雪は溶たら泥になる
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
あくまでフィクションで 実際に起こった「 旭川凍死事件 」とは無関係です。
本文
序章、
北の街・白川市の冬は、ただ寒いだけではない。雪は静かに降り積もり、街の輪郭を曖昧にし、人々の声を吸い込んでいく。
その白さは、まるで街全体が何かを隠そうとしているかのようだった。
三月の終わり、夜明け前の薄闇の中で、公園内に倒れている少女が見つかった。
名前は、美咲。十四歳。
まだ幼さの残る顔は、雪に触れたまま冷たく、静かに眠っているように見えた。
発見した老人は、震える手で警察に通報した。
しかし、通報を受けた白川署の動きは、どこか不自然だった。
現場に到着したパトカーは、少女の周囲を確認するよりも先に、なぜか除雪車を呼び寄せ、足跡や痕跡を覆い隠すように雪を押し固めた。
「事故で処理する。」
署長の短い指示が、無線越しに響いた。
その言葉は、まるでこの街の“常識”であるかのように、誰も逆らわなかった。
白川市は、近年観光都市として売り出し中だった。
市長は「安全で清潔な街」を掲げ、教育委員会は「問題のない学校」を誇り、地元企業は「健全な地域社会」をアピールしていた。
そのどれもが、“問題がないこと”を前提に成り立つ虚構 だった。
だから、問題は“存在してはならなかった”。
少女の死は、街のイメージを損なう。
学校の管理責任が問われる。
市長の施策に傷がつく。
警察の怠慢が露呈する。
それらすべてを避けるために、少女の死は、最初から「事故」と決められていた。
少女の母親が泣きながら訴えた「いじめの相談」は、警察の記録から消えていた。
学校に提出したはずの報告書は、どこにも残っていなかった。
同級生たちは怯え、教師たちは沈黙し、街全体が、少女の存在そのものを“なかったこと”にしようとしていた。
雪は降り続ける。
白く、静かに、すべてを覆い隠すように。
だが、その雪の下には、確かに何かが埋まっていた。
少女の声。
真実の断片。
そして、街が見ようとしなかった現実。
白川市は、今日も白い息を吐きながら、その沈黙を守り続けている。
_φ(・_・