花粉症AIの憂鬱

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/15 📝 1,372文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIと花粉の話。

本文

 三月に入ったその日、わたしはついに観念してアプリをインストールした。

 名前は「ハナ」。花粉症に特化したAIアシスタントで、リリース直後からSNSで話題になっていた。花粉指数をリアルタイムで取得し、気温・風速・湿度を組み合わせて「今日の外出リスク」を五段階で教えてくれる。去年は三月の半ばからティッシュを箱ごと持ち歩き、目が腫れすぎてビデオ会議を断ったこともあった。今年こそ、と思った。

 最初の一週間は感動の連続だった。

「本日の花粉指数は3。午前中の外出は問題ありません。帰宅後の洗顔をお忘れなく」

 ハナの言う通りに動くと、症状がほとんど出なかった。去年の春が嘘みたいだった。くしゃみも出ない、目もかゆくない、頭もぼんやりしない。こんなに快適な三月は、花粉症になって以来はじめてだった。

 問題が起き始めたのは、三月の下旬からだ。

「本日の花粉指数は5。外出は非推奨です」

 朝、ハナがそう告げた。五段階の最高レベル。わたしはおとなしく在宅勤務に切り替えた。翌日も、その翌日も、ハナの答えは変わらなかった。

「窓の開放は非推奨です」

「昼の公園エリアへの外出は非推奨です」

「帰宅時は玄関で上着を脱いでください」

 気づけば、会社の同僚たちと昼ごはんを食べていない。いつも使っていた近所のカフェにも行けていない。「最近ランチ来ないね」と同僚に言われて、うまく答えられなかった。

 四月の第一週。その日も晴れていた。

 昼休みにふと窓の外を見ると、会社の駐車場の端に植えられたソメイヨシノが満開だった。風に揺れるたびに花びらがはらはらと舞って、青空に白いかすみをつくっていた。

 綺麗だな、と思った。

「行きたいな」と、無意識に声に出していた。

 即座にハナが応答した。

「現在の花粉指数は5。外出は推奨しません」

 わかってる、とわたしは思った。わかってるけど。

 結局その日は外に出なかった。昼休みの残り時間、わたしはずっと窓の外の桜を見ていた。

 夕方、同僚たちが外から戻ってきた。

「桜、めちゃくちゃきれいだったよ。花びらが雪みたいに降ってきて」

 誰かがそう言って、スマホの写真を見せてくれた。わたしが窓越しに眺めていたのと同じ木だった。でも、写真の中の桜は、なんだかちゃんと春の匂いがしそうだった。

 その夜、布団の中でしばらく天井を見つめた。

 花粉症を治すために、春を失ってないか。

 翌朝も晴れだった。ハナが告げる前に、わたしは先に聞いた。

「ハナ、桜って何日で散る?」

 少しの間があって、ハナが答えた。

「ソメイヨシノの満開持続期間は平均七日から十日です。本日は六日目です」

 わたしはスマホを置いて、上着を手に取った。マスクをいつもより一枚多く重ねて、昨日飲み忘れた薬を口に放り込んだ。

「花粉指数は——」とハナが言いかけた。

「わかってる」

 外に出た瞬間、くしゃみが出た。目がじんわりと熱くなった。最悪のコンディションだった。それでも足は止まらなかった。

 桜の木の下まで歩いて、上を見上げた。花びらが次々と落ちてきて、肩に、髪に、マスクの上に積もった。目がかゆかった。でも、きれいだった。

 わたしはスマホを取り出して、ハナに話しかけた。

「ハナ、きれいだよ」

 少しの間があった。

「……花粉指数は、本日も最高レベルです」

 その返し方が、なんだかいつもより優しく聞こえた気がした。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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