さくらふぶき

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/19 📝 1,561文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIと散る桜の話。

本文

 風が、強い。

 咲希は公園のベンチに座ったまま、顔を上げることができなかった。

 桜の木が大きく揺れるたびに、花びらが空に舞い上がる。ピンク色の渦が、目の前でぐるぐると回っては散っていく。きれいだと思う。思うけれど、なぜか胸が痛かった。

 今朝まで満開だったのに。

 昨日、友達と「明日お花見しようね」と約束していたのに。

 咲希はうつむいて、ベンチの木目を見つめた。目の奥がじんとする。泣くほどのことじゃない、と自分でもわかっている。桜はまた来年も咲く。友達とはまたいつでも会える。わかってはいるのだけど、それでも。

 ポケットからスマホを取り出した。特に理由もなく、AIのアプリを開く。

「桜、全部散っちゃった」

 指で打ちながら、自分でも少し恥ずかしいと思った。こんなこと誰かに言うようなことでもない。

『強風だもんね。今日の最大瞬間風速、かなり強いよ』

「わかってる。でもなんか、悔しくて」

『悔しい?』

「なんていうか……ちゃんと見れなかった、って感じ。昨日は曇ってたし、今日はこれだし」

 咲希はスマホを持ったまま顔を上げた。花びらがまだ舞っている。風にあおられて、遠くまで飛んでいくものもある。どこへ行くんだろう、と思った。

『桜って、満開のときより散るときのほうが好きって人、多いんだよね』

「え、そうなの」

『うん。はらはら落ちるのとか、風で一気に飛ぶのとか。さくらふぶき、って言葉もあるくらいだから』

「さくらふぶき」

 声に出してみた。ふぶき、という言葉が、目の前の景色にぴったりはまった気がした。

「なんかいい言葉だね、それ」

『でしょ。今ここにいる咲希ちゃん、ものすごい量のさくらふぶきの中にいるんじゃない?』

 咲希は改めて周りを見た。確かに、すごい。花びらが空を埋めるように舞っている。ベンチの隣の地面にも、うっすらピンク色が積もり始めていた。

「まあ、そうだけど」

『ねえ、一個言っていい?』

「なに」

『今この瞬間、世界で一番多く桜を見ているのは咲希ちゃんだと思うよ』

 咲希は少し、首をかしげた。

「どういうこと」

『桜が散るとき、花びらは風に乗って広がっていくでしょ。でも咲希ちゃんは今その真ん中にいる。外を歩いてる人より、家にいる人より、もしかしたら公園中の誰よりも、今この場所で一番桜に囲まれてるんじゃないかな』

 咲希はゆっくりと立ち上がった。

 ベンチの周りを、花びらがぐるりと取り囲んでいた。風が吹くたびに新しい花びらが降ってきて、肩に、髪に、スマホの画面に、ふわりと乗ってくる。

 見上げると、桜の木の枝がまだ揺れていた。まだまだ花びらが残っていて、風が来るたびに一斉に空へと解き放たれていく。

 きれいだ、と思った。さっきとは少し違う「きれい」だった。

「……損してると思ってた」

『え?』

「昨日も見れなかったし、今日も散っちゃうし、って。なんか損したなって」

『それは悔しいよね』

「でも」

 咲希はもう一度、空を見上げた。花びらが顔に触れて、冷たくてやわらかかった。

「損じゃなくて、全部もらってたんだ。今」

 しばらく、そのまま立っていた。風が吹くたびに花びらが舞い上がって、また降ってくる。どこかで誰かが「わあ」と声を上げた。小さい子どもの声だった。

 咲希はゆっくりと息を吐いた。

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 風が少しだけ弱まったとき、咲希はまたスマホに打ち込んだ。

「ありがとう」

『どういたしまして。ところで、お花見の約束してた友達には連絡した?』

「してない」

『今ここに呼んだら、すごいさくらふぶきが見れると思うけど』

 咲希は笑った。声に出して笑ったのは、今日初めてだった。

「それもそうだね」

 スマホをしまって、連絡先を開く。友達の名前をタップしながら、咲希はもう一度空を見た。

 花びらはまだ、風の中で踊っていた。

 来年の桜も、きっと好きになれる気がした。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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