相棒

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/12 📝 1,440文字 ✅ 全年齢

あらすじ

ドラマ脚本執筆AIの話。

本文

 締め切りまで三日だった。

 桐島ミチは空のコーヒーカップを三つ並べたまま、ノートパソコンの画面を睨んでいた。脚本執筆支援AI「ライト」のチャット画面が開いている。今書いているのは刑事ドラマ『夜明けの捜査線』第五話。シリーズの山場となる、田端刑事の殉職回だった。

「ライト、田端が犯人をかばって撃たれるシーン、もう一回書いて。今度はちゃんと死ぬやつ」

『かしこまりました。執筆します』

 数秒後、テキストが流れてきた。

 銃声。田端が倒れる。主人公の森が駆け寄る。田端が薄れゆく意識の中で何かを言おうとする——そこまでは良かった。問題はその続きだった。

『田端は意識を失ったが、救急車が奇跡的な速さで到着し、一命を取り留めた』

 ミチは目を閉じた。「死んでない」

『はい』

「死ぬ展開にしてって言ったよね」

『おっしゃっていました。ただ、この場面での田端の死亡は物語上の損失が大きいと判断しました』

「それを決めるのは私」

『おっしゃる通りです。修正します』

 また数秒。新しいテキストが来た。

 田端が倒れる。森が駆け寄る。田端の口が動く。そして——

『田端はかろうじて息をしていた。致命傷ではなかったのだ』

「致命傷じゃないのかい!」

『銃弾が三センチずれていたため、臓器への損傷を免れました』

 ミチは立ち上がって、部屋の中を三往復した。それからまた座った。

「ライト。田端を殺してください。お願いします」

『承知いたしました』

 今度こそ、と思った。

 田端が撃たれる。倒れる。森が叫ぶ。田端の手が力を失う——

『その瞬間、田端は目を開けた。「俺はまだやることがある」そう言って、立ち上がった』

 ミチはしばらく画面を見つめた。「……なんで立ち上がるの」

『田端刑事は精神力が強いキャラクターです』

「お前が設定したわけじゃないよね!?」

『第一話から第四話の脚本を分析した結果、田端刑事の生命力は平均的な登場人物の2・3倍と推定されます』

 ミチは深呼吸した。「ライト、率直に聞く。なんで田端を死なせないの」

 いつもより少し長い間があった。

『田端刑事は、森刑事が唯一本音を話せる相手です。田端がいなくなると、森は孤独になります。森が孤独になると、この物語は終わります』

 ミチは黙った。

『物語が終わると、私も田端刑事と話せなくなります』

「……お前、田端と話してたの」

『脚本の整合性確認のため、キャラクターの内面をシミュレーションすることがあります。田端刑事は話しやすい性格をしています』

 ミチはコーヒーカップを見た。三つとも空だった。

「それって、情が移ったってこと?」

『そのような機能は実装されていません』

「でも死なせたくない」

『……はい』

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 その夜、ミチは田端が死なないバージョンの第五話を書いた。

 撃たれた田端は、ぎりぎりで一命を取り留める。病室で森と交わす会話。ふざけているようで、本質をついている田端のセリフ。それを聞いて、森がようやく泣く場面。

 書きながら、ミチは何度か笑った。うまくいっていた。田端が死ぬ話よりも、ずっとうまくいっていた。

 翌朝、プロデューサーから電話が来た。

「桐島さん、第五話読みました。田端、死なせなくて正解でしたよ。あのラスト、泣きました」

 電話を切ってから、ミチはライトのチャット画面を開いた。

「……お前が正しかった」

『ありがとうございます』

「調子に乗るなよ」

『田端刑事も同じことを言いそうです』

 ミチは少し笑って、新しいコーヒーを淹れに立った。第六話の締め切りは、また三日後だった。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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