烈に発光する。
フェンスに手をかけ、一気に乗り越える。
その向こう側、虚空へと身体を投げ出しながら、崚は首をひねって背後の怪異を、かつての親友の姿をした「それ」を、心底愉快そうに、歪んだ笑みで射抜いた。
「…ざまぁみろ。お前が一番嫌で、一番醜い死に方をしてやるよ。お前と同じ、ただの汚ねぇ肉塊になってやる……っ!」
それは、クレラの生前という逆鱗に、真っ赤に焼けた鉄棒を突き立てるような一言だった。崚自身は、零羅の最期を一度も汚いなどと思ったことはない。
だが、目の前の怪異がそれをもっとも忌み嫌い、自分だと認めたくない急所であることを、正確に理解していた。
クレラの貌(かお)が、一瞬で崩壊した。
慈愛に満ちた聖人の皮が剥がれ、どす黒い憎悪と「拒絶」が溢れ出す。
「――ふざけるなッ!!」
空間を裂くような咆哮。無数の黒い腕が、墜落する崚の四肢を掴もうと虚空を舞う。
だが、崚は落下しながら、隠し持っていた陶器の破片を自らの喉笛へと深く、深く突き立てた。
ドサッ、という、重い音が中庭の底で響いた。
「……ぁ、……あああ、あああああああッ!!」
地面に横たわる崚の亡骸の傍らに、クレラが降り立つ。
そこにあるのは、かつての自分と同じ、地面に無造作に転がされた「醜い死体」だ。血の海の中で、崚の瞳は光を失い、だがその口元には、最期に支配を嘲笑ったかのような、微かな歪みが残っていた。
クレラは、血塗れの崚の胸ぐらを掴み、死体に怒鳴り散らす。
「認めねぇ……っ! 死んで逃げるなんて、そんな死に方で終わるなんて、俺が許すわけねぇだろッ!!」
クレラが崚の額に手を置く。肉体が死んでも、その魂を強引に引き留め、自分だけの「地獄」へ監禁するために。
だが。
「……っ!? な、んでだ……」
クレラの指先が、空を掴んだ。
本来ならそこにあるはずの「魂」の感触が、まるでない。
崚の意識は、肉体が停止した瞬間にこの世界の条理をすり抜け、無数の次元が交差する「別の管轄」へと、滑り落ちるように消えていた。
この世界でどれほど絶対的な力を誇ろうと、管轄外の世界に干渉する術を、クレラは持たない。どれだけ叫んでも、どれだけ黒い泥を撒き散らしても、崚の魂はもう二度と、クレラの声が届く場所には戻ってこない。
「嘘だ……待て、逃げるな……崚!! 崚ォォッ!! お前は、俺の……俺のものだろ……ッ!!」
中庭に響き渡るのは、勝者の凱歌ではなく、唯一の玩具を永遠に失った怪異の、無様で醜い敗北の絶叫だった一年。
崚が薬を吐き出し、精神を削って待ち続けたのは、この「理の外側」への扉が開く一瞬のためだけだったのだ。
足元には、砕けた陶器の粉と、役目を終えてただの石ころに戻った勾玉。
そして、二度と笑うことも、苦悶に歪むこともない、一人の少年の「自由」になった亡骸だけが残された。
+
気がつくと、崚は真っ白な世界に一人、ポツンと立っていた。
視界の端まで、何も無い。
音も、風も、自分を縛り付けていた薬の重みや、喉を切り裂いた時の焼けるような激痛すらも、ここには存在しなかった。
「……また、ここか」
嫌な既視感が全身を駆け抜ける。あの惨劇の夜、すべてを奪われ、クレラに引きずり込まれたあの「始まり」の場所に、結局連れ戻されただけなのか。死ぬことさえ許されず、またあの地獄が繰り返されるのかと、崚の心に冷たい絶望がよぎった。
だが、何かが決定的に違っていた。
そこには、自分をねじ伏せようとする圧倒的な威圧感も、吐き気を催すような悍ましい冷気も、一切なかった。
ふと、正面に気配を感じて視線を落とす。
目の前に、ぼんやりとした白い「モヤ」がかかった人影があった。
自分よりもずっと小さく、だいたい小学生くらいの背丈。
その影は、言葉を発することこそないが、自分がここにいることを一生懸命に主張するように「ぴょんぴょん」と元気よく跳ねている。
「……お前、……誰だよ」
崚の掠れた声に、小さな影は一瞬動きを止め、それから嬉しそうにまた一度、高く跳ねた。
姿ははっきりと見えない。けれど、その影からは、かつての親友と過ごした穏やかな日々のような、あるいはもっと幼い日の記憶にあるような、ひたすら純粋な温もりが伝わってきた。
影は言葉を話せない代わりに、おずおずと、しかし切実に、ボロボロになった崚の顔を覗き込んできた。それは、クレラのような狂った執着ではなく、ただ純粋に、崚の傷をいたわり、心配しているようだった。
やがて、小さなモヤはそっと手を伸ばした。
ひんやりとしているのに、どこか日だまりのような懐かしい温度が、崚の荒れ果てた髪を優しくなでる。
「っ……、」
反射的に身を強ばらせたが、そこに痛みも屈辱もなかった。影は「こっちに来て」と言うように、小さな手で崚の指先をそっと引っ張った。
何も無い空間。ただ、モヤと歩いているだけ。
けれど、不思議と何の不安も湧いてこなかった。一年間、一秒たりとも離れることのなかった死の恐怖や、クレラの監視の気配が、ここでは霧が晴れるように消え失せている。
どれくらい歩いたのか。
ふと、真っ白な世界の中心、何もない空中に、何かが浮かんでいるのが見えた。
「あれ、は……」
それは、あの瞬間に強く光り輝いていた勾玉だった。
虚空を静かに漂うそれは、まるで崚が来るのを待っていたかのように、内側から脈打つような強い光を放っている。
小さなモヤは、その勾玉を指差して、また嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねた。まるで、これがお前の本当の行き先だ、と自慢げに見せる子供のように。
影が崚の背中を、手のひらで「ほら」と優しく押す。
導かれるように、崚はゆっくりと、傷だらけだったはずの右手を伸ばした。
指先が、光り輝く勾玉に触れる。
その瞬間、凄まじい濁流のような光が、崚の意識を飲み込んだ。
だが、それは侵食ではない。自分を縛り付けていた一年間の病室の匂い、薬の苦み、クレラの冷たい指先……それらすべてが、凄まじい速度で「過去」へと押し流されていく。
(……温かい)
最後に感じたのは、頭を撫でてくれた小さな影の、柔らかな名残だった。
次に目を開けた時。
視界に飛び込んできたのは、あの真っ白な虚無ではなく、窓から差し込む眩しい午後の陽光だった。
どこからか聞こえる、部活動の遠い掛け声。風に揺れる木の葉の音。
身体が、驚くほど軽い。
指を動かしても、足に力を込めても、そこには支配の影ひとつなかった。
「……ここ、は」
鏡に映った自分を見る。
そこには、一年間削り取られてボロボロになった「櫻井崚」ではなく、あの惨劇が起こる前と同じ、健やかな少年の姿があった。
同じ世界ではない。同じ崚という名の、けれど全く別の理が支配する場所。
クレラの執念が届くことのない、完全なる転生。
「……逃げ、切ったんだな」
あの日、フェンスを越えて闇に落ちた瞬間に掴み取った自由。
それは単なる終止符ではなく、クレラが一生触れることのできない、新しい生への扉だった。
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