其の九十五「あなたの人生を幸せにする本」
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。 全部で壱百八話。どれも短い物語です。 しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、 時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、 時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。 そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。 これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。 この話、本当なんです。
本文
私は図書館をよく利用します。
いつも自宅で記事を書いていると、時々息が詰まる気分になります。
そんな時、図書館に行き、本の香りのする静かな空間に身を置くのが、
私にとってとても良い気分転換になっています。
それはそれとして。
以前に「本にまつわる不思議な話」として、ある方からこんな話を聞いたことがあります。今日はそのお話を――
◇◆◇
この話を語ってくれたのは、地元の図書館長を務めるAさん。
彼の話によると、とある街の図書館に、一冊の不思議な文庫本があるといいます。
本のタイトルは「あなたの人生を幸せにする本」。
見た目はどこにでもありそうな、地味な背表紙の本だそうです。
ですが、この本には奇妙な噂があります。
――この本を読むと、本に書かれたとおりの“幸せな人生”を送れるようになる。
最初にこの話を聞いたとき、私は「よくある都市伝説だろう」と思いました。
しかし、話はそこで終わりませんでした。
この本を読んだ人たちの人生は、確かに“本に書かれたとおり”になっていった。
しかし奇妙なのはそこからです。
読んだ人全員が“幸せになった”という点は共通しているのに、
その“幸せの形”が、誰一人として同じではない。
ある人は結婚し、ある人は事業に成功し、
ある人は長年の夢を叶え、
ある人は家族との関係が劇的に良くなった。
それはまるで――本の内容が、読むたびに変わっているかのように。
ですが、図書館の職員に確認しても、その本は一冊しか存在しなかったのです。
ではなぜ、読んだ人の人生が全員違うのか。
その謎に挑んだ、この図書館に長年勤める司書のBさんは、
本を繰り返し、長い期間をかけて熟読し、その内容を要約してこう言ったそうです。
「この本の内容は、結局のところ一つの言葉に集約される」
その言葉とは――「心に従え」。
拍子抜けするほど簡単な言葉。それに加え、Bさんは続けてこう言いました。
「この本は、“その人が本当に望んでいる幸せ”を、読んだ瞬間に書き換えるのです」
つまり――本の内容が変わるのではなく、読む人の“心の形”に合わせて本が変わるというのです。
だから、誰が読んでも“本に書かれたとおり”の人生になる。
だが、その内容は人によって全く違う。
では、この本は一体何なのか。誰が書いたのか。なぜ図書館にあるのか。
その答えはBさんにも分からなかったそうです。
ただ一つだけ確かなことは、
この本を読んだ人は“自分の心に従った人生”を歩むようになるということ。
良い方向に進む人もいれば、もしかすると――心の奥底に潜む“望んではいけない願い”に従ってしまう人もいるのかもしれません。
そんな本の存在を、あなたは信じますか?
◇◆◇
この話を聞いたとき、私は最初、「同じ本でも読み手が変われば受け取り方も違うのだから当然だ」と思っていました。
しかし、続きを聞くうちに、首をかしげることになりました。
「本の内容が変わるのではなく、読む人の“心の形”に合わせて本が変わる」
まるで、人の願いを叶える本のようです。
そしてもし、この本を手にした人物に“望んではいけない願い”があった時――
何が起こるのかを想像し、背筋がゾゾゾとなりました。
「あなたの人生を幸せにする本」
この話、本当なのかどうなのか。
どこかの街の図書館にあると言われるこの本を見つけた方がいましたら、ご連絡ください。
作品統計
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