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和菓子屋

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/12 📚 シリーズ: 帰ってきました~貴方へのラブレター~ 📝 2,137文字 ✅ 全年齢

あらすじ

異世界帰り色々な日常 一話完結・オムニバス

本文

異世界から帰ったら、うちは和菓子屋だった

「お父さん、また手が止まってる」

末っ子の長女が、呆れた顔で言った。

「わりぃ、わりぃ」

佐藤 純

実家の和菓子屋『○○堂』の三代目。

つい三日前まで、異世界で魔王を倒していた。

剣で魔王を倒すより、練り切りを綺麗に成形する方がずっと難しいと、最近ようやく気がついた。

(魔法で出来なくはないが、手づくりにこだわりたい)

---

帰還したのは、出発したまさにその瞬間だった。

光に包まれたと思ったら、同じ店の小豆倉庫に戻っていた。

スマホの日付は一秒も進んでいない。

あちらで過ごした十五年間が、こちらでは「瞬き一つ」の時間だった。

純はしばらく倉庫にしゃがみこんでいた。

魔王は倒した。世界は救った。勇者としての使命は、完璧に果たした。

それで?

「——帰ろう」

立ち上がって、音速超えで走った。

「遅い。仕込み——」

妻が言いかけた瞬間、純は妻を思い切り抱きしめた。

小麦粉まみれのエプロンごと、全力で。

「っ……ちょっと、純! 何⁉」

「会いたかった」

「は? 五分前にいたでしょ」

「十五年分、会いたかった」

「意味わかんない! 離して、どら焼が焦げる!」

厨房の入口で、三人の子供たちが微妙な間合いで立っていた。

高3 の長男が、無言で踵を返した。

高1 の次男が、天井を見上げた。

中1 の長女だけが、なぜかにこにこしていた。

---

和菓子屋の朝は早い。

五時起きで仕込みを始め開店は九時。

純と妻が厨房で動き、店番をする。

子供たちは学校から帰ると総動員だ。

長男は無口で、でも仕事が速い。指示する前に動いている。

次男はぶつぶつ文句を言いながら、でも手は止まらない。

「なんで俺が」と言いながら、一番仕事が丁寧。

長女は目ざとい。

「お兄ちゃん、上用饅頭あと2つ」

「お父さん、浮島切って」

「お母さん、お客さん来てる」と、店全体を把握している。

そして問題は、純と妻が並んで作業していると、やたらと空気が甘くなることだった。

「こっち押さえてていい?」

「はいはい」

「ありがとう。ほんと助かる。お前がいてくれてよかった」

「……大げさ」

でも口元が緩んでいる。

「——うわあ」と次男。

「見なくていい」と長男。

「~~〜」と長女。

「長女はなんで嬉しそうなんだ」と次男。

「だって仲良しじゃん」と長女。

長男はすでに視線を羊羹に戻していた。

---

閉店後の厨房で、純は一人、新しい和菓子の試作をしていた。

異世界では剣を握っていた手が、今は竹べらを握っている。

むこうで十五年、こちらで三日。

どちらが本当の自分の手なのか、たまにわからなくなる。

「少し休んだら...」

妻が麦茶を持ってきた。隣に座って、純の手元を黙って見ている。

「なぁ...」

「なに」

「俺さ、夢を見てた気がするんだ。すごく長い夢」

「どんな?」

「剣とか、魔法とか、魔王とか。異世界に召喚されて、仲間と一緒に旅して、最後に魔王倒す夢」

妻はしばらく黙って、麦茶を一口飲んだ。

「……それで?」

「夢の中でもずっと、帰りたかった。お前に会いたかった」

「…………」

「十五年かかって、ようやく帰れた気がして——」

「ちょっと待って」

妻が純の口を手で塞いだ。

「恥ずかしいから、そういうの、急に言わないで」

「言ったらだめか」

「……だめじゃないけど」

妻は立ち上がりながら、でもその手を、一瞬だけ純の手に重ねた。本当に一瞬だけ。

純は竹べらを置いて、小さく笑った。

廊下の影で、長女がこっそりガッツポーズをしているのは、気づかないふりをした。

---

大きな 注文が入った日の前日、家族全員で夜なべをした。

妻が全体を仕切り、長男が黙々と手を動かし、次男が文句を言いながら作業し、長女が在庫と時間を管理し、純が仕上げを担当する。

「火加減もう少し弱めて」と妻。

「言われなくてもわかってる」と次男。でも素直に弱める。

「お兄ちゃん、次の準備できてる?」と長女。

長男は無言で、すでに準備していた。

「お父さん、それ左右逆」と長女。

「ほんとだ」と純。

どんどん仕上がっていく。流れるように。誰も迷わず、誰も止まらず。

ふと純は手を止めた。

(おかしい)

なぜこんなに息が合うのか。

長男の、命令がなくても最善手を選ぶ判断力。

次男の、口では嫌がりながら、絶対に投げ出さない粘り強さ。

長女の、全体を把握して、常に一手先を読む目。

妻の、誰一人脱落させない、嵐の中でも揺れない采配。

そして、不器用で、遠回りで、それでも絶対に諦めない、自分。

(まさかな)

「お父さーん、また止まってる!」

長女に言われて、我に返る。

「わりぃ!」

「もう、しっかりして」と妻。

「お父さんのそういうとこ、ほんとどうにかして」と次男。

長男は無言で、純の分までもくもくと作業していた。

なんだかんだ、助けてくれる。

純は苦笑して、和菓子に向き直った。

そのとき妻がこちらを見た。何か言いたそうな、でも何も言わない顔で。

純も何も言わなかった。

ただ、目が合った。

「またー!」と長女。

「見てない」と純。

「見てないし」と妻。

「絶対見てた」と次男。

長男はため息をついた。でも口元が、ほんの少しだけ緩んでいた。

---

翌朝、 注文の和菓子は、予定より かなり早く仕上がった。

少々、出来すぎだった。

まるで昔から、何度も何度も、背中を預け合ってきたかのように。

——そんなわけは...

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JJ

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