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第6話 日本 VS 外資

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/1 📚 シリーズ: 急がば回れじゃ遅すぎるっ ——ただし、笑いの裏には、それぞれの過去がある 📝 1,950文字 ✅ 全年齢

あらすじ

急がば回れじゃ遅すぎるっ ——ただし、笑いの裏には、それぞれの過去がある - 第6話 日本 VS 外資

本文

佐藤忠は戦前、いわゆる財閥系の中核企業であり、かつては世界最大手の繊維商社であった。

 本社ビルは、港区青山、外苑前駅前の一等地に自社ビルを構えている。

 大手町とはいえ間借りのオフィスで営業をしている孔明たちからしたら、老舗の看板だけで既にお腹一杯なんだが。

 正面玄関前に立ち、孔明と都は目の前のビルを見上げた。

 当然最上階までは見えない。

「さすがですね」

 都の声がかすれていた。

 と、隣の孔明を見るとポリポリ頭をかいて、

「受付のお姉さん、きっと美人だよね」

 などと言っている。

 この期に及んで、気になるのはそこですか。

 やっぱり、この男はいつも通りの通常運転だ。

「んじゃ、気合い入れて行きますか」

 孔明は息を深く吸い込み、両手でほほを叩いた。

 大きく息を吐き出すと、正面玄関に向かって一歩踏み出す。

 都はすかさず二人いる受付の内一人に名刺を渡し、案内を乞うた。

 緊張してるせいか、顔を上げることができないようだ。

 受付嬢は艶やかな笑顔を向け歓迎の言葉と共に、二人へ一礼を返す。

「ご案内いたします。こちらへどうぞ」

 カウンターから出てきて、気持ち長めに孔明を見つめ微笑んだ。

 見つめられた孔明は、マスク越しでも分かるくらいの笑顔で答え、残された受付嬢への気配りも忘れない。

「失礼」

 と会釈をし、去り際に片目をつぶって見せる。

 ああぁ、と都は右手で頭を抱えながら孔明の後を着いて行ったのであった。

 そりゃ、頭の痛いことで。

 教えられた十二階でエレベーターを降りると、その先に会場受付があった。

 都が二人分の受付を済ませば、いざ会場入りだ。

 孔明は再び深く息を吸い込み吐き出すと、マスクを外しオーラ全開で佐藤忠のプレゼン会場に乗り込んだ。

 会場内に入るや否や、普段の間抜けで優しいヒュウマネの姿は消え失せていた。

 その瞳は、怖いくらいに真剣なまなざしで一点を見つめている。

 視点の先は、佐藤忠の役員が占めるテーブル席だ。

 この会議室は十二階と十三階をぶち抜いて作られた、いわゆるホールのような作りになっている。

 これからこのホールの向こう、あの広いステージに孔明は独り立って戦うことになる。

 今回のプレゼンは、佐藤忠全社のネットワーク監視及びセキュリティシステムに関して、OUTECH日本を含め5社で争うことになっていた。

 OUTECH日本オーテックジャパン以外は、当たり前だが日本企業だ。

 最大手、MTTデータを始め名だたる企業が候補に挙がっている。

 すでに会場内は、アウェイの空気がすっかり出来上がっていた。

 佐藤忠幹部席には、MTTデータ社員を始め競合他社の視察らが立ち話をしていた。

 そのうちの一人、大柄な男がこちらに気づき片手を上げた。

 遠めでも分かるくらい、満面の笑みだ。

 都が怪訝に思い、孔明を見たら視線をずらした孔明がおざなりな態度で手を振っていた。

「ふんっ」

 珍しく、機嫌が良くない。

 都は気を取り直し、OUTECH日本の席を探した。

 誰かが、こちらに向かって両手を振って呼んでいた。

「あ、居た。オペレーターの人居ました」

 背もたれに「OUTECH日本様」と書かれたコピー用紙の貼られた席に。

 そこに一人座って、両手を上げて手のひらをひらひらさせている男が一人。

「お疲れっす。孔ちゃん、もうセット終わっちゃったんで、オレあっち行ってスタンバっときますよ」

 技術部の宇多村諒太うたむらりょうただ。

 濃い色のパーカーにジーンズという、いかにもな格好をしている。

 立ち上がり、二人に挨拶するとくるっと後ろを向き、ステージへ歩いていく。

 ジーンズの後ろポッケに台本を丸めて突っ込んでいた。

「うっす。うたちゃん、今日は頼むね!」

 と叫ぶ孔明にうたちゃんが片手を上げ、それをグルグル回す。

「まかせいっ!」

 その一言で孔明が笑顔になった。

「仲、良いですよね」

「一応、ボクら同期なんだ」

 途中入社が多いOUTECH日本では、同期という概念はない。

 でも同じ年の同じ月に入社したら同期だろう、と二人で勝手に言っているだけだ。

 そしてうたちゃんは、孔明のプレゼン組には欠かせない技術スタッフの切り札だった。

「前がMTTデータで、後ろがEMCですって。囲まれちゃってますね」

 一応気を使ってくれたのか、席のある列は全部空席になっていた。

「光栄なことで」

 自分たちの席に着き、孔明と都は準備に入った。

「都ちゃん、ボクたちって何番目だっけ」

「一番です」

「そっか~。うたちゃんが張り切るはずだ。完全にアウェイだなコレ」

「ですね。全く外資には期待してませんって言われてます」

「MTTさん、何人くらい来てる」

「名簿によると、たぶん……、10人じゃ下らないかもです。他もそんなもんです」

「上等じゃん。ウチの技術と、人員コスパ最高なの見せつけてやろうじゃん」

 そう言うと、孔明は緊張しているだろう都に微笑みかけた。

「この仕事必ず取って帰るよ、行ってくる」

「はい」

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作者について

井氷鹿

井氷鹿

成人済の物書き。 スコッパーしてます!

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