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エピローグ 君は、幸福に呑まれる

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/25 📚 シリーズ: 観測世界は今日も廻る 📝 1,442文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

一度滅び、組み直された観測世界。そこには、神と天使の接触を禁じる冷たい規則だけが残されていた。喪失の果てに深淵となったリコルと、彼女へ最初の祈りを捧げた原初の天使カミル。返らない祈りはやがて愛へ変わり、その愛は世界の法則すら揺るがしていく。これは、救済と禁忌が分かちがたく絡み合う、神と天使の神話的恋愛譚。

本文

エピローグ 君は、幸福に呑まれる

朝の気配が、白い部屋の構文をやわらかく撫でていた。

夜の熱はまだ完全には引いていない。

羽根の重なった跡。

ほどけたしっぽの軌跡。

白い寝具へ深く沈んだ体温。

それから、静かに息づく、ひとつの小さな結晶。

私とリコルが、罪より深いところで結び合った証が、そこにたしかに残っていた。

同じベッド。

あの時と同じで、けれどもう二度と同じではない場所。

リコルは、私の腕の中で眠っていた。

小さな身体を丸めるようにして、長い黒髪を胸元へ流し、呼吸に合わせてしっぽの先だけがごくわずかに揺れている。

かつて深淵の底へひとりで沈み、誰の祈りも届かぬふりをしていた神が、いまはこうして、私の胸へ頬を預けたまま眠っている。

それだけで、胸がいっぱいになる。

私は静かに、その背中へ腕を回した。

羽根の付け根を、傷つけないように。

泣きつかれて眠った少女をあやすみたいに、そっと。

もう言葉はいらなかった。

愛していると告げた夜も。

名を呼ばれた夜も。

法を壊して、月影を宿して、それでもなお抱きしめ返してくれた夜も。

その全部が、もう体温の中へ沈んでいる。

だから私は、何も求めなかった。

赦しも。

罰も。

役割も。

観測者としての正しさも。

天使としての誇りさえも、今はどうでもよかった。

欲しいのは、ただひとつだけだ。

これからも、このひとの隣で生きたい。

それだけだった。

あまりにも長く、あまりにも遠かった願い。

けれどいま、その願いだけは、驚くほど静かに胸の底へおさまっていた。

リコルのまつげが、わずかに震える。

夢を見ているのかもしれない。

あるいは、起きているのに、起きないふりをしているのかもしれない。

どちらでもよかった。

言葉がなくても、この神は、ちゃんと感じてくれる。

私の腕のぬくもりも。

自分がもう独りではないことも。

今この瞬間が、罰ではなく、ようやく辿り着いた幸福なのだということも。

しっぽが、微かに私の腰へ寄ってくる。

そのささやかな動きだけで、私は泣きたくなる。

何百年も、何千年もかけて、やっとここまで来たのだと、身体のほうが先に理解してしまうから。

もう、孤独ではない。

もう、祈るだけでもない。

もう、神と天使という名前に、すべてを閉じ込めなくていい。

私たちは、手を取り合って歩いていける。

たとえ世界の法がそれを罪と呼んでも。

前世界の傷が、遠くからまだ波や風となって軋んでいても。

あの白すぎる月の夜を、完全に無かったことにはできなくても。

それでも今、私の腕の中へ戻ってきてくれたこのひとを、私はもう放したくなかった。

空の高いところでは、整え直された星々が静かに光っている。

あの頃、まだ人になりかけの端末たちがふらつく手で運んだ星屑も、ミゼーアが不機嫌そうに睨みながら守っていた夜空も、いまはちゃんとひとつの景色になっていた。

きっとどこかで、あの青年もまた、今夜の光を見上げているのだろう。

月影。

私たちの夜が、罪ではなく愛として結晶を結んだ、その証。

私はそっと目を閉じる。

額を、リコルの髪へ預ける。

もう、急がなくていい。

もう、疑わなくていい。

あの夜も、あの涙も、あの口づけも、全部、ここへ繋がっていたのだと知っているから。

静かな呼吸のあいだで、リコルがほんの少しだけ私の胸元へ顔を寄せた。

私はただ優しく、

その背を撫でた。

これからも、

言葉のないまま、

すべてを感じてくれるその神と共に――

私は、生きていく。

──これは、

神と天使が、ようやく手を取り合って歩き出した、

祈りよりも長い愛の記録。

【完】

次章【禁書:黒の苗床】編

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作者について

原初のモブ

原初のモブ

観測世界シリーズとか書いてます。 神話が好き。 ちょっとお試しで1話目の冒頭だけ公開しました。エログロナンセンス世界観なので全年齢向けに整えるの大変...🫠

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