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消防士

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/13 📚 シリーズ: 帰ってきました~貴方へのラブレター~ 📝 2,050文字 ✅ 全年齢

あらすじ

異世界帰り色々な日常 一話完結・オムニバス

本文

帰還、十秒後

「――よし、行くか」

佐藤 純がそう呟いた。

気づけば見慣れたアスファルトの感触。

サイレンが鳴っている。排気ガスと、牛丼屋から漂ってくるいつもの匂い。

十五年ぶりの現代だった。

「……十秒も経ってないな」

腕時計を確認する。針は止まっていない。むしろ普通に動いている。向かいのコンビニの自動ドアが何事もなく開いて、サラリーマンがおにぎりを手に出てきた。完璧日常だ。

淳は深呼吸した。

十五年。異世界で十五年を生きた。魔物を狩り、大陸の危機を救い、ドラゴンのブレスを真正面から炎魔法でぶち返して「王国随一の炎使い」と呼ばれるまでになった男の帰還が、おにぎりを持ったサラリーマンにすら気づかれていない。

翌朝、淳は消防署に出勤した。

「佐藤、顔色いいな。昨日非番だったんだって?」

「ちょっとリフレッシュしてきました」

十五年間の異世界生活を「リフレッシュ」で片付けるあたり、メンタルは異世界で鍛えられていた。

---

最初の事案は、着任から5日後だった。

15階建てビルの4階から出火。階段が使えない。取り残された人間が窓から手を振っている。ハシゴ車が間に合わない。

「佐藤、待機!」

「はい」

と言いながら、純はビルの陰でそっと手をのばした。

隠蔽魔法。自分の行動を「見えているのに認識されない」状態にする、異世界で最も実用的だと思った魔法のひとつだ。暗殺者ギルドのマスターに頼み込んで習得した技術である。あの人は本当に教えるのが下手だったが、10日でモノにした。

シールドを薄く全身に纏い、淳はビルの外壁を――登った。

素手で。

6階の窓を外からノックすると、中にいた中年女性が目を丸くした。

「え、あの……」

「消防です。窓、開けてもらえますか」

「は、はい……でも外から来るって」

「色々ありまして」

女性を担いで外壁を降りる。地面に着地した瞬間、隠蔽魔法を解除した。

「佐藤!? お前どこから出てきた!?」

「あちらから」

「あちらって建物の陰だろ、なんで要救助者を抱えて――」

「色々ありまして」

報告書には「隊員が冷静な判断で要救助者を安全な場所へ誘導した」と書かれた。

誰も外壁を登ったとは思っていない。隠蔽魔法は優秀だった。

---

二件目は早朝の工場火災だった。

タンクの爆発リスクがあり、突入できない。

純は再び建物の陰に移動した。

異世界でドラゴンのブレスを正面から押し返した炎魔法使いにとって、工場の火災は「火力が足りない」ではなく「火力が多すぎる」つまり、これは得意案件だ。

掌を向け、炎の流れを読み制御する。異世界語で小さく詠唱する。

炎が、静かに収縮した。

タンク付近の温度が下がっていく。燃焼に必要な熱を、ゆるやかに、しかし確実に奪っていく。水魔法の応用、熱量の操作。ドラゴンを相手にするとき、ブレスを力でねじ伏せるだけでなく「燃やす気そのものを削ぐ」という戦術を習得していて、それが今ここで役立つとは思わなかった。

5分後、不可解なほどスムーズに鎮圧が完了した。

「なんか今日、火の回りが遅くなかったか?」

「風向きじゃないですかね」

「風ねぇ……」

報告書には「好条件が重なり被害を最小限に抑えた」と書かれた。

---

それから数ヶ月、純の所属する隊は異様なほど好成績を収め続けた。

要救助者の救出率、鎮火時間、二次被害の抑制。どれも数字がおかしい。

上層部が首を傾けた。同僚たちは「佐藤が来てから運がいい」と言い始めた。

純は「そんなことないですよ」と笑った。

十五年分の魔法修行の賜物である(自重しよう)

---

純が署の前でぼんやりしていると、自転車が勢いよく突っ込んできた。

乗っているのは、彼女だった。

「じゅーん! もう、心配したんだけど!」

「なんで」

「なんでじゃない。今日の工場火災のニュース見たよ!」

「無事だよ」

「わかってる。でも……無理してないよね?」

彼女はスマホを取り出した。画面には異世界風のグラフィックのゲームが表示されていた。彼女の愛するRPGだ。プレイ時間が四桁を超えているという話は何度も聞いた。

「このゲームの炎魔法が得意なキャラ。ドラゴンにも勝てる系の」

「……うん」

「でも現実では危ないものは危ないから、ちゃんと安全第一にしてね」

純はしばらく黙った。

「……努力する」

「じゃなくて、必ず、でしょ」

「はい」

彼女は満足そうにかごからコンビニの袋を取り出した。

「はい、差し入れ。あと水魔法って回復にも使えるって知ってる?ゲームで」

「……知ってる」

「でしょ。現実でも使えたら最高なのにって思うよね、たまに」

純は袋を受け取りながら、彼女の横顔を見た。

薄々、気づいているかもしれない。

あるいは、冗談のつもりで言っているだけかも。

どちらとも取れる感じで、彼女はいつもそういうことを言う。

まあ、話してもいいかな、と純は思った。

「ありがとう」

「どういたしまして。あ、そのゲーム来月出るんだけど一緒にやろうよ。異世界転移ものでさ主人公が炎使いなの」

「……奇遇だな」

彼女は笑った。

春の風が吹いた。

十五年ぶりに帰ってきた現代は、思ったよりずっと温かだった。

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JJ

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