第25話 シーズンの終わりと、新たな始まり。
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
王女の一言から始まる、異世界野球リーグ設立奮闘記 - 第25話 シーズンの終わりと、新たな始まり。
本文
優勝が決まった夜。
王都は眠らなかった。
大通りに人が溢れ、酒場の灯りが朝まで消えない。
歌があり、泣き声があり、笑い声があった。
それでも荒れはしなかった。
勝ったから、だけじゃない。
負けた側を、もう「敵」だとは呼べなくなっていたから。
⸻
簡素な表彰式がスタジアムで行われる。
過剰な演出はしない。
この国にとって、まだ野球は「始まったばかり」だから。
レガリアの選手達が順に呼ばれる。
拍手。
そして、歓声。
魔族やハーフの選手が前に出た時も、それは変わらない。
一部に戸惑いはある。
でも、ブーイングは起きなかった。
勝者の輪の中に、確かに存在している。
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準優勝。
ルメルーナ・ブリッジズ。
静かな拍手が続く。
その中心に、バルト選手が立っていた。
表情はいつも通りだ。
悔しさも、怒りも、外には出さない。
でも、拍手が止まらない。
誰かが、声を上げる。
「いい投球だった!」
それが、引き金になった。
「あんたが一番だ!」
「来年も投げろよー!」
バルトは選手少しだけ目を伏せ……そして、頭を下げた。
その仕草に、さらに拍手が重なる。
⸻
特別席でエステル様が胸を張る。
「うむ! 皆、よくやったのじゃ! 妾とても誇らしいぞ!」
「お腹は……大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃ! 今日は控えめにする!」
「さっき、屋台三つ回ってなかった?」
「あ、あれは……視察じゃ!」
「ふぅん?」
ナオがニヤニヤと私を見る。
お薬の用意をしておくべきだろうか。
⸻
夜が更け、喧騒が少しずつ落ち着いた頃。
私は城のバルコニーに出た。
冷たい風が心地良い。
遠くでまだ歌声が聞こえる。
誰のものか分からない。
でも、楽しそうだ。
エステル様が隣に来る。
「イオリ」
「はい」
「妾は……上手く出来ておったか?」
少し、不安そうな声。
「はい。とても」
「皆……ちゃんと、前を向いておるかのう」
「向いています。完璧ではありませんが……確実に」
エステル様は、翼を小さく揺らし、ふふ、と笑った。
「なら、良い!」
⸻
このリーグはまだ未完成だ。
差別は、消えていない。
圧力も、利害も、山ほどある。
でも。
同じ勝敗を数え、同じ一球に息を止め、同じ拍手を送った。
それだけで、世界は少し変わった。
私は夜空を見上げる。
次はドラフト。
次は新しい選手達。
この物語はまだ終わらない。
ただ……今日は。
一区切りだ。
そう思える夜だった。
ドラフト会場は思ったより静かだった。
歓声も、罵声もない。
あるのは紙をめくる音と、呼吸の気配だけ。
これがこの国で初めて行われる正式なドラフト。
誰も正解を知らない。
だからこそ、全員が慎重だった。
⸻
最初に呼ばれたのは魔族の少年だった。
名前はレイルさん。
まだ角も小さく、体つきも細い。
それでも、投球フォームは誰が見ても分かるほど、バルト選手を真似ていた。
「あの子、ずっとルメルーナの試合を見てたんだって」
ナオが小声で言う。
「バルト選手と言葉を交わした事もあるみたい」
発展途上。
即戦力ではない。
それでも、その視線は真っ直ぐだった。
⸻
次はハーフの少女。
セリナさん。
獣人とのハーフで、しなやかな脚を持つ。
内野を抜ける打球への反応が、とにかく早い。
走塁の初速は既にプロレベルだ。
「……怖がっておらんの」
「はい。観客席の視線にも慣れています」
それは、強さか諦めか。
衆目を集める存在である事は、確かだ。
⸻
三人目。
リザードマンの投手。
ザールさん。
左腕。
高い位置から、角度をつけて振り下ろす独特のフォーム。
湿気の多い日ほど、球威が増す。
「打者の目線ではいきなりボールが現れたように見えると思います」
「ほほぅ!」
エステル様がときめいている。
即戦力。
それも、対戦相手にとってはかなり厄介な。
⸻
四人目は獣人の少女。
リディアナさん。
外野手。
打球判断が良く、最初の一歩が速い。
「音で追ってるとな……?」
「はい。風切り音と、回転音で。あくまで本人の弁ですが……」
獣人ならではの感覚。
守備で試合を変えられる選手だ。
⸻
五人目。
オークの少年。
グロウさん。
体格は既に完成に近い。
バットを振る度に空気が震える。
荒削り。
変化球には、まだ弱い。
それでも、一発の破壊力は別格だ。
「……球場は壊れぬのか?」
「どうでしょう。流石に大丈夫……いや、メッセージボードは割れる、かな?」
胃が痛い。修繕費だって予算から出さないといけないのに。
⸻
人間の指名候補もいる。
カインさん。
王都出身の内野手。
堅実で、凡ミスが少ない。
マルタさん。
コーンウォリス育ちの捕手。
投手を落ち着かせるのが上手い。
派手さはない。
でも、チームには必要な存在だ。
⸻
会場の空気が少しずつ熱を帯びていく。
名前が呼ばれる度に息が詰まる。
指名されなかった者は俯く。
呼ばれた者は戸惑いながら立ち上がる。
私はその全てを見ていた。
「……始まりですね」
呟くと、エステル様が力強く頷く。
「うむ! 次の世代じゃ!」
その声には不安も迷いもない。
このドラフトは単なる補強じゃない。
この国が、何を未来に残したいかの宣言だ。
そして、物語は次の章へ進む。
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