死角の棲家(すみか)

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/23 📝 1,276文字 ✅ 全年齢

あらすじ

始まりは、首筋の付け根にある、ごく小さな「窪み」だった。 シャンプーを流している最中に見つけたその場所は、本来あるべき頭蓋骨の硬さが失われ、熟れすぎた果実のように、指先を吸い込む柔らかな「穴」へと変貌していた。

本文

始まりは、首の付け根にある、あの小さな「窪み」だった。

髪を洗っている最中、中指の先が、いつもより深くその場所へ沈んだ。

骨があるはずの場所に、数ミリの「隙間」がある。

押し返してみる。ぐに、と嫌な手応えがあった。

それは、熟れすぎた果実の皮を押し分けるような、

弾力のない、頼りない沈み方だった。

痛みはない。むしろ、そこを弄(いじ)っている間だけ、

脳の芯が痺れるような、ひやりとした心地よさが背骨を伝って降りていく。

翌日から、私の右手は私の意思を離れた。

仕事中も、食事中も。指先は飢えた獣のように、後ろ側の「穴」を探り当てる。

「触れてはいけない」と脳が警報を鳴らしているのに、指先は吸い寄せられるように深淵を求める。

ズルリ。

爪の先が、皮膚の層をあっけなく突き抜け、中へと滑り込んだ。

指が沈むのと同時に、耳の奥で、湿った薄い膜が破れるような

「パチン」という音が響く。

自分の神経を、自分の指が直接、なぞっているのだ。

そのたびに、視界の端が白く明滅する。

一週間後。

私は暗闇の中で、中指を根元まで押し込んでいた。

抵抗は、もう何もない。私の右手中指は、手首まで自分の頭の中に埋没している。

指先を少し曲げると、自分の「目の裏側」を内側から愛撫しているような、

耐えがたい快感と、全身の毛穴が逆立つような嫌悪感が同時に襲ってきた。

指を動かすたびに、頭蓋の裏側で「ガリ、ガリ」と爪が骨を削る振動が響く。

「ぐちゅ、ぐちゅり」

自分の脳を直接捏ねる音が、外の世界の音を完全に遮断していく。

そして、ついにその「最深部」に触れた。

指先を限界まで突き立てた先。そこには、ぬらぬらとした、

熱い「塊」が蠢いていた。

それは、私の指を迎え入れるように、湿った音を立てて開いた。

ガチリ。

指を噛まれたのではない。私の指が、何かの「器官」と、完全に噛み合ったのだ。

その瞬間、私は「見た」

目から入る景色ではない。後頭部の「穴」が捉えた、世界の、裏側の景色だ。

そこには三次元の壁も天井もなかった。

ただ、真っ赤な肉腫のような闇が広がり、

後頭部を裏返しながらこちらを覗き込んでいた。

凄まじい反転。

私の腕が、肩が、そして顔の皮が、内側から穴へと引きずり込まれていく。

視界がぐにゃりと反転する。

最後に耳に残ったのは、フローリングの床に、中身を全て吸い取られた「私の顔」だったゴムのような残骸が、濡れた雑巾のように落ちる音だった。

……ねえ。

今、この物語を読んでいるあなた。

さっきから、後頭部が妙に重苦しくないか。

スマホを覗き込み、首筋を無防備に晒している、その不安定な姿勢。

今、あなたの首筋の窪みは、体温を奪われ、ごく小さな「穴」へと変貌している。

怖がることはない。

まずは、中指を立てて、そっと自分の首の付け根を押してみるといい。

最初は、ほんの数ミリ、ズルリと沈むだけだ。

でも、あなたはきっと明日も、そこを確かめずにはいられない。

大丈夫。痛みはないから。

その代わりに、あなたは、一生忘れられないほど「気持ちいいこと」を知るだろう。

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作者について

みていぎ ぬる

みていぎ ぬる

みていぎ ぬるです。現在投稿ジャンルは『ホラー』書きたいジャンルは『BL』現在模索中。 今後の活動方針は、AI執筆で溜まっている小説を徐々に投稿していきたいです。

👥 フォロワー: 3人

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