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整備士

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/12 📚 シリーズ: 帰ってきました~貴方へのラブレター~ 📝 1,923文字 ✅ 全年齢

あらすじ

異世界帰り色々な日常 一話完結・オムニバス

本文

異世界から帰ったら、俺は整備士だった

「佐藤さん、また独り言言ってましたよ」

同僚が、妙に心配そうな顔で言った。

佐藤 純

大手ディーラー『◎○○自動車』の整備士。

つい三日前まで、異世界で魔王を倒していた。

勇者として十五年。

帰ってきたら、独身、手取り二十二万。

我ながら、落差がすごい。

---

帰還したのは、出発したまさにその瞬間だった。

通勤途中の路地で光に包まれたと思ったら異世界で、終わったと思った瞬間に同じ路地に戻っていた。

スマホの日付は一秒も進んでいない。あちらで過ごした十五年間が、こちらでは「瞬き一つ」の時間だった。

純はしばらく路地にしゃがみこんでいた。

魔王城。全てか終わって仲間たちと見上げた異世界の空は、二つの月が並ぶ不思議な空だった。

そして今、目の前にあるのは、見慣れたアパートの裏路地。カラスに荒らされたゴミ置き場。

純はゆっくり立ち上がって、空を見上げた。

今は見えない位置にあるはずの月は、一つだった。

「——帰ってきたな」

誰に言うでもなく、そう呟いた。

それから、スマホで時間を確認した。

「……朝礼、間に合う」

いつもは電車だが、小走りで出勤した。

(2分で着いた。隠蔽シールドは忘れない)

---

職場には、個性的な面々がいた。

どんな難しいマニュアルもすらすら読み解く**物知りの同僚**。

理不尽なクレーム客を一言で黙らせる**豪胆な主任**。

駐車場の端の異音まで聞き分ける**耳のいい新入り**。

どんな気難しい客も三分で笑わせる**営業の先輩**。

普通の職場だ。普通の、いい人たちだ(・・?

……なのに、純はたまに混乱する。

物知りの同僚がマニュアルを読み解くのを見て、

*こいつ、賢者みたいだな。*

豪胆な主任がクレーム客を一言で黙らせるのを見て、

*こいつ、戦士みたいだな。*

新入りが「あ、三番のリフト異音してます」と言い当てるのを見て、

*こいつ、斥候(シーカー)みたいだな。*

営業の先輩が気難しい客を三分で笑わせるのを見て、

*こいつ、吟遊詩人みたいだな。*

……全員、異世界にいたら 即スカウトしてた。

---

問題が起きたのは、ある火曜日の午後だった。

入庫してきた高級車のエンジンが、原因不明のトラブルを抱えていた。物知りの同僚が首をひねり、主任が腕を組み、皆が顔を見合わせていた。

純はエンジンルームを覗き込んで、三秒で原因を特定した。

「ここの燃料ラインに微細なクラック。あと冷却系のサーモスタットも限界。交換すれば直る」

全員が振り返った。

「……なんでわかるんですか」と物知りの同僚。

「なんとなく」

「なんとなくで?」と主任。

「長年の勘です」

「佐藤さん、うち来て二年ですよね」と新入り。

「…………長く感じてるんです」

十五年、色んなものを修理してきた。剣、鎧、馬車、魔道具。エンジンなんて、構造さえわかれば似たようなものだ。とは、さすがに言えない。

---

さらに問題が起きたのは、その翌日だった。

納車説明中に、純はやってしまった。

「このモデルは燃費がよく、街乗りに最適です。遠征にも——」

「遠征?」と客。

「……ドライブにも、適しています」

同僚が噴き出すのを、純は横目で睨んだ。

ちょっと「威圧」が入ってしまったらしく青ざめていたが...

---

極めつけは、ミーティングだった。

主任が「今月の目標、皆で乗り越えよう」と締めくくったとき、純は思わず立ち上がりかけた。

*俺に続け、と言いそうになった。*

ギリギリで踏みとどまった。

隣の物知りの同僚が「大丈夫ですか」と小声で聞いた。

「大丈夫」と純は小声で答えた。

「さっき立ち上がりかけてましたよね」

「気のせいだ」

「絶対気のせいじゃない...」

---

ある夜、残業で一人になった工場で、純はエンジンを磨きながらぼんやり考えた。

異世界では剣を磨いていた。こちらではエンジンを磨いている。

……やってることは、あんまり変わらないな。

ふと、今日の職場を思い返した。

物知りの同僚の、どんな難題も解析する頭脳。

主任の、どんな局面でも揺るがない胆力。

新入りの、異常を瞬時に察知する感覚。

営業の先輩の、誰の心もほぐす話術。

そして、不器用で、遠回りで、でも絶対に諦めない、自分。

(まさかな)

いや、さすがにそれはない。

ここはただのディーラーで、あいつらはただの同僚で、魔王はもうとっくに倒した。

純はエンジンを磨く手を再開した。

……でも、なんでこんなに息が合うんだろう。

工場の小窓から、夜空が見えた。

月が、一つ、浮かんでいた。

純はしばらくそれを見上げて、また手を動かした。

---

翌朝、出勤してきた純を見て、同僚が言った。

「佐藤さん、なんか今日、妙にオーラありますね」

「気のせいだ...」

「……勇者みたいな顔してますよ」

純は、無言でロッカーを閉めた。

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JJ

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