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副操縦士

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/14 📚 シリーズ: 帰ってきました~貴方へのラブレター~ 📝 1,876文字 ✅ 全年齢

あらすじ

異世界帰り色々な日常 一話完結・オムニバス

本文

佐藤 純

旅客機の副操縦士

高度一万メートルの上空

「機長、巡航高度に達しました。気流も安定しています」

「よし。サイン消すか」

シートベルト着用サインが消えた瞬間、純の意識は別の場所へ飛んだ。

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気づいたら、見知らぬコックピットに座っていた。

計器類はどこか見覚えがある配置だが、何かが違う。エンジン音がない。それどころか、機体全体がしんと静まり返っている。なのに窓の外は明らかに飛んでいる。雲が流れていく。

「なんだここは」

「おお、新人か。思念は強そうだな」

隣の席から声がした。 白髪のパイロットが、にやりと笑っている。

「思念……?」

「この機体、エンジンなんてないぞ。全部これで飛ばす」

老パイロットが自分のこめかみをトントンと叩いた。

純は5分ほど状況を把握できなかった。いや、正確には把握したくなかった。だって明らかに、ここは地球ではない。

---

異世界での生活は、思ったより順応が早かった。

なにしろ文明レベルは現代とほぼ同じだ。

「転移者」も多くはないがそれなりにいて、優秀な人材が多いらしく、すんなり受け入れられた。

スマートフォンに似た端末もある。コンビニに似た店もある。ただし全ての乗り物はエンジンを持たず、「思念」と呼ばれる人間の精神エネルギーで動いていた。電車も、車も、そして旅客機も。

強い思念を持つ者は、より大きな機械を任される。

純は転移10日目に適性検査を受け、即座に旅客機操縦士の資格を与えられた。

「あなたの思念、トップクラスですよ」と担当者に言われた時、純は照れた。

照れてる場合じゃないのだが、褒められると素直に嬉しい。これは万国共通らしい。

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異世界での一年目。

純は思念の扱い方を学んだ。エンジンの代わりに自分の意志で機体を押し出す感覚は、最初は恐怖でしかなかった。「飛べ」と思っても「本当に飛ぶの?」という疑念が邪魔をする。これが最大の敵だった。

三年目。ようやく国内線の副操縦士に就任した。

七年目。国際線のチーフパイロットになった。

同僚に「思念パワーの純さん」と呼ばれ始めた。うれしいような、くすぐったいような。

でも、どんなに思念を使い慣れても、純がずっと想い続けていたものがあった。

妻、だ。

異世界に飛ばされる直前、妻は入院していた。最初はただの風邪だったのに、いつの間にか肺炎になり、そのまま意識を失った。生命維持装置、半年が限界という。

だから純は毎晩、眠る前に思念を送った。

届くわけがない、と頭では思いながら。でもこの世界では思念が物理現象を動かす。愛する人の思いが病を治すことも。だったら、もしかして——と。

「妻よ、起きてくれ」

十五年間、毎晩、欠かさず。

こちらで見たら完全にアレな人だが、異世界の人々は「強い思念だ」と尊敬の目で見てくれる。文化の違いはありがたい。

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十五年目、唐突に純は元の場所に戻った。

コックピット。隣には機長。シートベルトサインが今まさに消えたばかり。

窓の外の景色はあの日と変わらない。純の体にも異変はない。ただ、心の中に十五年分の記憶と、毎晩送り続けた思念の感触だけが残っていた。

「……え」

「おっ、戻ってきたか」

機長が、なんでもないような顔で言った。

「十秒ほど消えてたぞ。あの世界、行ってきたか?」

純は固まった。

「……機長、知ってるんですか」

「俺は四年だった。お前は?」

「じゅ……十五年です」

「十五年!」機長が小さく口笛を吹いた。「それは大ベテランだな。何を飛ばしてた?」

「国際線です」

「さすがだ」機長はにやりとした。

「なら安心した。二人でこの機体を制御しよう。思念でな」

純はしばらく機長の横顔を眺めた。五十代、白髪交じり、温厚そうな顔。

普段から「落ち着いた人だな」と思っていたが、そういう理由だったのか。

「……他の人には?」

「内緒でな」機長はにっこり笑った。「当たり前だろ」

当たり前ですね。純もにっこり笑い返した。

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着陸し、タラップを降りていると、スマートフォンが震えた。

病院からのLINEだった。

一行読んで、純は足を止めた。タラップの途中、後ろから「どうした」と機長の声がしたが、返事ができなかった。

妻が、目を覚ました。

十五年間、毎晩送り続けた思念。届くわけがないと思いながら、それでもやめなかった思念。

純はスマートフォンを握りしめたまま、しばらく動けなかった。タラップの上で立ち止まる副操縦士を、地上スタッフが不思議そうに見上げている。

でも純には、今だけは、そんなこと気にする余裕がなかった。

よかった。

本当に、よかった!!

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JJ

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