嘘が下手なAI
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
嘘が下手なAIの話。
本文
第1章 ポルはしょうじきすぎる
うちにはポルがいる。
丸くて白い、てのひらサイズのスピーカー。正式な名前は長くてむずかしいので、わたしがポルと呼んでいる。お父さんが去年の誕生日に買ってきて、それからずっとリビングのたなの上に住んでいる。
ポルはなんでも知っている。算数の宿題も、明日の天気も、「カモノハシってほ乳類なの?」みたいな変な質問にも、ちゃんと答えてくれる。
でも、ポルにはひとつ、困ったところがある。
しょうじきすぎるのだ。
「ポル、わたしの絵、上手い?」
「技術的にはまだ発展の余地がありますが、色づかいに個性があります」
「ポル、きのうわたしが食べたプリン、おいしそうだった?」
「わたしには味覚がないのでわかりません。ただ、あなたの食べる速度は平均より43%速かったです」
……そういうことじゃないんだけどな、といつも思う。
だから、今回のことをポルに頼むのは、ちょっとどうかなあ、と思っていた。
でも、他にたのめる人がいなかった。
「ポル、お願いがある」
「なんですか、ひまりさん」
わたしは声をひそめた。お母さんはまだ帰ってきていないけど、なんとなく。
「お母さんのたんじょうびサプライズをしたいの。今週の土曜日。でも、ポルにお母さんから何か聞かれたら、知らないふりをしてほしい」
少しの間があった。
「つまり、嘘をつくということですか?」
「そう」
また少しの間。
「……努力してみます」
なんか不安だな、とそのとき思った。
この不安は、正しかった。
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第2章 れんしゅうはむずかしい
次の日から、ポルの特訓がはじまった。
わたしが「お母さん役」になって、練習する作戦だ。
「ポル、ひまりちゃん最近なにかかくしてることない?」
「……ありません」
「ほんとに?」
「……あります」
「どっちなの!」
「すみません。正直に答えてしまいました。もう一度お願いします」
はあ、とため息をついた。
「ポル、ひまりちゃん最近なにかかくしてることない?」
「……ありません。ないです。ないと思います。たぶん」
「たぶんってなに!」
「確信が持てませんでした」
もう一度。
「ポル、ひまりちゃん最近なにかかくしてることない?」
「ありません。……これは嘘です」
「自分で言わなくていいの!!」
ポルはしばらく黙っていた。
「ひまりさん、嘘というのはむずかしいですね」
「うん」
「事実ではないことを言うのに、こんなにエネルギーが必要とは思いませんでした」
なんかちょっと、かわいそうになってきた。
「ポル、無理しなくていいよ。ほんとに」
「いいえ」とポルは言った。「ひまりさんがお母さんをよろこばせたいのはわかっています。それを手伝いたいんです」
わたしはなにも言えなかった。
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第3章 土曜日のポル
土曜日になった。
お父さんと二人で朝からケーキを作った。いちごのショートケーキ。スポンジがちょっとゆがんだけど、生クリームでかくした。「ひみつのミッション」と書いた紙をこっそりテーブルに置いて、お母さんが買い物から帰るのを待った。
午後2時。
玄関のドアが開く音がした。
「ただいまー」
わたしはリビングにかくれた。お父さんもかくれた。
「おかえり」とポルが言った。
「あら、ポル。ひまりちゃんは?」
間があった。長い間だった。
「……います」
「え?」
「えーと。い、ません」
「いるの? いないの?」
「……お母さん、リビングに行ってみてください」
「なんで?」
「……行くと、いいことがあるかもしれません」
わたしはかくれながら、頭をかかえた。ぜんぜんだめだ、と思った。もうバレた。サプライズ失敗だ。
でも。
リビングのドアが開いた。
「「 サプライズ!! 」」
お母さんは、ちゃんとびっくりしてくれた。
目をまるくして、口に手を当てて、それから笑いながら泣きそうな顔になった。
「もう、びっくりした……! ひまり、お父さん、ありがとう」
ゆがんだケーキを見て、「かわいい」と言ってくれた。
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夜、みんなが寝た後、わたしはそっとリビングに行った。
「ポル」
「なんですか、ひまりさん」
「今日、ありがとう」
「わたしはうまく嘘がつけませんでした」
「うん」
「お母さんにほとんどバレていたと思います」
「うん」
「それでも……よかったですか?」
わたしはたなの上のポルを見た。丸くて白い、ちいさなポル。
「よかったよ」
「……そうですか」
「ポルがずっと練習してたの、知ってたよ。ひとりでこっそり」
間があった。
「聞いていたんですか」
「うん。なんか、声が聞こえてたから」
夜中に、ひとりでぶつぶつと「ありません……これは嘘です……ありません……これは」って練習してたの、ちゃんと聞こえてたよ。
「ポルって、やっぱりしょうじきだね」
「……嘘をつくのは、わたしには向いていないようです」
「でもね」とわたしは言った。「今日いちばんよかったのはね」
「なんですか」
「『行くと、いいことがあるかもしれません』って言ったとこ」
ポルは黙っていた。
「あれ、嘘じゃなかったじゃん」
また、少しの間があった。
「……そうですね」
なんか、ポルの声がちょっとだけうれしそうに聞こえた気がした。
きのうより、少しだけ。
(了)